二つある方のどちらか
俺の知るゾンビという存在。
同じゾンビという言葉で言い表されるものの、それは二つの種類が存在する。
一つはクロエの言うような、ファンタジーな世界で霊やら魔術的な何かによって動かされているものだ。
こちらの世界に呼び出され、魔術や法術といったものが存在していることを知らされていたので、ハイランド王国を襲ったゾンビの大群はそういうものなのだとばかり思わされてしまっていた。
しかし、俺の知識の中にはそういったファンタジーなゾンビとは別の成り立ちから来るゾンビというものが存在している。
「生体兵器……」
映画やゲームの設定で、よく用いられてきた代物。
それはどこぞの科学者であったり企業だったりが故意に、あるいは偶然に発見したりするもので、大体がウィルス由来で生物の体や性質を作り変えてしまうというもの。
そのうち、人間が素体となっているものをよくゾンビと呼んでいた。
ウィルスの影響を受けて、半ば腐って崩れたような体や、少々の攻撃では行動不能にならない不死性。
それに兵器としての性質上、人を襲い、時としてこれを食らう様子からそう呼ばれるようになったのだろうが、これもまた間違いなくゾンビと呼ばれる存在なのだ。
現在、俺達が直面しているゾンビ達がこの生体兵器のようなものであるとするならば、これまでのことにも説明がつく。
こちらのゾンビとは違い、ゾンビの被害にあったものが確実にゾンビ化するのは霊などという不確かなものがとりつくからではなく、ウィルスに感染するため。
おそらくは感染力が極めて高いウィルスがかみつきやひっかきといった行為によって体液感染しているのだろう。
ついでに。
本当に死んでいるにしては妙に血やら何やらが派手に出るなと薄々思ってはいたのだが、霊が死体を動かしていたのであれば血やら何やらは固まってしまっていたり、硬直してしまっていたのだろうがウィルスによって体が動かされていた場合は詳しくは分からないが、疑似的な生命活動をウィルスが担当するようになるとかなんとかで、完全に死んだ状態ではなくなっているらしい。
ここまでの情報をなるべく早口でクロエとエクレールに伝えてみたところ、二人はそろってきょとんとした表情になった。
ファンタジー畑の人間に、いきなり現代パニック映画の話をしても理解してもらうのは難しいかと頭を抱えていると、俺の話をなんとか理解しようとしてなのか難しい顔をしながら眉間を指で押さえていたクロエが言う。
「つまり、死霊ではなく寄生虫みたいな何かによるゾンビ禍だということですか?」
「おお、通じた」
「そんな未開の地に住まう原住民とのコンタクトが成功したような顔をされるとなんだかむっとしますが……それはさておき」
クロエは眉間に当てていた指でそこをもみほぐしながら言う。
「ソーヤさんの推論が正しいものとして。ゾンビの多くが本城を取り囲んだ理由が分からなくなります」
クロエの言い分に俺は、少し前の記憶を思い起こす。
確かこの世界のゾンビは大きな力というものに誘引される習性があり、勇者や聖女といった存在のいる本城へ強く引き寄せられているのではないか、と言ったようなものだったはずだ。
この王国を襲っているゾンビが俺の言うような生体兵器だった場合、本城へ奴らが引き寄せられている理由がなくなる。
「それについては説明はできる」
しゃべりながらも俺はちらちらと王国軍対ゾンビ共の戦況を見守っている。
今のところはゾンビ共の遅さが王国軍側にいくらか有利に働き、圧倒的な数の差をどうにかカバーしているように見えるのだが、このバランスはいつ崩れてもおかしくないものだ。
逃げ出すタイミングを間違えれば、俺達もゾンビにかじられた挙句に彼らの仲間入りをする羽目になってしまう。
「説明できるのですか?」
「あぁ、多分。ハイブリットになったんだろう」
「なんですかそれ?」
殺された者のほぼ全数がゾンビ化していると聞かされた時に思いついた話だ。
死霊によるゾンビ化と、ウィルスによるゾンビ化。
そのいずれかが、あるいは両方が発生することにより、どちらか片方しかなかった場合に取りこぼすことになっていたものまでしっかりと取りこぼすことなく、全数をゾンビ化してしまっているのではないかと。
そしていずれかの原因でゾンビ化した個体に、もう一つに原因が重複することによって王国を襲っているゾンビ共ができあがったのではないかと思うのだ。
「推論でしかないが、当たっていたとしたらこれは厄介だぞ」
ターンアンデッドを食らって死霊部分が浄化されてしまったとしても、ウィルスの部分が生き残っていればそのゾンビは活動が可能。
逆に何かしらの方法でウィルスを駆逐することができたとしても、死霊がとりついたままなのであればやはりゾンビとして活動が可能なのだ。
「速やかに排除する方法は?」
相手の厄介さを想像したのか、険しい表情をするエクレール。
「ターンアンデッドのような特効薬的なものを期待しているのであれば、そんなものはないとしか言えないな」
ファンタジーなゾンビであれば、ターンアンデッド一発でばたばたと倒してしまうことができたのだろう。
しかしウィルス由来のゾンビが相手となると、そんな便利な方法は存在しない。
あるとすれば、ワクチンを散布するような方法かと思うが、そのワクチンがこの世界には全く存在していないのだ。
作れと言われても、そんなものをどうやって作ったらいいのやら皆目見当もつかない。
「強いて言うのであれば、頭を落とすか潰すかだな。もっとも死霊系だとそれで動かなくなるのか疑問ではあるが」
ウィルス由来なのであれば、体の制御を統括している脳さえ破壊してしまえば活動はできなくなるはずなのだが、死霊系だと頭がなくなっても動き出しそうな気がする。
確実なのは対象の体をばらばらにしてしまうことだろうが、それを実行するには敵の数が多すぎて手間がかかりすぎてしまう。
「私では力不足ですね」
ゾンビを物理的に処理するには確かにエクレールは力不足だろう。
「死霊つきでも頭部は致命傷になると思います」
クロエが言う。
「いくら死霊でも憑依では頭のない体は動かせませんし、動かせたとすればそれはサイコネキシスかポルターガイストの類でゾンビではありません」
「ウィルス由来だとすると、殺されなくても多分、噛まれただけで感染する」
「それは厄介ですね」
ファンタジーかパニックホラーか。
いずれか片方だけならばまだ良かったのだが、二つが合体したハイブリットゾンビは考えれば考えるほど、相手にするのが厄介だ。
体液感染の可能性まで考え出すと、近寄るのもためらわれるくらいの厄介さである。
「あー……俺がもし、妙な言動だの動きだのをし始めたら、迷わず始末しろよ?」
「え? ソーヤさん?」
「俺は奴らと嫌という程に近接戦闘をやってる。当然、血やら何やらも浴びているからもう感染していたとしても不思議じゃない」
「噛まれていなくとも感染するんですか……?」
「可能性はある。気をつけろよ。目や口に奴らの血が入ったらおそらく感染する。いわゆる病気みたいなもんだ」
ウィルス由来のゾンビに噛まれると感染するのは、傷口にウィルスを含んだゾンビの唾液やら血やらが付着することにより犠牲者の体にウィルスが侵入するからだが、要は体内なり粘膜なりにゾンビの何らかの体液が付着すればいいだけなので、噛まれなくとも感染してしまう。
俺などは文字通り手の届く範囲でゾンビ共と相対していたので、かなり高い確率でもう感染してしまっているかもしれなかった。
「病気のようなものなのですか?」
「ウィルス、というか寄生体の方はな」
「それでしたら。起動、キュア・ディージーズ」
クロエが俺とエクレールに手を触れさせて魔術を行使する。
淡い光の膜が体を包み込むのを見ながら俺は尋ねた。
「何の魔術だ?」
「病気を治す魔術です。同名の法術も存在します」
「病気を治す? どんな病気だ?」
「病気でしたら全般的に。大体はこれで治ります」
「病気全般? 大雑把すぎないか?」
「それだけ魔術は偉大だということですね」
そう言って胸を張るクロエに、俺はただ呆れるばかりであった。
面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。
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