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予想していなかった展開

「仮にここを切り抜けられたとしても、だ」


 考えをまとめるためには時間が必要で、俺はゆっくりと言う。


「どこか避難先はあるのか?」


「陛下達は王都にもっとも近いラグーン砦を目指すおつもりかと」


 クロエが言うには、そこには千人程の兵士が駐留していて、一年分の蓄えがあるらしい。

 そこへ合流し、王国各地に配置されている兵力を結集させ、王都を取り戻すという算段だろうとクロエは言う。


「そこを目指すのはやめておこうか。勇者達とは別行動をしたいし」


 勇者召喚のおまけ、くらいにしか思われていない我が身である。

 露払いやら何やらにこき使われる未来しか見えない。


「そこ以外というと……」


「クロエ様の所業地がありますね」


「そういえばそうですね」


 エクレールの言葉にクロエが頷く。

 宮廷魔術師であるクロエは王都の近くに小さい領地を持っているのだと言う。

 町が一つと周辺の農地くらいという本当に小さな領地なのだが、この町というものが砦に準ずるくらいの造りになっているらしい。


「何で?」


「外敵から守るための設備に財力を投入していたら、いつの間にやらそんな感じに」


 町の防備に私財を投じていたとは、クロエはいい領主だったようだ。


「王都の兵程ではないですが、それなりの装備の兵士が大体百名。それと三年分くらいの備蓄がありました」


「それは大したもんだ」


 国からの支援なしで、私財のみを投じてそれだけのものを揃えたのだというクロエに、称賛を送る。

 他に使い道がなかっただけだと照れるクロエだが、それだけの兵力と蓄えを用意するには並大抵の金額ではないものを注ぎ込まなければならなかったはずだ。


「そこを目指そう。クロエの領地なら、一番偉いのはクロエだろ」


「それはそうですね」


「ならそこがいい。自分の命をあぁいう手合いに任せたくはない」


「私ならば良いと?」」


「召喚した責任を取ってくれ」


 当然だろうと俺が言うと、クロエは少々不満げな顔をしながらもそうですねと頷く。


「それではこのまま、こっそりと抜け出すとしましょうか?」


「そう言うわけにはいかなそうな気配だ」


 夜明けと共に討って出るという王の言葉は、まだ時間的余裕があるものだとばかり思っていたのだが、実際には全く余裕というものが存在しない時間指定だったらしい。

 いつの間にやら騎士や兵士達が勇者達を先頭にして整然と隊列を組み、貴族や王族達を守るような陣形を取っていたのだ。

 そして外へと通じる扉の所では、数人の兵士が扉のかんぬきを外そうとしている。


「あれに参加しなくとも全く気付かれていないところからして、俺達って本当に物の数に入っていないんだなぁ」


「感心してます? それとも呆れてます?」


「両方。ところで奴らの行動の予測とかできるか?」


「定石通りなら、まずは聖女と神官長によるターンアンデッドの行使から始まるかと」


 神官が対アンデッド戦における最大戦力であると評される理由が神に奇跡を祈ることによってアンデッドのような不浄の存在を消し去る力を有していることだ。

 抵抗に失敗すれば、どんな強力なアンデッドであったとしても瞬時にチリと化してしまうし、抵抗に成功したとしても力の行使を行う際に発せられる光が、アンデッド達の体を焼くらしい。


「しかも神に祈るだけですので、力の消耗はほぼなしというアンデッドからしてみたら何だかズルをされているように見えるだろう術です」


「ふむ」


「魔術師目線からしても、対アンデッドに限られているとは言え、あれは本当にずるいと思います」


 魔術師も魔術を行使することによって大量の敵を焼いたり壊したりすることができる。

 しかし、力の消費効率が全くお話にならないくらいにターンアンデッドの方が優れているのだとクロエは不満そうに言う。


「ターンアンデッドで敵の出鼻をくじいて、そこに騎士や兵士を突っ込ませて包囲の輪を食い破り、そのまま逃走という感じでしょうね」


「手堅そうだな」


「定石ですから」


「騎士や兵士達がゾンビ共との戦闘に入ったら、そのどさくさに紛れて逃走か」


「ひたすら隠れ続けて、皆がいなくなってからこっそり抜け出す手もありますが」


 エクレールが行った提案を吟味する。

 エクレール一人だけであるならばかなりの確率で成功しそうな案ではあるが、クロエがそういったことに長けているようには見えず、俺に至っては完全に素人だ。

 兵とゾンビ共の両方をやり過ごして逃げ出せるとは、どれだけ状況を楽観視してみても無理なように思えた。


「俺はどさくさに紛れるのに一票」


「私はソーヤさんに票を入れます」


「選挙じゃないんだが?」


「提案を支持しますという意思表示なので、良いのではないでしょうか?」


「選挙自体は分かるのか」


 王政は代々続く血統重視であることが多いように思う。

 ハイランド王国も王家などと言う代物を抱えている以上、王座は世襲のものであり、選挙などというシステムからは縁遠いものだろうと思っていたのだが、以外にも選挙の存在とシステムは知られていたようだ。


「かなり前に召喚された方が広めようとした異世界の政治の話ですよね」


「政治に限ったわけじゃないが」


「そうなんですか?」


「まぁな。ちなみにそいつはどうなったんだ?」


「世間を騒がせた罪で捕縛され、処刑されました。確か火あぶりです」


 さらりと言うクロエに、まぁそうなるだろうなと思いながら俺は内心でげんなりする。

 選挙で代表者を選出する方法は、王族や貴族からしてみれば自分達の持つ権力などを根底から揺るがしかねない代物だ。

 そんなものを広めようとしていることが知られれば、眼の色を変えて排除しようと貴族達が動き出すことは当然のことであった。


「召喚された奴らの末路って、総じてろくでもないんじゃないか」


 中世時代辺りの感覚に現代の話を持っていけば、混乱することは当たり前の話の流れで、血だって相当流れることだろう。

 勇者達とて、今は明確な敵がいるからいいようなものの、これがいなくなってしまった後では持て余されるに違いない。

 王族や貴族からしてみれば、自分達と違った価値観を持つ者が、自分達では手に負えない力を持っているのだ。

 そんなものに身の回りをうろうろされたのでは安心していられるわけがない。

 むしろ積極的に排除に回ったとしても全く不思議ではないのだ。


「ソーヤさんは大丈夫です」


 俺の心配を他所に、クロエが何故か自信たっぷりに言い切る。

 何か妙案でもあるのかと尋ねてみると、クロエは声を抑えつつも自信ありげに自分の胸をポンと叩きながら言った。


「私がきちんとお世話をします」


「それは……」


「召喚主として当然のことです。この私に任せてください」


「それはペット枠?」


「ソーヤさんは私をどういう目で見ているんですか?」


 自信ありげな態度から一変して、半眼でこちらを睨みつけてくるクロエからそっと視線を外したのとほぼ同時に、外への扉が開け放たれた。

 濃密な血と腐敗の臭いが外からの空気としてまず流れ込み、耐えきれなかった者達がえずいたり吐き出したりする中、その臭いの元となったゾンビ共がわらわらと開け放たれた扉から中へと入りこんでくる。


「聖女殿! 合わせなされっ!」


「わ、分かりました!」


 ゆっくりとだが大量に入り込んできたゾンビ共に対し、聖女と神官長とが神へ祈りを捧げながら前へと進み出る。


「勇者殿と剣聖殿は大技の準備を! 他の者達は討ち漏らしを始末するのだ!」


 騎士団長の指示で勇者と剣聖が剣を抜き放ち、兵士や騎士がそれぞれの得物を構える中、迫りくるゾンビ共へ聖女と神官長とがタイミングを合わせて奇跡の力を放つ。

 清浄さを感じさせる白い光。

 二人の聖職者から放たれた光は侵入してきたゾンビ共を包み込む程に広がり、そしてゆっくりとその光が消えた後には。

 光に包まれる前と全く変わらないゾンビ共が、ゆっくりとだが確実にその数を増やしながら前進し続ける姿があった。


「は?」


 誰かが発した間の抜けた声。

 そんな声など全く無視して進んでくるゾンビ共。

 腐れ崩れた手がその目の前でぶらぶらと揺れ、鼻をつく臭いが耐え難いものになってようやく、聖女が小さな悲鳴を上げた。

 その小さな音。

 それこそが崩壊のきっかけとなったのであった。

面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。


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