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彼女は止められない

 結局エクレールは、そんなに持ち出してどうするんだろうかと首を傾げたくなるくらいの数のショートソードをスカートの中へ収納してしまう。

 スカートの中に吊り下げたり、足に巻きつけたりしているのであれば重さで動けなくなってり、スカートがずり落ちてきたりしそうなものだが、めくり上げたスカートを下ろしてしまうと、とても中に大量のショートソードが収納されているようには見えない。

 実に不思議な話だが、中がどうなっているのやらとまくって確認してみるわけにもいかない場所だ。

 ちなみに俺は手袋だけをもらうことにし、クロエは短剣を二本だけ腰に吊るしている。


「それでは移動します。大丈夫だとは思いますが、ゾンビの侵入を許してしまっているかもしれませんのでお気を付けを」


 時間帯は夜。

 頼りになる明かりはクロエとエクレールが作り出した魔術の明かりのみ。

 状況は全くよろしくない。


「本城は全てを閉ざし、陛下や貴族、召喚された皆様は謁見の広間に集められているはずです」


「そこは広いんだよな?」


「はい。簡単な魔術や剣術の手ほどきを行えるくらいには」


 呼ばれたばかりの召喚された者達は戦い方というものを全く知らない。

 魔術師の扱う魔術や、神官の使う法術というものへの知識も全くないので、それらを急ピッチに詰め込んでいるのだとエクレールは言う。


「そう上手くいくもんか?」


 エクレールの先導で暗い城内を移動しながら俺は疑問を口にする。

 詰め込むといっても大した時間を費やせるわけではなく、しかもほとんど実践できないような状態で、さぁやってみろと言われても無理じゃないかと俺は思う。


「騎士団長や宮廷魔術師、城仕えの神官などがフォローに入っておりますから」


「多少使えれば、後は現場の経験から学べ、ということなんでしょうね」


 俺の疑問に対してエクレールとクロエがそんな答えを返してきたいが、とても上手く事が運ぶとは思えない話だ。

 思えない話ではあるのだが、今はそれが頼りだというのもまた事実であるのが嫌になる。


「なるようにしかならないか」


「そんなに悪い賭けだとは思えませんが」


 クロエの言葉はどことなく楽観的で、何を根拠にそんな甘い見通しをしているのかと思う。

 心当たりがあるとすれば、召喚された三人というのが勇者や聖女、剣聖だったという情報くらいしかない。

 つまりそれらの名前はクロエが状況を楽観視してしまうくらいに強力な存在につけられるものなのだろう。

 そこまで考えていると自分もその召喚された側の人間であるのだが、自分にもそんな大層な名前がつけられているのだろうかと思ってしまった。

 それをクロエへ尋ねてみると、クロエはきょとんとした表情で俺を見る。


「えーと、何かこう。声みたいなものが召喚された時に聞こえてきたりしませんでしたか?」


「いや、全く」


「では銘無しですね」


 クロエ曰く、勇者や聖女のような銘が召喚された者につく場合は、召喚された時にそれを告げる声が聞こえてくるのだと言う。


「それは誰の声なんだ?」


「さぁ? 私は聞いたことがありませんので」


 不思議な話ではあるのだが、これに関しては今のところ例外が発生したことはないのだという。

 そしてこのお告げがなかった召喚された者を、総じて銘無しと呼ぶらしい。


「つまりはハズレくじというわけだな」


「そ、そんなことは……少なくとも私はソーヤさんに助けてもらっていますし」


 そうですよねと同意を得るようにクロエがエクレールへ目を向けると、エクレールはこくりと頷いた。


「少なくとも召喚されてすぐに戦うことができ、かつ実戦に耐えうる技術と精神の持ち主をハズレと呼ぶ気にはなれません」


「その辺はただの慣れだからなぁ」


 何かしら強力な恩恵を得ることと、実戦に耐えうる能力とは全く別物である。


「それで俺達は今、どこに向かっているんだ?」


 目的地が謁見の広間だということは分かっている。

 しかし、どうにも案内されているルートがそこに向かっているようには俺には思えなかったのだ。

 謁見を行う場所であるならば、もっと大きな通路を通って堂々と入る場所でありそうなものなのだが、俺達が現在通っているルートは通路がかなり細く、あまり使われているようには見えないルートである。


「敵の侵入を防ぐために、主要な通路は全てふさがれています」


「なるほど」


 エクレールの説明に俺は頷く。

 つまりは回り道をしているということだ。

 ゾンビ共の強みの最たるものはその数だと思うのだが、細い通路ではその数の有利を生かすことができない。

 故に、外と行き来ができるルートは今通っているような細い通路に限定されているのだろうと思っていると、エクレールがぼそっと呟く。


「ここは私が、クロエ様を探すためにこっそり開けたルートです」


「何だと?」


「仕方がないではないですか」


 聞き流すことのできないエクレールの呟きについて問いただしてみると、呆れたことにこのメイドは完全に封鎖されたルートの一つを独断で開放してしまったらしい。


「クロエ様の所へ行くためには必要な措置であった、と断言します」


 全く悪びれた様子もなくそう言い放ったエクレールなのだが、まぁまぁとんでもないことをやらかしてしまっている。

 これではホラー映画などで、外に取り残されてしまった愛犬を救うために避難所のバリケードを壊してしまう極めて迷惑な中年女性と何ら変わりがない。

 おそろしいことにエクレールが行ったこの一手のせいで、目的地が既にゾンビ共に占領されてしまっている可能性まで出てきてしまうのだ。

 忠誠が高いからこその行動ではあるのだろうが、周囲に与える影響というものを少しは考えて欲しいと提言すると、クロエは申し訳なさそうに苦笑し、エクレールは知ったことかとばかりに知らんぷりをする。

 エクレールの気持ちについては多少理解することができなくもないので、それ以上の追及はしないことにした。


「まぁ周囲の状況を見る限りは大丈夫なようだが」


 エクレールが作ってしまったルートからゾンビ共が侵入してしまっていた場合、それと分かる跡が残っているはずだった。

 何せゾンビ共はとても臭うし、生前に受けた傷や、ゾンビになってから腐れ果てた部分なんかが床や壁を汚す。

 何体かでも入り込んでしまっていれば、それと分かるはずなのだ。

 しかし、そういった跡が見受けられない以上は、多分大丈夫なんだろうなという想像がつく。


「油断はできないけどな」


 本当のところは自分の目で確認してみるまでは分からない。

 行ってみたら、やっぱりだめでしたということとて十分にあり得るのだ。


「気を付けてくださいね、エクレール」


「はい、分かりましたクロエ様」


「それで、あとどのくらいで目的地に着くんだ?」


 外から見た本城はかなり大きな建物であった。

 さらに本来のルートが使用できず、回り道を使用しているとなると、その分だけ遠回りをしているはずではあるのだが、いずれはゴールが来るはずである。


「もう少しで謁見の広間の上に出るはずです」


「上?」


 多少傾斜のある通路を通ったりした記憶はあるのだが、いつのまにやらかなりの高さを登らされていたらしい。

 しかし謁見の広間本体ではなく、その上になど行ってどうするつもりなのだろうかと思っていると、クロエがかなり嫌そうな顔をしながらエクレールへ言う。


「エクレール。貴方もしかして天井裏を抜けてきたんですか?」


「はい、クロエ様。通常の出入り口は全て閉じられておりましたので、外へ出るためには仕方なく壁を登って天井からその上の階へ出ました」


 メイドってどんな職業だったっけとぼんやり思う。

 俺の知る限りでは、料理や洗濯や裁縫といった作業を主人の代わりにこなす職業だったように記憶しているのだが、いつから忍者の代名詞のようなことをするようになったのだろうか。


「異世界だし。そういうのが普通だっていう世界もあるのかもな」


「ソーヤさん。私から見ても彼女はそれなりに異常ですからね」


 そうなのかと問いかければ、そうなのですと頷くクロエに若干不満げな顔を見せるエクレール。

 一体こいつは何者なのだろうかとエクレールのことをしげしげと見つめた俺なのだが、次の瞬間、少し離れた場所からだと思われる少々くぐもった衝撃音に思わずびくりと体を震わせてしまったのだった。

面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。


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