本城への一本道
「それで話を戻すんだが」
いつまでもそっぽを向いたままではいられず、俺はエクレールに質問を行う。
「まずこの隠し通路。まだ使えるのか?」
話が本当であるならば、本城への直通である。
本城とここ以外に出入口がないのであれば、ゾンビ共に侵入されている可能性は低く、これを使わない手はない。
ただ、隠し通路というものは大体の場合、敵などに使われることを防ぐために、少ない手まで通路自体を使えなくしてしまう細工がされているものだ。
何代か前の王妃とやらも事が露見した時のために、通路を使えなくする手段を用意していたとしても何もおかしくはない。
「クロエ様の動向が不確定でしたので、潰す手段は実行しておりません」
「私の動向ですか?」
クロエからの問いかけにエクレールが頷く。
「城外へ脱出されるのであればこの通路はふさがなければなりませんし、本城へ戻られるつもりならば、この通路は使えた方がよろしいでしょう?」
「本城の奴らは脱出して来ないのか?」
本城にどれだけの背根力が残っているのかは分からないが、ゾンビ共が本城に集中している状態で、本城に残り続けるというのはあまりいい手だとは思えない。
ゾンビ共が何を目的としているのかは不明だが、本城を脱出して外からゾンビ共を攻撃して数を減らし、どこか安全な場所を探して逃げながら、追いかけてくるような個体があるのであればこれを各個撃破した方がまだ望みがあるように思えるのだ。
しかしこれにはクロエもエクレールも首を横に振った。
「陛下が城を捨てられる時は王国が終わりの時です」
「クロエ様の意見はどうかと思いますが、いずれにしても召喚した三人の異世界人がある程度は戦えるようになりませんと移動もままならないかと」
いくら強い力を持っていたとしても、その使い方が分からなければ宝の持ち腐れどころか単なるお荷物になり果てかねない。
故に本城では三人の召喚された者達に対して、力の使い方や戦う覚悟などについてのレクチャーを行っているのだとエクレールは言う。
なんとも悠長な話だなとは思うものの、使い物になればその三人は絶大な戦力になることが分かっているので、これを放置しておくことはできないという理屈は分からないでもない。
「じゃあどうするんだ?」
「陛下がご無事であるならば、私は本城へ行く必要があります」
宮廷魔術師という肩書がある以上は、雇い主がまだ存命であるならばその指示を仰がなくてはならないと言うことだろう。
「できればソーヤさんには、引き続き私に同行して欲しいのですが」
「他に選択肢もなさそうだしな」
クロエの声音には、俺の判断に任せるといったような感じがあったのだが、ここで放り出されても俺一人でゾンビ共だらけの王都から脱出できるとは全く思えない。
さらに、現在調整中であるとはいえ、強力な戦力になるであろう召喚された者達が三人も本城にいるというのだ。
これと合流しないという手はない。
「では、隠し通路を使って本城へ移動するということで。エクレール、案内をお願いします」
「お任せください。では、こちらへ」
庭師の小屋の床に空いた穴へエクレールがひらりと飛び込む。
穴を覗き込んでみれば、高さは目測で三メートルほどであり、飛び降りるにはちょっとだけ高いかな、と思う程度であった。
この高さをエクレールは難なく登って見せたわけなのだが、足場も何もないように見えるここを、どのようにして登って見せたのかちょっとだけ気になる。
「クロエ様。こちらで受け止めますので、ご心配なく」
俺と同じく穴の中を覗き込んでいたクロエが尻込みするような気配があり、それを察したのか先に降りていたエクレールが両腕を広げてクロエを待つ。
「え、えっと」
「背中、押してやろうか?」
「絶対に押さないでくださいね!」
これはよく言われるフリという奴だろうかと考えたが、クロエとの関係が破綻状態になってしまってはこちらの命に関わってくるので、ここは無難に見守ることにした。
そうこうしている間に覚悟が決まったのか、クロエがえいとばかりに穴の中へ飛び込み、これをエクレールが下でしっかりと抱き止めた。
「あ、ありがとうございますエクレール。エクレール? あの……もう大丈夫ですよ?」
真正面からしっかりと抱き締められた状態でクロエが戸惑ったような声を上げるが、エクレールは無言のまま。
「エクレール? ちょっと、聞いていますかエクレール。もう大丈夫なんですからちょっと離して下さい」
「……」
「エクレール!? 聞こえていますよね!? エクレールさん!?」
何をやっているのやらと思いながら俺はひょいと穴の中へ飛び込む、危なげなく着地を決める。
真正面からクロエに抱きつき、その胸元へ恍惚とした表情のまま頬を擦り付けているエクレールの方を見ないようにしながら穴の中を観察。
穴の大きさは見える限りではずっと同じ大きさで、特に壊れたり崩れたりしているような様子は見受けられない。
ただ明かりの類は全くないので、視界はそれ程見通すことができず、細かな様子まで見ることはできなかった。
「離して! 離して下さいエクレール! ソーヤさん、助けてください!」
「何をやっているんだお前達は?」
ついに俺に対して助けを求め始めたクロエの声に、俺は呆れて溜息を吐く。
本城までのルートが確保できたとは言っても、俺達が危険な状況下にあるということは全く変わっていないのだ。
「邪魔をしないで頂けますか? 古来より百合の間に入り込もうとする男性は柱に首を吊るされるのがお似合いだそうですよ」
「そうなのか?」
二重の意味でクロエに尋ねてみると、クロエはなんとか自分からエクレールを引きはがそうとしながら答えた。
「その質問、私が百合なのかと男性が首を吊るされるのがお似合いなのかどうなのかということを同時に尋ねていますよね!?」
「質問の意図が正しく伝わっているようで何よりだ」
「答えは両方とも、否です!」
どうにかしてエクレールを引きはがそうとし続けているクロエなのだが、エクレールは巧みに立ち位置や抱きつく場所を変えてこれに抵抗している。
俺の見立てでは、身体能力においてエクレールの方が圧倒的に有利に見えるので、おそらくクロエの力と技量とではエクレールを引っぺがすのは無理だろう。
「とりあえず、俺は本城を目指して移動しようと思うんだが、二つ尋ねたい。一つは一本道か? もう一つはこの穴はどうやってふさぐんだ?」
下手に手を出してエクレールの恨みを買うというのも馬鹿らしい。
必要な情報さえ手に入れば、二人のことは放置しておくのが最上であろうと思ったのだが、俺の質問を聞いたクロエが見捨てられた犬のような気配を醸し出し始めたので、少しだけ罪悪感を覚える。
これはふざけてじゃれあっているという域を超えているのではないかと考え、それならば少々強引かつ痛い方法でもってクロエを救出してやるべきかと一歩踏み出しかけた瞬間、エクレールが弾かれたようにクロエから離れ、解放されたクロエがよたよたとこちらへ歩み寄ってきて俺の背後へと隠れた。
「失礼致しました」
直立状態から深々と頭を下げるエクレールに、握りかけていた拳を開く。
「クロエ様が私の腕の中に飛び込んでくるという状況に、思わず我を失いました」
「大丈夫かそれ?」
よくこんな危険人物を身の回りに置いているなと背後を振り返れば、乱れてしまった衣服やら髪やらを直しながらクロエが呟く。
「メイドとしては優秀ですので」
「お褒めにあずかり恐悦至極です」
「それ以外は問題だらけだったりするんですが……」
「お褒めに……」
「褒めてないですからね!?」
きっぱりとそう告げるクロエに対し、何を言われているのかさっぱり分からないとばかりにエクレールが首を傾げる。
その辺りは俺が触れるべきではない話題であろうと聞き流すことにして、俺は先程の質問を再度エクレールにぶつけた。
「ここは一本道です。途中に罠のようなものは設置されていません。元々王妃が使うための隠し通路ですので、あまり面倒な要素はないようです」
「この穴は?」
頭上に空いている穴を指し示す。
「穴の下から人がいなくなれば勝手にふさがります。そうなるように建材などに魔術が構築されておりますので」
何もしなくていいらしい。
今はとても助かる話なのだが、これが不義の逢瀬に使用されていたらしい代物だということを考えると、税金でろくでもないものを作ってるんだなと思ってしまうのだった。
面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。
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