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魔術師の火力

 それにしてこの支援魔術というものは凄い。

 一度これを経験してしまうとこれ無しで戦うことがとても心もとなく感じてしまう。

 今、俺の目の前では女子高生の遺体から発生したクモだかサソリだか分からないような化物が一匹。

 銀色に輝く巨大な左右のハサミを振り回したり、突き刺そうとしたりしている真っ最中なのであるが、掠っただけでも大けがになりそうなそれを全く無傷のまま回避し続けられているというのも、ひとえにクロエからもらった支援魔術のおかげだと言えた。

 そんなことを考えていたら化物のハサミが地面を勢いよく叩き、その振動でこちらの体勢がほんのわずかにだが崩れる。

 本来ならばこれは、そのままデッドエンド直行の大きなミスだ。

 しかし支援魔術の影響下にある俺は、慌てることなく騒ぎたてることもなく、迫ってくる銀色のハサミを見つめながら崩れてしまった体勢を立て直し、化物の攻撃範囲をよく見定めてからその攻撃範囲の外へ立ち位置を変えると言った余裕のある行動が可能となっていた。

 結局、ここぞとばかりに振り降ろされた化物のハサミは空を切り、あまりに大振りだったために逆に自分の姿勢が崩れることとなった化物へ俺は接近。

 そのクモのような腹だと思われる場所へ掌を当てる。


「せーのっ!」


 気合一発。

 踏み込みと同時に放った一撃はまずまずの出来だったにも関わらず、化物の体をわずかに揺らす程度に留まった。

 お返しとばかりに振り回されたハサミだったが、その攻撃は放たれた時には既に化物の間合いの外へと逃げ出していた俺の体を捉えるには至らない。

 何と言うか、化物の動きは巨体なせいなのかとても遅く、今のところはほぼ一方的にこちらが攻撃し続けることが可能となっている。

 だがしかし、俺の放った攻撃は一撃たりとてまともに、化物の体へダメージを与えられているようには見えないのだ。

 今しがた放った攻撃は、元々は鎧越しに相手の体へダメージを通すというものであり、きれいに決めることができたのならば全く外傷のない、眠っているような死体を作ることが可能であると伝えられている攻撃だ。

 そんな一撃を食らったというのに、化物の動きは遅いながらも全く鈍らない。

 蚊に刺された程のこともないとばかりにすぐ反撃に転じてくるのだから、相手をさせられている側としてはたまったものではなかった。

 せめて少しくらいは疲労するなり、傷の痛みを感じるなりで動きに変化を見せてくれないことにはこちらのやる気も起きなくなってしまう。

 しかしちょっとでも動きを止めて相手の攻撃をこの身で受け止めるようなことになれば、一発で致命傷をもらいかねない危険性が常につきまとっているのだ。

 やる気云々で一手でも間違えた行動をとれば、一瞬でこちらの負けが確定してしまう。

 救いがあるとするならば、戦いに参加することなくただひたすらに呪文の詠唱と準備をしているクロエが、そのうち放ってくれるであろう魔術による一撃。

 それがこの化物をなんとかしてくれるだろうと期待するしかない。


「それまでにやることが多すぎるんだよなぁ」


 化物が繰り出すハサミを避けて、巨体そのものが突進してくる体当たりを回避し、俺はその辺に落ちていた石を拾い上げると体をひねってそれを投げる。

 相当な勢いで宙を飛んだ石は、魔術の準備をしていたクロエの近くに来ていたゾンビの頭部へ命中すると、ぱっと赤黒い液体を飛び散らす。


「やっぱり集まってきやがった」


 苦々しく呟いた俺の視線の先では、本城を取り囲んでいたゾンビ共の一部や、俺が召喚された支城の中なんかからぞろぞろと出てきたゾンビ共が、俺と化物との戦闘音を聞きつけて、のろのろとだがこちらに集まってこようとしている光景があった。

 これが数匹程度であったのならば対処も可能なのだが、十数匹とか数十匹といった数で押し寄せて来られたのではさすがに手に余る。

 まして魔術を準備中なクロエには、ゾンビ共に対処している余裕がないので、そちらのフォローもしてやらなければならないとくれば、さすがに俺は一人しかいないんだぞと文句の一つも言いたくなってくるというものだ。

 もっとも、文句を言ってみたところでその文句を向ける矛先というものもないのだが。


「ソーヤさんっ! 牽制行きます! 離れてくださいっ!」


 化物とゾンビ共とで争ってくれたりすればとても楽なのになと思いつつ、化物からの攻撃をさばいていた俺の耳に、クロエのそんな言葉が届いたのは俺が何体目になるのか分からないゾンビを投石で倒した時であった。

 頭を割られたゾンビがびくびくと痙攣しながら倒れていく様子を確認する暇もなく、足元の石を拾いながら化物からの距離を取るべく跳んだ俺の目に、クロエの細い指先から放たれた紫電の輝きが飛びこんでくる。

 なるほど、考えているなと思う。

 化物の体の大半は金属と思われるもので構成されているようなので、生半可な打撃や火炎系の攻撃では効果が薄いと思われる。

 その点、電撃ならば金属の部分だろうが生身の部分だろうが当たりさえすれば、標的の全身に伝導してダメージを与え、その行動を阻害してくれるはずだ。

 そんなことを考えながら見送った電撃は、狙い誤ることなく化物の本体とも言うべき人間の体の部分に突き刺さり、一体どこから声が出ているのかと不思議に思うほどの音量としわがれ具合で耳をふさぎたくなるような絶叫が響き渡った。

 前言撤回、これはまずい。

 ただでさえ化物との戦闘行為によって少なくないゾンビ共の注意を引いてしまっているというのに、そこへ遠慮も何もない絶叫なんてものを垂れ流してしまったら。何が起きるのかは明白だ。

 亀のように閉じこもって現状出てくる気配のない本城と、只今絶賛戦闘中で手を伸ばしたらすぐそこにいる俺達とでは、ゾンビ共にとってどちらが魅力的な獲物に見えるのかということである。

 もしかしたら、本城が放っているらしい獲物の気配に夢中なあまり、こちらには気付かずにいてくれるかもしれないと僅かな望みに希望を託して本城の方を見てみれば、それまでおしくらまんじゅうでもしているのかと思うくらいに密集しながら本城へ殺到していたゾンビ共の内、少なくない数のそれが動きを止めて顔をこちらへ向けている姿が見えた。

 これはおそらく、程なくしてゾンビ共がこちらへ押し寄せてくるようなことになりそうだなと思いながら、俺は動きが止まっていたクロエへ大声で言う。


「とりあえず、面倒そうなのから片付けろ!」


「は、はいっ!」


 慌てて俺へ返事をしたクロエは、まだ電撃の影響下にあり、体のあちこちから白い煙を立ち上らせている化物へ、その掌を向けて叫んだ。


「起動、火の理。疾く疾く大気を食らいて。紅より白を経て青へ。音も影もなく、ただ焼き払いたまえ」


 耳にしたクロエの詠唱は、俺に猛烈に嫌な予感というものを抱かせた。

 多少距離はとっているものの、化物との距離は目測で約十メートル前後。

 ちなみに余談ではあるが、青い炎と言うものは燃え方にもよるが大体、一万度を超えている代物である。


「アンリミテッド、オーバースペル。コール・シリウス」


 視界が一瞬にして青白く染まり、目を焼くような強烈な輝きに思わず失明の可能性を恐れる。

 それよりなにより恐ろしいのは、こんな至近距離に何万度あるのか分からない熱源が突如としてい出現してしまったということだ。

 テルミットの白い炎ですら、近くで出現しようものならば余波だけでも人体に致命的なダメージを与えかねないというのに、それよりずっと温度の高い青い炎である。

 これは相当な幸運に見舞われたとしても死んでしまうのではないかなと思ったのだが。


「大丈夫ですよソーヤさん。自分で放った魔術で自分や味方を害するような使い方はしませんよ。これでも宮廷魔術師第三位なんですよ?」


 自慢げにそう語るクロエ。

 言われてみれば確かに、俺もクロエも熱に巻かれて黒焦げになる気配はなく、まぶしいばかりの炎の輝きも不思議と失明に至る程ではない。


「術者と味方を保護してから大技を使うのは基本です。だから準備に時間がかかるのですがかけた時間の分の効果はあると思いますよ」


 見ればこちらに近づいて来ようとしていたゾンビ共の一部がクロエの放った魔術の余波で焼かれ、立ったまま灰になっていく光景がある。

 保護してもらえていなければ自分もそうなっていたのかと思うと、クロエが胸を張って自慢げなのも許容すべきだなと思うのだった。

面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。


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