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後始末いろいろ、こぼれ物いろいろ(2)

昼下がりの後半を過ぎて、窓の外の光景は、夕方の光をまとい始めた。


老魔導士フィーヴァーが詰める医療区画の続き部屋のひとつ……そこは、窓の隙間から西日が差すところだ。デンと鎮座する作業机の辺りは直射日光が届かなくなるよう慎重に配置されている。一方で、その近くの白壁は赤らみを返しつつ、部屋を照らしていた。


白文鳥アルジーは、オーラン少年の手の平に乗り、そこにある草木の種をつつきながら、様々に思いを巡らせ始めた。草木の種は、ここに持ち込んで来た荷物袋に残っていたものだ。


クムラン副官は部下シャロフに呼び出され、バムシャード長官と共に、事件現場の後始末を含めた後続業務をつづけている。


覆面オーラン少年が覚えたての《精霊語》でポツポツと喋っていた。オーラン少年の相棒を務める白タカ幼鳥ジブリールと共に《精霊語》チェックをしつつ、応じる。


オーラン少年の《精霊語》は、順調に上達していた。鷹匠ユーサーの熟練ぶりに比べると、まだ半分くらいという風だが、訓練開始タイミングを考えると大したものと言える。


白文鳥アルジーは、オーラン少年にも聞き分けが付くような初歩的な《精霊語》で、考え考え、さえずっていた。


『ドニアスは、ちゃんと捕まったよね?』


『牢に入ってる筈です……《鳥使い姫》』


『クムラン副官は、噂の、オーラン君を狙ってたとか言う《邪霊使い》刺客アサシンには気付いたんだよね。えーと、《邪霊使い》特有の目の……薔薇輝石ロードナイトを識別するのが、得意とか』


『出身の城砦カスバで、その識別ができる精霊に祝福されたと聞いてます。《火の精霊》だけど割と雷光に近い系統っぽいとか。専門じゃ無いから、よく知りませんが』


『そうなんだ。私は、そこまでは識別できないからビックリ。《精霊使い》と《邪霊使い》、両方とも同じ目の色に見えるし。でも、文官ドニアスが邪霊害虫を使ってた……邪霊使いだったのには、クムラン副官は、気付かなかった訳で……その辺が気になるんだけど』


白タカ幼鳥ジブリールが、取れかけのフワフワ産毛を手入れしつつ「ピョッ」と鳴いて応じる。


『ナンチャッテ《邪霊使い》だった。薔薇輝石ロードナイトじゃない。禁術の大麻ハシシを使って、一時的に《邪霊使い》になってたんだ』


『古代の邪悪な呪術や禁術の数々で定番の素材《三ツ首ハシシ》?』


『そう。《三ツ首ハシシ》を使うと、誰でも……薔薇輝石ロードナイトの目を持たぬ者でも、一時的に《邪霊使い》になれる。出涸らし品質のせいで、低級レベルだけど。赤毛商人バシールが酔っぱらった状態で侵入用《魔導札》を発動できたのも、カムザング皇子が生贄《魔導陣》を動かせたのも、そのせいだよ』


『あ、ナルホド……じゃ、眉間の《邪眼》刺青タトゥーは、一時的な《邪霊使い》の印って事かしら……』


『セルヴィン皇子の守護精霊の火吹きちゃんが、いま、万年《精霊亀》に照会してるけど、ほぼ、そうだと思う』


オーラン少年にとっては、難しい《精霊語》が混ざっている。不思議そうな顔をしたオーラン少年へ、さっそく白タカ幼鳥ジブリールが、少しずつ解説を始めた。


その間に――白文鳥アルジーの食事が終わった。


白文鳥アルジーは、オーラン少年の手の平のうえで、「ビョーン」と身を伸ばす。


覆面オーラン少年は少し戸惑った後、白文鳥の関心対象に気付いた様子で、老魔導士フィーヴァーの作業状況が見える位置へと手を差し伸べてくれたのだった。


――とても頭の良い少年だ。大人になったら、セルヴィン皇子の優秀な従者になる。そして末は高位高官の側近か大臣か……


老魔導士フィーヴァーは、手指の人工関節の修復という高難度クエストの発生を喜んでいる風で、破壊状況を点検しつつ、必要な材料や費用を計上しているところだ。


とは言え……目玉が飛び出るような、莫大な額面になるのは間違いない。


『弁償かな。たいへんな額になるよね……』


大いにしょげて、ポスンと座り、小声で呟くアルジーであった。


『何で《鳥使い姫》が弁償するんです? ドニアス殿に全額弁償していただきますよ、倍の迷惑料を上積みで』


ビックリして、覆面オーラン少年を振り返る、白文鳥アルジー。


覆面オーラン少年の表情の半分はターバンで隠されているものの、驚くほど高品位の薔薇輝石ロードナイトを含む漆黒の眼差しは、年齢に似合わぬ激怒の色をたたえていた。


虎ヒゲ・マジードから譲り受けたという短剣――サッシュベルトからチラリと見える黒い柄のところで、なにやら物騒な「黒い光」が閃いたような……


記憶にある、重厚な雰囲気。白文鳥アルジーは、思わず「ジーッ」と見つめてしまう。


……そこに居るよね? 以前に《ジン=*ロー*》とか名乗っていた、オリクト・カスバ守護精霊と地続きの、高位《地の精霊》さん?


覆面オーラン少年が気付き、不思議そうな顔になる。


『……この短剣が、どうかしましたか、《鳥使い姫》?』


『一般的に《地の精霊》って、黒ダイヤモンド《精霊石》に宿るよね? 護符チェーンに取り付けて、とか。《地の精霊》と《雷の精霊》の関係って、良く分かってないけど』


『思いつかなかったですよ、忙しくて……この短剣は、所有契約の雷霆刀を入手できるまでの、つなぎだから……黒ダイヤモンドとか、早めに見つくろっておいたほうが良い? この短剣が新しい候補を見付けられるように……白タカ・ジブリール?』


相棒を務める白タカ幼鳥ジブリールの回答は、明快だった。前々から、方々の精霊ジンに相談しながら考えていたのだろう。


『帝都に店を出してる例の武器専門の《魔導》工房で、雷霆刀と短剣を一式で頼んで、その時に、《ジン=*ロー*》が入れる黒ダイヤモンド《精霊石》を選べば良いよ。三日月刀シャムシールに込めるのと、短剣に込めるのと、お揃いの双子石で。だけど、帝都には無いと聞いてるから、ボクのほうで探して声かけておくよ』


話しているうちに、白タカ・ジブリールは、かゆくなった産毛に足を当てて、シャカシャカやりだした。取れかけの真っ白なフワフワが空中に漂い……《根源の氣》へと還る。不思議な光景。


『万年《精霊亀》から、アンティーク物で条件ピッタリの《精霊石》が存在してると聞いてる……占ってもらってるんだけど、いまどき流通してないアンティーク物なんて、未調査の遺跡ぐらいだろうね』


『え、そうなんだ』


目をパチクリさせる、白文鳥アルジー。


『案外、ジャヌーブ南の廃墟の、邪霊も入らないような所に埋もれてるかも。割とマジで、トラブル吸引魔法の壺を持ってる《鳥使い姫》の、次の冒険に期待してるよ』


――これは、プラスの意味で受け取って良いのかしら。色々と大変な状況に巻き込まれているけれど、けっして嫌な訳では無い、とか……


つらつらと考えているうちに。


鷹匠ユーサーの相棒の白タカ・ノジュムが、フワリと現れた。ドリームキャッチャー護符を吊るした、スタンド式ハンガーのうえに。訪問の先触れだ。


『あれ、もしかして鷹匠ユーサーが、こっちに来てる?』


『セルヴィン皇子の緊急の業務上積みのアレコレが、やっと終わったんでな。長い1日だった』


『そ、それは、襲撃事件の傷もえないうちから、ご迷惑おかけして……』


『セルヴィン皇子本人は、傷を受けた事は気にしてないようだぞ。それに、これは、セルヴィンとオーランの、とどのつまり男と男の間の、問題だ』


戸惑っているうちに、談話室のサボテン扉が開いた。


白タカ・ノジュムの先触れのとおり、護衛オローグ青年を先頭にして、セルヴィン皇子、リドワーン閣下とつづき、鷹匠ビザンと鷹匠ユーサーが入室して来たのだった。


老魔導士フィーヴァーが即座に作業の手を止め、白ヒゲをモッサァと広げた。鳶色とびいろの目がランランと光り始めている。


「おお、待ちかねたぞ! 早速じゃが、礼拝堂の中庭で展開した殺害犯ドニアス逮捕劇、改めて説明してくれい。特に、怪奇現象――いや、精霊魔法と《魔導》の部分は、飛ばさんようにな」


*****


消化に負担をかけないメニューをそろえた夕食会と共に、ドニアス逮捕劇の報告が進んだ。


説明担当は、ほぼ鷹匠ユーサーだった。


あらかじめ白鷹騎士団ゆかりの、熟練の占い師へ確認を取ったという。アルジーが推理していたラーザム殺害事件の真相と、ドニアスの身柄確保に至る推移は、ほぼほぼ、カバーされていた。


セルヴィン皇子を襲って重傷を負わせた謎の襲撃犯の正体も、元・財務文官にして金庫番ドニアスだった。ドニアスを半裸にしてみると、紛失していた《象使い》装束の一部が、バッチリ、出て来たのだ。


「文官ドニアス氏は、多種類の鍵束を常に持ち歩いておりました。その中に、礼拝堂付属の着付け室の鍵を不正に複製した物が、含まれていました。ドニアス殿は、これを《象使い》装束の盗難に利用したと白状しました」


「種も仕掛けも無かったか。真相は単純というケースじゃな。ドニアス殿は、開けられなくなった金庫の錠前を上手に破る、との定評があった。不正に複製した鍵を使って、よくある『度を越した悪ふざけ』をやっていたのじゃろう。自分の腕前を誇示したいばかりに色々と背伸びして、やらかすもんじゃ」


「鍵の不正な複製と、不正な錠前破りに利用するための《三ツ首サソリ》飼育は、見習いだった頃からの隠れた趣味だったそうで。足を踏み外した末に、自称《邪霊使い》と成り果てたのは、例の酒姫サーキイと同じく『世に悪の種は尽きまじ』の典型例ですね」


「ドニアス殿が襲撃に使用していた、侵入用《魔導札》も確認はできたかの?」


「御意。市場バザールの灰色商売の店から買い取っていたとの事。聖火礼拝堂で正規に作成している御札の一種、厳重な魔除けが誤作動を起こした場合の緊急突破用の御札が、なかなかの値段と数量で転売されていたそうです。ドニアス殿が、作成者を知る機会は無かったのは確実です」


老魔導士は少しの間、フーッと溜息をついて、天を仰ぐような表情になった。


「小金欲しさにコッソリ作成して転売か。懲戒処分モノの魔導士は、何処にでも居るのう。誰が余剰分を勝手に作成していたのか気になるが、それはさておき」


モッサァ白ヒゲが軽妙に揺れて、ひとしきり、老魔導士のモシャモシャという口の動きを暗示していた。その食物が、ゴックリと飲み下された後。


「ドニアス殿は、カムザング派閥の巨大な裏金の管理にかかわり、見る見るうちに、スゴ腕の《邪霊使い》と錯覚するほどに自らの能力を過信したうえ、カネに目がくらんでいったのじゃろうな」


静かに汁物を食しながら、セルヴィン皇子が無言で、横に控える護衛オローグ青年を見やる。


ここに来る途中で、セルヴィン皇子と護衛オローグ青年との間で、色々と話し合ったのであろう――護衛オローグ青年は、かねてからセルヴィン皇子の疑問を承知していた様子で、老魔導士フィーヴァーへ確認の質問を投げた。


「危険度の高い邪霊の類を扱うのでしょう、老魔導士どの。そのあたり能力を見定めるのは慎重になるのでは……と思ったのですが、過信するものですか?」


「もとから謙虚な若者には想像もつかんじゃろうが、オローグ君、そういうのは多いのじゃよ。カムザング皇子の例の、聞いているほうが恥ずかしくなるような、ヘボの極みの自画自賛『この世に2人と居ない頭脳明晰・文武両道・容姿端麗・品行方正・モテモテ無双カムザングちゃま』を思い起こすが良いぞよ」


「はあ……」


目をパチクリさせる、護衛オローグ青年であった。覆面オーラン少年も、まったく同じように、戸惑った眼差し。兄弟ならではのシンクロ。


――魔導士フィーヴァー自身の、自画自賛「人類史上、最高の天才魔導士」というのは、例外なの?


思わず、心の中で、そう突っ込む白文鳥アルジーであった。そして同時に、例外だなぁ……と、謎の納得をする白文鳥アルジーであった。


ダークブロンド髪のナイスミドル神官リドワーン閣下が、あごに手を当てつつ。


「……まだ陪席を続けていられるか? セルヴィン」


「大丈夫です」


「ふむ。先を急ごう」

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