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陰キャと陽キャは転生したら逆無双でした  作者: 夜嶋朔


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9/11

第9話 爆弾回避デート

 翌朝。


 ギルドへ向かう道すがら、レナードはまだ昨日の爆弾表示を引きずっていた。


【イオリ 爆弾危険度:高】


 何度見ても嫌な文字だった。


「なあ、タケル」


「何?」


「これ、今日中になんとかなんの?」


「たぶん」


「たぶん?」


「爆弾って、放っておくともっと危ないから」


「もっと?」


「イベント失敗したり、ほかの子との関係にも影響出たり……」


「恋愛で二次災害起きんの?!」


「ゲームだから……」


「ほんと便利だなその言葉!」


 レナードは頭を抱えた。


「で、どうすんの?」


 タケルは歩きながら、目の前に浮かぶイベント一覧を確認する。


「イオリの場合は……二人で専用イベント踏めばいいと思う」


「専用イベント?」


「うん」


「つまり?」


「デート」


 レナードの顔が変わった。


「デート?」


「そう」


「マジ?」


 さっきまで嫌そうだったのに、一気に機嫌が戻る。


「それなら余裕じゃん!」


「まだ何するか言ってないけど」


「デートでしょ? 飯行って、買い物して、適当に褒めて――」


「訓練場」


「……何?」


「イオリの爆弾回避イベント、たぶん訓練場」


 レナードが立ち止まった。


「カフェは?」


「行かない」


「買い物」


「しない」


「街歩くとか」


「ないと思う」


「何すんの?」


「剣の訓練」


「それデート?」


「ゲーム上は」


「もう嫌な予感しかしねぇんだけど」


     ◇


 昼過ぎ。


 レナードはギルド裏の訓練場に立っていた。


 向かいにはイオリ。


 いつもの軽鎧ではなく、動きやすそうな訓練着に着替え、剣を握っている。


「来たわね」


「来たけどさ」


 レナードは辺りを見回した。


 土。


 木製の人形。


 剣。


 汗だくの冒険者。


 甘い雰囲気など欠片もない。


「……ほんとにここ?」


「何が?」


「いや、なんでもない」


 少し離れたところでは、タケルがベンチに座って二人を見ていた。


 レナードが小声で聞く。


「タケル」


「何?」


「これ成功条件なに?」


「イオリとちゃんと訓練する」


「それだけ?」


「たぶん」


「普通の会話いらない?」


「余計なこと言わない方がいいと思う」


「俺ずっと黙って剣振んの?」


「それが一番安全」


「デートの意味どこいった?」


 その時、イオリが剣を構えた。


「始めるわよ」


「はいはい」


 レナードも剣を抜く。


 最初は軽く打ち合うだけだった。


 イオリの剣筋は鋭く、無駄がない。


 さすが聖騎士だけあって、前回の討伐で見せた動きよりもさらに速かった。


「へー」


「何?」


「いや、普通に強いじゃん」


 イオリの目が少し細くなる。


「それ、褒めてる?」


「褒めてる褒めてる」


「軽いわね」


「そこはもう直らないって」


 イオリが踏み込む。


 レナードは剣で受け流し、そのまま距離を取った。


「もっと本気で来て」


「え?」


「手加減してるでしょ」


「してるけど」


「やめて」


 レナードが少し驚く。


「でも本気出したら危なくない?」


 その瞬間。


 イオリの表情が変わった。


「……それ」


「何?」


「それが嫌なの」


 レナードは首を傾げる。


「何が?」


「私が弱いから、手加減しないといけないと思ってるでしょ」


「あー」


 昨日の爆弾の理由が、ようやく少し見えた気がした。


「だから昨日も機嫌悪かった?」


「別に」


「絶対それじゃん」


「別にって言ってるでしょ」


「はいはい」


「その返事も腹立つ」


「めんどくさ!」


【イオリの爆弾危険度が少し上がりました】


「今ので上がるの?!」


 ベンチからタケルが頭を抱える。


「レナード!」


「いや今のは仕方なくない?!」


「余計なこと言わないでって言ったよね!」


「会話禁止デートって何?!」


「とにかくちゃんと相手して!」


「分かったよ!」


 レナードは一度大きく息を吐いた。


 そして今度は、さっきまでとは違う構えを取った。


 イオリも気づいたらしい。


「……本気?」


「まあ、ちょっとは」


「全部で来なさい」


「死んでも知らないよ?」


「殺さない程度にしなさい」


「注文多いな!」


 イオリが地面を蹴る。


 今度はレナードも真正面から受けた。


 剣と剣が激しくぶつかり、乾いた音が訓練場に響く。


 一撃。


 二撃。


 三撃。


 イオリは押されながらも食らいつく。


 レナードも今度は途中で止めなかった。


「いいじゃん!」


「まだ!」


 イオリが低く踏み込み、レナードの脇を狙う。


 レナードは身体をひねってかわし、そのまま剣先をイオリの肩口で止めた。


「はい、俺の勝ち」


 イオリは息を切らしながら剣を下ろす。


「……もう一回」


「まだやんの?」


「当然でしょ」


「負けず嫌いすぎんだろ」


「嫌?」


「別に」


 レナードは少し笑った。


「やるなら付き合うよ」


 そこから何度も打ち合った。


 結局、一度もレナードは負けなかった。


 それでもイオリは、最初より明らかに機嫌がよかった。


 最後の一本を終えた頃には、二人とも汗だくだった。


 イオリは剣を鞘へ戻し、呼吸を整える。


「今日は悪くなかったわ」


「上からだなー」


「あなたもね」


 レナードが笑う。


 すると。


【イオリの爆弾危険度が大幅に下がりました】


「お!」


 レナードの顔が輝く。


「下がった!」


 ベンチからタケルも立ち上がった。


「よかった……」


「マジで下がったじゃん!」


「だから言ったでしょ」


 レナードは表示を見ながら満足そうに頷く。


「なるほどねー」


「何?」


「イオリってこういうのが好きなんだ」


「本人の前で言わない方がいいよ」


「聞こえてるけど」


「……」


 イオリがじっと見る。


「何よ」


「いや、なんでもない」


【イオリの爆弾危険度が少し下がりました】


「黙るのが正解なんだ?!」


「今日はね……」


「ルール毎回変わんじゃん!」


 イオリは呆れたように息を吐いたあと、少しだけ笑った。


「また付き合って」


「訓練?」


「そう」


「いいよ」


「じゃあまた」


 イオリはそう言って訓練場を出ていった。


 その後ろ姿を見送りながら、レナードはしばらく黙っていた。


「……」


「どうしたの?」


「タケル」


「うん」


「これさ」


「何?」


 レナードは周囲を指差す。


 土。


 汗。


 剣。


 筋肉痛になりそうな打ち合い。


「デートって言ったよな?」


「ゲーム上は」


「カフェ行ってない」


「うん」


「飯も食ってない」


「うん」


「手も繋いでない」


「うん」


「ずっと剣振ってただけ」


「うん」


 レナードは大きく息を吸った。


「これデートって言わねぇえええええ!!」


 訓練場中に叫び声が響いた。


 タケルは困ったように笑う。


「イオリルートではデート扱いなんだよ……」


「部活じゃん!!!」

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