第6話 攻略王タケル
東の森での依頼を終えた一行は、そのまま街へ戻り、ギルド近くの宿に泊まることになった。
石造りの外壁に木製の看板。中へ入ると、一階は食堂になっていて、冒険者らしい客たちが大声で笑いながら食事をしている。
「うわ、めっちゃ異世界の宿じゃん」
レナードは楽しそうに辺りを見回した。
「ベタでいいね」
「褒めてる?」
「めっちゃ褒めてる」
タケルが小さく笑う。
受付を済ませると、部屋は男女で分かれることになった。
レナードとタケルが同室。
イオリ、サキ、アヤコ、マイは隣の大部屋。
荷物を置いたあと、一行はそのまま一階の食堂へ集まった。
大きな木のテーブルには、焼いた肉、パン、スープ、野菜の煮込み料理が次々と並べられていく。
「うまそー」
レナードは迷わず肉に手を伸ばした。
「いただきまーす」
「早いね」
「腹減ってんだって」
隣ではサキがパンをちぎり、マイはスープを取り分けている。アヤコは自分より先に、連れてきた魔物へ肉を分けていた。
そして向かい側。
イオリは黙々と食事をしている。
レナードは何度か視線を向けた。
「……」
「……」
話しかけたい。
しかし、ここ数日の結果が脳裏をよぎる。
髪の話。
コスメの話。
鍛錬。
石鹸。
干し肉。
そして。
【イオリの好感度がかなり下がりました】
「……」
レナードは肉を噛みながら、隣のタケルへ少しだけ顔を寄せた。
「田中」
「何?」
「イオリに何話せばいい?」
タケルの手が止まった。
「……僕に聞くの?」
「聞いてんじゃん」
「昨日まで全然聞かなかったのに」
「うるせぇな。いいから教えて」
タケルは少し驚いた顔をしたあと、イオリの方を見る。
「今日は見た目の話しないで」
「えー」
「髪も肌もコスメも禁止」
「全部俺の得意分野じゃん」
「だから禁止なんだよ」
「じゃあ何話すの?」
タケルは少し考えた。
「今日の戦闘で、イオリの動き見てた?」
「まあ」
「どこ?」
「敵が横から来た時、すぐ前出てた」
「それ」
「それ?」
「そこ褒めたらいいと思う」
レナードは少し眉を寄せる。
「剣の動き?」
「うん」
「見た目じゃなく?」
「うん」
「可愛いとかじゃなく?」
「今日は絶対やめて」
「そこまで?」
「そこまで」
レナードはまだ半信半疑だった。
「でもさー」
「何?」
「女の子って普通、可愛いって言われた方が嬉しくない?」
「イオリは多分、自分が頑張ってるところを見てもらう方が嬉しい」
「……ふーん」
「あと、自分の話ばっかりしないで」
「俺そんなしてる?」
タケルが無言で見る。
「……してる顔やめて」
「今日は聞き役に回って」
「俺が?」
「うん」
「むず」
「戦闘より簡単だよ」
「それはない」
レナードはしばらく考えたあと、意を決したようにイオリへ向き直った。
「イオリ」
「何?」
「今日さ」
途中で一度だけタケルを見る。
タケルが小さく頷いた。
「敵が横から来た時、すぐ前出てたじゃん」
イオリの手が少し止まる。
「……見てたの?」
「見てた見てた」
「あなた、自分で全部倒してたのに?」
「まあ、それは俺が強いから」
「余計なこと言わなくていい」
タケルが小声で止める。
「何?」
「何でもない」
レナードは咳払いして続けた。
「でも、あの動き普通にかっこよかったよ」
イオリが少しだけ目を丸くする。
「そう」
「うん。ちゃんと周り見てんだなって」
「……当然でしょ。前衛なんだから」
そう言いながらも、イオリの表情はいつもより少し柔らかかった。
【イオリの好感度が少し上がりました】
「……!」
レナードの目が見開かれる。
画面を見る。
もう一度見る。
上がっている。
確かに上がっている。
レナードはテーブルの下でタケルの腕を掴んだ。
「上がった」
「声大きいよ……」
「マジで上がった!」
「だから言ったでしょ」
「すげぇ!」
勢い余って大きな声を出したせいで、イオリがこちらを見る。
「何?」
「なんでもない!」
「変なの」
イオリはまた食事へ戻る。
レナードは興奮したまま、今度はタケルの方へ完全に向き直った。
「他は?」
「何が?」
「次何話せばいい?」
「急にやる気出たね……」
「だって上がったじゃん!」
「じゃあ、今日はもうそれ以上話さない方がいい」
「え?」
「今ので成功してるから」
「ここで終わるの?」
「終わる」
「もっといけるっしょ」
「欲張ると下がるかもしれない」
「恋愛ってストップ高あんの?!」
「そういう感じではないけど……」
「意味わかんねぇ!」
レナードが頭を抱えていると、サキが向かい側から笑った。
「二人、仲いいね」
「え?」
「さっきからずっと内緒話してるし」
「あー」
レナードはタケルを見る。
「まあ、こいつ使えるから」
「言い方……」
「でもマジでやるじゃん」
タケルは少し照れたように視線を逸らした。
「ゲームの知識だけだから……」
「それがすげぇんじゃん」
レナードは素直にそう言った。
タケルが少しだけ驚いた顔をする。
◇
夕食を終えたあと、二人は二階の部屋へ戻った。
部屋にはベッドが二つと、小さな机が一つ。
窓の外には、夜の街の灯りが見えている。
タケルはベッドの端に座ると、明日のイベント表を確認し始めた。
「また見てんの?」
「うん」
「好きだねー」
「好きっていうか、覚えてるだけ」
「いや、普通覚えてねぇって」
レナードは自分のベッドへ倒れ込みながら、天井を見た。
「今日さ」
「うん?」
「マジで助かった」
タケルが顔を上げる。
「イオリの好感度、初めてまともに上がったし」
「ちょっとだけだけどね」
「ちょっとでもいいんだよ!」
レナードは身体を起こした。
「てかお前、戦闘じゃクソ弱ぇのに、こういう時だけめっちゃ頼れるじゃん」
「褒めてる?」
「褒めてる褒めてる」
「前半いらなかったと思うけど……」
レナードは笑ったあと、ふと口を止めた。
「田中」
「うん」
「……いや」
少しだけ考える。
「タケル」
タケルが目を瞬いた。
「え?」
「お前やるじゃん!」
レナードはにっと笑う。
「かっこいいじゃんか!」
「……何それ」
「攻略の時だけな!」
「一言多いよ……」
タケルは呆れたように笑った。
それを見て、レナードも笑う。
戦闘では、自分が前に立つ。
攻略では、こいつが前に立つ。
そんな関係も、悪くないかもしれない。
レナードはそう思いながら、再びベッドへ倒れ込んだ。
「なあ、タケル」
「何?」
「明日も頼むわ」
「ちゃんと僕の言うこと聞くならね」
「……それは考える」
「そこは聞いてよ」
部屋の中に、二人の笑い声が響いた。




