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陰キャは恋愛無双、陽キャは戦闘無双――転生したら得意分野が逆でした  作者: 夜嶋朔


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第39話 生きろ

 魔王城の巨大な扉が、重い音を立てながら開いていく。


 その向こうに広がっていたのは、広大な玉座の間だった。


 天井は異様なほど高く、壁一面には黒い紋章が刻まれている。床には赤黒い光が脈打つように走り、その中心。


 最奥の玉座に。


 一人の男が座っていた。


「……あれが」


 タケルが息を呑む。


「魔王?」


 レナードも剣を握ったまま、目を細めた。


 男は痩せた身体を黒い衣で包み、頬はこけ、指は異様に細い。


 だが。


 その姿以上に不気味なのは。


 目だった。


 こちらを見ているだけなのに、心の奥まで覗かれているような感覚がある。


「よくぞ、ここまで辿り着いた」


 低い声が玉座の間へ響く。


 ロイヤル・フラグメント。


 レイナ。


 アルカディア。


 スターライト。


 全員が武器を構える。


 その後方では、他の最高ランクパーティーたちも入口付近の防衛線を固めていた。


 魔王はゆっくり立ち上がる。


「誘惑を退け」


「恐怖を越え」


「疑念を振り払い」


「支配すら破った」


 細い指が伸びる。


「だが」


 口元が僅かに歪んだ。


「それで、終わりだと思ったか」


 次の瞬間。


 空気が変わった。


「来ますわ!」


 レイナの声と同時に。


 黒い雷が玉座の間いっぱいに広がる。


「うわっ!」


 レナードが剣で受ける。


 凄まじい衝撃が腕を貫いた。


「重っ……!」


「レナード!」


 イオリが横から入り、二人で魔力を受け流す。


 その隙に。


「行くよー!」


 エリオットが踏み込んだ。


 一瞬で魔王との距離を詰める。


 剣が閃いた。


 だが。


「遅い」


「え?」


 魔王の姿が消える。


 次の瞬間。


 エリオットの背後に現れた。


「後ろ!」


 レオンが叫ぶ。


 光の盾が展開される。


 ドォォォン!!


 黒い衝撃が盾へ直撃した。


「ぐっ……!」


 レオンの身体が大きく後ろへ滑る。


「レオン!」


「大丈夫!」


 そう答えながらも。


 光の盾には、初めて大きな亀裂が入っていた。


「……マジ?」


 レナードの表情が変わる。


 今まで。


 ロイフラが本気で押される姿など、ほとんど見たことがなかった。


 だが。


 魔王は違う。


「この程度か」


 魔王が片手を振る。


 黒い風が吹き荒れる。


「止めるねー!」


 ルシアンが地面を凍らせる。


 巨大な氷壁。


 だが。


 バキィィン!!


「え?」


 魔王の魔力が氷ごと砕いた。


「僕の氷、割った!」


「嬉しそうに言うとこ?!」


 レナードが叫ぶ。


「だって久しぶりだもん!」


「今楽しむな!」


 エミールがすぐに声を上げる。


「前衛、一回下がって! 右側空けるよ!」


 風が吹く。


 エリオットとレオンが一気に移動する。


「サキ!」


「うん!」


 矢が放たれる。


 その背後からレイナの風が重なる。


 矢が加速した。


 魔王の肩へ突き刺さる。


「当たった!」


「まだですわ!」


 レイナが両手を広げる。


 雷。


 炎。


 氷。


 土。


 複数の魔法が同時に魔王へ襲いかかる。


「すげぇ……!」


 タケルが目を見開く。


 だが。


 煙が晴れる。


 魔王は立っていた。


 傷はある。


 だが。


 口元には笑みが残っている。


「面白い」


「全属性食らってそれ?!」


 レナードが思わず叫ぶ。


 魔王が手を上げた。


「ならば」


 黒い雷が再び落ちる。


「もっと見せてもらおう」


     ◇


 戦闘は続いた。


 今までとは違う。


 誰一人として余裕がない。


 セシルが一気に懐へ入る。


「えいっ!」


 拳が魔王の腹部へ入る。


 だが。


「……!」


 初めて。


 セシルの拳が止められた。


 魔王が片手で受け止めている。


「え?」


「セシル!」


 次の瞬間。


 魔王が腕を振った。


「うわっ!」


 セシルの身体が壁まで吹き飛ばされる。


 ドンッ!!


「セシル!」


 ノエルがすぐに走る。


「大丈夫?!」


「いったーい!」


「喋れてるなら大丈夫!」


「基準そこ?!」


 レナードが叫ぶ。


 しかし。


 そのレナード自身にも。


 黒い魔力が飛んできた。


「っ!」


 避ける。


 だが。


 次。


 さらに次。


 魔王の攻撃は止まらない。


「速っ……!」


 イオリが横から入る。


「レナード、左!」


「了解!」


 二人で避ける。


 後方では、アレクシスの結界が次々と展開されていた。


「こっち守るね!」


 黒い魔力がぶつかる。


 ピシッ。


「……あ」


 結界に亀裂が入る。


 アレクシスの顔から笑みが消えた。


「壊れる」


「アレクシス!」


「もう一枚!」


 すぐに次の結界を重ねる。


 だが。


 そこへさらに黒い雷。


 バキンッ!!


 二枚目も砕けた。


「……強いね」


「今さら?!」


 エミールが息を切らしながら戦場を見る。


「みんな、位置崩さないで!」


 声はいつも通り。


 だが。


 額には汗が浮かんでいた。


「ノエル! レオン優先!」


「分かった!」


 ノエルが回復を飛ばす。


「セシルも!」


「僕まだ動けるよ!」


「動けても治す!」


「はーい!」


 その間にも。


 レイナの魔法が止まらない。


 火。


 水。


 風。


 土。


 雷。


 氷。


 光。


 一つが終わる前に、次。


 魔王の攻撃を逸らし。


 仲間を守り。


 隙を作る。


「レイナさん!」


 タケルが叫ぶ。


「大丈夫ですか?!」


「問題ございませんわ!」


 即答した。


 だが。


 その直後。


 魔王の黒い雷がレイナへ直撃する。


「レイナさん!!」


 レイナの身体が吹き飛んだ。


 床を転がる。


「……っ」


 肩から血が流れる。


 レナードの顔色が変わった。


「ヤバくない?!」


「かなり……!」


 タケルも初めて焦りを隠せなかった。


 ロイフラも。


 レイナも。


 押されている。


 それでも。


 誰も下がらない。


     ◇


 魔王はその光景を楽しそうに見ていた。


「素晴らしい」


「仲間を信じる」


「愛する者を守る」


「己を信じる」


 細い指が。


 レナードへ向けられる。


「ならば」


「その信頼が、お前のせいで死ぬとしたら?」


「……え?」


 レナードの動きが止まった。


 景色が変わる。


「レナード!」


 イオリの声。


 振り返る。


 血まみれのイオリが倒れている。


「……は?」


 その横。


 タケル。


 サキ。


 アヤコ。


 マイ。


 ミハル。


 全員が。


 倒れている。


「……何これ」


『お前を信じたから死んだ』


「違う」


『お前が守ると言った』


「違うって」


『お前が前へ進ませた』


「……」


『責任を取るのだろう?』


 リリアーナの言葉が。


 歪んで聞こえる。


『覚悟と責任の取り方で筋通すんや』


「……」


『では取れ』


『全員を死なせた責任を』


 レナードの剣が。


 ゆっくり下がる。


     ◇


「タケル」


 別の場所。


 タケルも一人だった。


『自分を信じると言ったな』


「……」


『ならば』


 目の前に。


 スターライトが現れる。


 タケルが指示を出す。


「右!」


 その瞬間。


 レナードが攻撃を受ける。


「え?」


「左!」


 サキが倒れる。


「違う……」


「今!」


 イオリが吹き飛ぶ。


「やめて」


『お前が決めた』


「……」


『お前の判断だ』


「違う……」


『自分を信じた結果がこれだ』


 タケルの手が震える。


『自信など』


『ただの傲慢だ』


「……」


『お前が何も決めなければ』


『誰も死ななかった』


 杖が。


 手から落ちた。


     ◇


「レナード!」


「タケル!」


 現実の戦場。


 二人は立ったまま。


 完全に動きを止めていた。


「また……!」


 サキが叫ぶ。


 イオリもレナードへ向かおうとする。


「レナード!!」


 だが。


「待って!」


 エリオットの声が飛ぶ。


 イオリが振り返る。


「でも!」


「大丈夫!」


 エリオットは。


 笑っていた。


 血を流しながら。


「戻ってくるよ!」


 ノエルも頷く。


「うん!」


 レオンがひび割れた盾を構える。


「信じよう」


 イオリの目が揺れる。


「……でも」


 レイナがゆっくり立ち上がった。


「イオリ様」


 肩から血を流したまま。


 それでも。


 背筋を伸ばす。


「皆様なら、戻られますわ」


「レイナ様……」


「信じましょう」


 その言葉に。


 イオリは唇を噛む。


 そして。


 剣を握り直した。


「……はい!」


     ◇


 魔王が笑う。


「まだ信じるか」


「ならば」


「その信頼ごと砕いてやろう」


 魔力が膨れ上がる。


 今までとは比較にならない。


「来るよ!」


 エリオットが前へ出る。


 レオンが盾を重ねる。


 アレクシスがその背後へ何重もの結界を張る。


「止める!」


 ルシアンの氷が床を覆う。


「位置そのまま!」


 エミールの風が全員を支える。


「怪我したらすぐ言って!」


 ノエルの光が広がる。


 セシルも再び前へ。


「まだ動けるよ!」


 そして。


 レイナが両手を広げる。


「全力で参りますわ!」


 全属性の魔力が同時に立ち上がった。


 次の瞬間。


 魔王の攻撃が。


 全員へ直撃した。


 ドォォォォォン!!


     ◇


 煙が晴れる。


「……っ」


 レオンが膝をついていた。


 盾は。


 半分以上砕けている。


 エリオットも剣を床へ突き、辛うじて立っている。


 セシルは肩で息をしていた。


「……さすがに」


 笑う。


「疲れたかも」


 ノエルの顔色も悪い。


「魔力……結構使った」


 エミールも息を整える。


「まだ……整理できるよ」


 アレクシスの結界はほとんど消えていた。


「もうあんまり作れないかも」


 ルシアンも膝へ手をつく。


「氷も……結構割られたね」


 そして。


 レイナも。


 とうとう片膝をついていた。


「……」


 血が。


 床へ落ちる。


 魔王が笑った。


「終わりだ」


「お前たちも」


「ここで死ぬ」


 その瞬間。


 レイナの視界が。


 少しだけ揺れた。


「……」


 目の前に。


 誰かが立っている。


 小柄な少女。


 その隣には。


 黒いスーツ。


 刀を肩に担いだ男。


「……姫様」


 リリアーナ。


 そして。


 清司。


 現実にいるはずがない。


 ただ。


 そこにいるように見えた。


 リリアーナが。


 まっすぐレイナを見る。


「生きろ」


「……」


 それだけだった。


 清司も何も言わない。


 ただ。


 静かに目を細めている。


 レイナの唇が震えた。


「……はい」


 ゆっくり。


 立ち上がる。


「死ぬわけには、いきませんわ」


     ◇


 同じ頃。


 ロイヤル・フラグメントたちも。


 それぞれ。


 同じ姿を見ていた。


 リリアーナ。


 笑ってもいない。


 怒ってもいない。


 ただ。


 まっすぐこちらを見ている。


「生きろ」


 エリオットが。


 剣を握り直す。


「……うん」


 レオンも立ち上がる。


「生きて帰って」


 ひび割れた盾を構える。


「また守るんだよ」


 ノエルが涙を拭う。


「帰らないと……」


 笑う。


「リリアーナに怒られちゃう!」


 セシルもゆっくり背筋を伸ばした。


「まだ終わってないよね!」


 エミールが息を吐く。


「うん。予定、いっぱい残ってるし」


 アレクシスも顔を上げる。


「こんな終わり方、きれいじゃないよ」


 ルシアンが笑った。


「じゃあ、みんなで帰ろー!」


 ロイフラ全員が。


 もう一度。


 前を向いた。


     ◇


「まだ立つか」


 魔王が低く呟く。


「愚かな」


 レイナが微笑む。


「ええ」


「愚かでも構いませんわ」


 魔力が再び立ち上がる。


「わたくしたちは」


「生きて帰りますもの」


 エリオットが剣を構える。


「戻ってくるまで持たせよー!」


「うん!」


 レオンが前へ出る。


「絶対戻ってくるよ!」


 ノエルも光を広げる。


 セシルが走る。


 エミールが配置を整える。


 アレクシスが残った魔力で結界を張る。


 ルシアンが最後の氷を広げる。


 レイナが。


 全てを繋ぐ。


 誰も。


 レナードとタケルを起こそうとはしない。


 誰も。


 答えを教えようとはしない。


 ただ。


 戻ってくると信じて。


 戦う。


「無駄だ」


 魔王が笑う。


「もう戻らぬ」


「信頼も」


「自信も」


「全て砕いた」


 その瞬間。


「……」


 レナードの指が。


 僅かに動いた。


 魔王の笑みが止まる。


「……何?」


 そして。


 タケルの足元に。


 小さな。


 本当に小さな炎が。


 灯った。

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