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陰キャは恋愛無双、陽キャは戦闘無双――転生したら得意分野が逆でした  作者: 夜嶋朔


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40/40

最終話 俺達の戦いはこれからだ!!

 タケルの足元に、小さな炎が灯った。


 魔王の笑みが消える。


「……何?」


 その炎は、異世界へ来たばかりの頃に出したものとよく似ていた。


 小さくて。


 頼りなくて。


 レナードに焚き火だと笑われた炎。


 だが今は。


 その火を見ても、タケルは俯かなかった。


     ◇


 暗闇の中。


 魔王の声が、何度もレナードへまとわりついていた。


『お前を信じた者は、お前のせいで死ぬ』


『守ると決めたのだろう』


『ならば、その責任を取れ』


 目の前には、倒れた仲間たち。


 イオリ。


 タケル。


 サキ。


 アヤコ。


 マイ。


 ミハル。


 自分を信じてくれた者たちが、血を流している。


「……責任、ね」


『そうだ』


「確かに怖ぇよ」


 レナードは俯いたまま答えた。


「俺のせいで誰か死んだらとか、守れなかったらとか」


『ならば剣を捨てろ』


「でもさ」


 ゆっくり顔を上げる。


「それで逃げたら、もっとダセぇじゃん」


『……何?』


 思い出す。


 エリオットに教わった。


 強いからといって、一人で全部やる必要はない。


 レオンに教わった。


 守ることは、死ぬことではない。


 セシルに教わった。


 止まらず、必要な場所へ動け。


 エミールに教わった。


 戦いは、力だけではなく整え方でも変わる。


 ノエルに教わった。


 無理をすることが強さではない。


 アレクシスに教わった。


 仲間と噛み合う動きは、美しい。


 そして。


 最後にリリアーナから言われた。


『男はな、覚悟と責任の取り方で筋通すんや』


「……」


 レナードの口元が上がる。


『何がおかしい』


「いや」


 拳を握った。


「俺、まだ全然なんだなって思って」


『ならば諦めろ』


「逆だよ」


 レナードが真っすぐ前を見る。


「筋通して――」


 足元から光が広がった。


「立派な男になってやんだよ!!」


 暗闇が大きく揺れる。


『黙れ!』


「だからこんなとこで止まってらんねぇ!!」


 光が一気に弾けた。


     ◇


 一方。


 タケルもまた、自分の失敗を見せられ続けていた。


『自分を信じると言ったな』


「……」


『その判断が間違っていたらどうする』


 自分の指示で。


 レナードが倒れる。


 サキが倒れる。


 イオリが傷つく。


『お前が決めた』


『お前のせいだ』


 タケルの手が震える。


 怖い。


 今でも。


 間違うのは怖い。


 誰かを傷つけるのも怖い。


 自分に自信を持つことさえ、本当はまだ怖かった。


『ならば何もするな』


『以前のお前に戻ればいい』


 教室の隅で。


 一人で。


 誰とも話さず。


 ゲームの正解だけを見ていた自分。


「……嫌だ」


『何?』


「もう戻りたくない」


『お前は弱い』


「知ってるよ!」


 タケルが顔を上げる。


「僕は強くない!」


 小さな炎が灯る。


「怖いし、自信なくす時もあるし、失敗もする!」


『ならば――』


「でも!」


 炎が大きくなる。


「もう自分に負けない!!」


 魔王の声が止まった。


 タケルは杖を強く握る。


「怖くても、間違っても――」


 一歩前へ出た。


「前に進むんだ!!」


 炎が暗闇を焼き尽くした。


     ◇


「……っ!」


 レナードが目を開く。


 同時に。


 タケルの足元から炎が一気に燃え上がった。


「あり得ぬ……」


 魔王が後ずさる。


「二度も……我が力を……!」


 最初にレナードの耳へ飛び込んできたのは。


「おかえりー!」


 エリオットの声だった。


「……」


 振り向く。


 エリオットは血を流し、剣を杖代わりにして立っている。


 レオンの盾は半分以上砕け。


 セシルは肩で息をし。


 ノエルも魔力をほとんど使い切っていた。


 エミールも。


 アレクシスも。


 ルシアンも。


 誰一人、無傷ではない。


 レイナも肩から血を流していた。


 それでも。


 全員が立っている。


「……お前ら」


 レオンが笑った。


「みんな揃ったね」


 ノエルも目元を拭う。


「よかった……!」


 レイナは静かに微笑んだ。


「姫様のお声が聞こえましたの」


 レナードが目を瞬く。


「声?」


「ええ」


 レイナは一度、胸元へ手を当てた。


「『生きろ』と」


 ロイフラたちも頷く。


「僕たちも聞こえたよ!」


「うん!」


「だから帰らないとね!」


 レオンが壊れかけた盾を握り直した。


「一人も死んだら意味ないよ」


 ノエルも頷く。


「みんなで生きて帰らないと!」


「全員で帰ろー!」


 エリオットが笑った。


 レナードはしばらく全員を見ていた。


 それから、小さく笑う。


「……だよね」


 タケルも顔を上げた。


「うん」


 あの日。


 王宮の階段で。


 リリアーナは言った。


『一人残らず生きて帰ってこい!』


 まだ誰一人欠けていない。


「じゃあ」


 レナードが剣を構える。


「終わらせよっか」


 タケルも杖を握った。


「うん!」


     ◇


「愚かな人間どもが!」


 魔王の身体から、これまで以上の黒い魔力が噴き上がる。


「ならば全員ここで滅びろ!」


 黒い雷が玉座の間を埋め尽くした。


「来ますわ!」


 レイナが叫ぶ。


「全員、生き残ります!」


「はーい!」


 ロイフラが一斉に動いた。


 レオンが前へ出る。


「守るよ!」


 残った盾の光が広がる。


 黒い雷がぶつかる。


「ぐっ……!」


「レオン!」


「大丈夫!」


 エリオットがその横を駆け抜ける。


「今だよー!」


 剣が魔王の魔力を斬り裂いた。


 セシルが空いた場所へ飛び込む。


「えいっ!」


 拳が魔王の腹へ直撃する。


「ぐぁっ!」


「動いた!」


 エミールがすぐに叫ぶ。


「右側空くよ!」


 風が吹く。


 スターライトの進路が開いた。


「アレクシス!」


「こっちは止めるね!」


 残った魔力で空間が固定される。


 魔王の左腕が一瞬止まった。


「ルシアン!」


「凍っててねー!」


 氷が右足へ絡みつく。


「ノエル!」


「みんな前行って!」


 最後の回復魔法がスターライトを包んだ。


 レイナが両手を広げる。


 風。


 雷。


 土。


 水。


 全ての魔法が。


 レナードとタケルのために道を作る。


「今ですわ!」


「行くぞ!」


「うん!」


 二人が同時に走った。


 魔王が黒い雷を放つ。


「レナード、右!」


「了解!」


 避ける。


「次、左!」


「オッケー!」


 さらに避ける。


「次フェイント!」


「分かった!」


 魔王の右手が動く。


 だが攻撃は左。


 レナードは迷わず潜り抜けた。


「なんで分かる!」


「タケルが見てるから!」


「僕だけじゃないよ!」


 タケルも叫ぶ。


「レナードが動いてくれるから分かるんだ!」


「じゃあ最強じゃん!」


「今自分で言う?!」


「言う!」


 レナードが魔王の懐へ飛び込んだ。


 剣を振る。


 魔王の黒い障壁が砕ける。


「ぐっ……!」


 だが魔王はすぐにレナードの胸を掴んだ。


「勇者ァァァ!!」


 黒い雷が身体へ流れ込む。


「ぐぁっ!」


「レナード!」


「まだ!」


 レナードは魔王の腕を掴み返した。


「離せ!」


「嫌だね!」


「貴様一人の力で何ができる!」


「一人じゃないし!」


 レナードが叫ぶ。


「タケル!!」


「分かってる!!」


 タケルが杖を両手で握る。


 風が巻き起こった。


 魔王の身体が僅かに浮く。


「なっ……!」


「もっと……!」


 タケルが歯を食いしばる。


 風が強くなる。


 炎が混ざる。


「何をするつもりだ!」


 レナードが魔王の身体を両腕で抱え込んだ。


「決まってんじゃん!」


「レナード!」


「うん!」


 二人は一瞬。


 顔を見合わせた。


 そして。


 同時に叫ぶ。


「俺達の戦いはこれからだ!!」


「僕達の戦いはこれからだ!!」


「何ィィィィィ?!」


 レナードが全身の力を込める。


 タケルの風と炎が、その背中を押した。


「うおおおおおおおおお!!」


「行っけぇぇぇぇぇぇ!!」


 魔王の身体が。


 宙へ浮く。


「人間ごときがァァァァ!!」


「人間舐めんな!!」


「レナード、もうちょっと右!」


「右どっち?!」


「そっち!!」


「雑!!」


「今それ言ってる場合じゃないよ!!」


「うおおおおおお!!」


 レナードが魔王を放り上げる。


 同時にタケルが魔法を叩き込む。


 二人の力が重なった。


 魔王の身体が。


 玉座のさらに奥へ吹き飛ぶ。


 そこには。


 魔王自身が生み出していた、巨大な黒い魔力の裂け目。


「待て――」


 魔王の顔が初めて恐怖に歪んだ。


「後悔するぞォォォォォ!!」


 レナードが叫ぶ。


「しないね!!」


 タケルも続いた。


「僕も!!」


 魔王の身体が。


 闇の中へ消える。


 一瞬の静寂。


 そして。


 ドォォォォォォォン!!


 魔王城全体が激しく揺れた。


 壁に刻まれていた黒い紋章が。


 一つ。


 また一つ。


 砕けていく。


 黒い光が空へ昇り。


 やがて。


 何も残らず消えた。


「……」


「……」


 レナードとタケルは並んだまま、しばらく動かなかった。


「……倒した?」


 タケルが聞く。


「倒したっしょ」


「たぶん?」


「絶対」


「ならいいけど……」


 少し沈黙する。


 レナードが首を傾げた。


「ねぇ」


「何?」


「なんか今の、有名な映画で見たことない?」


 タケルが数秒黙る。


「……僕も一瞬思った」


「だよね?」


「今それ言う?!」


 玉座の間に。


 笑い声が広がった。


     ◇


 魔王が倒れた。


 世界各地を覆っていた黒い紋章も消え、異常な魔物の発生も止まった。


 長く続いた災害は。


 ようやく終わった。


 そして数日後。


 リュミエール王国。


 魔王討伐の日。


 世界中の戦士たちが出陣した、王宮の大階段。


 そこには再び、大勢の人々が集まっていた。


 ただし。


 今日は誰も戦場へ向かわない。


 帰ってきた者たちを迎えるためだった。


 チリン。


 澄んだ鈴の音が響く。


 バルドが一礼した。


「魔王討伐隊の皆様が、帰還されました」


 大歓声が上がる。


「オオオオオオーーーーー!!!!」


 ロイヤル・フラグメント。


 レイナ。


 アルカディア。


 世界各地の冒険者たち。


 スターライト。


 全員が。


 そこにいた。


 一人も欠けていない。


 階段の上では。


 リリアーナが待っていた。


 その隣にミレーヌとバルド。


 レナードとタケルにだけ見える清司も、いつものように静かに立っている。


 リリアーナは帰ってきた者たちをゆっくり見渡した。


「よう帰ってきたな」


 その瞬間。


 何かが切れた。


「リリアーナー!」


 真っ先にエリオットが走り出した。


「姫様ー!」


 ノエルも続く。


「帰ってきたよー!」


 セシル。


 レオン。


 エミール。


 アレクシス。


 ルシアン。


 ロイフラ全員が、泣きながらリリアーナへ駆けていく。


 レイナも。


 いつもの優雅な笑みを保とうとして。


 できなかった。


「……姫様」


 涙が頬を伝う。


「ただいま戻りましたわ」


 イオリの目からも涙が溢れた。


「リリアーナ姫様……!」


 スターライトも。


 アルカディアも。


 次々とその輪へ入っていく。


「うわ、マジでみんな行くの?」


 レナードが笑いながら言う。


 だが。


 その目も赤い。


 タケルはもう泣いていた。


「行こうよ……」


「泣くの早くない?」


「レナードも泣いてるじゃん……!」


「これは汗!」


「目から?!」


 二人も笑いながら、その輪へ入った。


 大勢に囲まれても。


 リリアーナは何も言わなかった。


 逃げもしない。


 茶化しもしない。


 ただ。


 一人一人を受け止めるように、そこに立っていた。


 しばらくして。


 リリアーナが小さく笑う。


「……ちゃんと生きて帰ってきたな」


「……!」


 さらに泣き声が増えた。


 エリオットが泣きながら笑う。


「帰ってきたよー!」


 ノエルもリリアーナへしがみつく。


「みんな一緒だよ!」


 レオンが頷く。


「一人も欠けてないよ」


 レイナは涙を拭わずに微笑んだ。


「姫様とのお約束ですもの」


 その横で。


 ミレーヌがグループハグを眺めながら、少しだけ笑う。


「みなさん、清司さんの骨が折れないようにしてくださいね」


「え?」


 レナードとタケルだけが同時に清司を見る。


 黒スーツ姿の清司は。


 群衆の真ん中で。


 相変わらず静かに立っていた。


 バルドも落ち着いた顔で一礼する。


「今だけは許可しましょう」


「何の許可やねん」


 リリアーナがようやく突っ込んだ。


 泣きながら。


 みんなが笑った。


     ◇


 少し離れた階段の上。


 その光景を見ている二人がいた。


 一人は、大柄な男。


 口には葉巻。


 その隣には煙草を手にした女。


 レナードがグループハグから顔を出し、二人を見る。


「……え」


 タケルも気づいた。


「あの人たち……?」


 レナードの目が見開かれる。


「……あれが国王と王妃……!!」


「想像してた王族と違いすぎる……」


 姐さんは煙草を持ったまま目元を拭った。


「ほんま泣けるやんか……」


 オヤジは葉巻の煙をゆっくり吐き出す。


 しばらく。


 何も言わずに全員を見ていた。


 そして。


「やるやんけ」


 にっと笑った。


 レナードが小声で呟く。


「……やっぱ普通の国王じゃない」


「うん……」


     ◇


 表彰が一段落すると。


 サキがタケルの隣へやってきた。


「タケル」


「うん?」


 サキはそっと手を差し出す。


「約束、守れたね」


 戦いへ向かう前。


 二人で交わした言葉。


『一緒に生きて帰ろう』


 その直後。


『死亡フラグみたいになってんじゃん』


 レナードが茶々を入れ。


『違うよ! 縁起悪いこと言わないでよ!』


 タケルが本気で怒った。


 でも。


 二人とも。


 本当に帰ってきた。


「……うん」


 タケルはサキの手を握る。


「帰ってこれた」


 もう。


 好感度表示なんて見なかった。


 爆弾も。


 イベント条件も。


 必要ない。


 サキが笑っている。


 それだけで十分だった。


     ◇


 一方。


 リリアーナの前には、レナードが立っていた。


「お前」


「はい?」


 リリアーナはレナードを上から下まで見る。


「少しは男になったな」


 レナードの顔が一気に明るくなる。


「マジ?!」


「少しな」


「まだ?!」


「まだや」


「魔王倒したんだけど?!」


「それとこれとは別や」


「マジで?!」


 リリアーナは少し笑う。


「これからや」


「……これから?」


「せや」


 その時。


「レナード」


 後ろから声がした。


 振り返る。


 イオリが立っていた。


 いつもの凛々しい顔。


 なのに。


 今日は少しだけ頬が赤い。


「少し……お話いいですか?」


「え?」


 レナードが首を傾げる。


「何? 怒ってる?」


「違います!」


「じゃあ何?」


「それは……」


 イオリが言葉に詰まる。


 レナードの目の前に。


 久しぶりに表示が浮かんだ。


【イオリ】


【好感度:測定不能】


「……え?」


 レナードが固まる。


「タケル!」


「何?」


「壊れた!!」


「何が?!」


「好感度!!」


 タケルが表示を見る。


 そして。


 少しだけ笑った。


「……壊れてないよ」


「じゃあ何?!」


「もう攻略じゃないんだよ」


「え?」


 タケルはサキの手を握ったまま答えた。


「ここからは、自分で頑張って」


「マジ?!」


 リリアーナが横から鼻で笑う。


「ほら」


「何?」


「これからやろ」


「……」


 レナードは。


 ようやくイオリを見る。


 今度は。


 好感度ではなく。


 ちゃんと本人を。


「……じゃあ」


 少しだけ照れながら笑った。


「話そっか」


「はい」


 イオリも笑った。


     ◇


 そんな空気を。


 豪快な声が全部ぶち壊した。


「お前ら全員!!」


「え?」


 全員が振り返る。


 オヤジが葉巻を片手に、大声で叫ぶ。


「新作のラーメン食ってけ!!」


 一瞬。


 静寂。


「ラーメンー?!」


 ロイフラが一斉に反応した。


「食べるー!」


「やったー!」


「お腹すいたー!」


「最高ぉう!」


 レイナも涙を拭いながら上品に微笑む。


「楽しみですわ」


 アルカディアの面々まで顔を見合わせる。


「魔王討伐の褒賞が……」


「ラーメン……?」


 姐さんが煙草をくわえながら笑った。


「ええやん。腹減っとるやろ」


「いや、そういう問題ちゃうやろ!」


 リリアーナがオヤジを見る。


「世界救ったご褒美が――」


 大きく息を吸う。


「ラーメンかい!!!!」


 王宮の大階段に。


 最後の笑い声が響いた。

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