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陰キャは恋愛無双、陽キャは戦闘無双――転生したら得意分野が逆でした  作者: 夜嶋朔


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第32話 性別を超えて

「じゃあ魔王討伐、頑張れよ」


 ひとしきり笑いが収まったあと、リリアーナは紅茶を置いて、レナードとタケルへ軽く手を振った。


「はい!」


 タケルが素直に返事をする。


 レナードも立ち上がりかけたが、ふと何かを思い出したように足を止めた。


「あ、最後一ついいすか?」


「なんや」


「ずっと気になってたんすけど」


 レナードは少しだけ身を乗り出す。


「リリアーナ姫と、ここの国王って何者なんすか?!」


 一瞬、応接室が静かになった。


 リリアーナはレナードをじっと見る。


「……見て分からんか?」


「え」


 レナードはもう一度リリアーナを見る。


 可愛らしい姫。


 華やかなドレス。


 その隣には、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司。


 そして。


 口調。


 圧。


 筋。


 レナードの目が細くなる。


「……若頭すか?」


「分かっとるやんけ」


「当たった?!」


 タケルが目を丸くする。


 リリアーナは何でもないことのように続けた。


「ここの国王はオヤジや」


「えーーーーー!!!!」


 レナードとタケルの声が綺麗に重なった。


「国王がオヤジ?!」


「どういう国なのここ?!」


「うるさいな」


 リリアーナは面倒そうに眉を寄せる。


「言っとくけど、抗争して傘下入れたんちゃうぞ!」


「そこ聞いてないっす!」


「でもちょっと気になってた!」


「オヤジの器のデカさでこうなったんや」


 レナードとタケルが黙る。


「……やばくね?」


 レナードが小声で言った。


 リリアーナも少し考える。


「まぁ、やばいよな」


「認めるんだ?!」


 その時。


 チリン。


 バルドが静かに一礼した。


「では、お戻りください」


「はい!」


「なんか追い出された感あるんだけど!」


「話終わったからや」


 まだ何か言いたそうなレナードを、タケルが半ば引っ張るようにして部屋を出ていく。


 扉が閉まった。


 少しして、再びノックの音が響く。


「失礼します」


 今度はイオリが入ってきた。


 いつものように背筋は真っすぐ。


 だが、いつも以上に動きが硬い。


 リリアーナはそんなイオリを見ると、少しだけ笑った。


「もっと気ぃ楽にしてええ」


「……はい」


 イオリは頷く。


 それでも背筋は伸びたままだった。


 リリアーナはしばらく何も言わず、イオリを見ていた。


 そして。


「全部、誰にも頼らんと生きてきたやろ」


「え……」


 イオリの目が揺れた。


 リリアーナは変わらない口調で続ける。


「もっと人信じて、人頼ったらええねん」


「……」


 その言葉だけで、イオリの唇が僅かに震えた。


 目に涙が溜まる。


 リリアーナはそれ以上、何も足さなかった。


 ただ静かにイオリを見る。


 しばらくして。


「私……」


 イオリが小さく口を開いた。


「ずっと、いつでも剣士として死ねれば、それでいいと思っていました」


 リリアーナは黙って聞く。


「でも、レオン様に言われたんです」


 イオリは涙を堪えながら続ける。


「守ることは、死ぬことではないと。生きて帰って、また次も守るんだと」


 リリアーナが少しだけ目を細める。


「あいつ、すぐ命捧げようとしとったからな」


「……やっぱり」


 イオリが顔を上げた。


「リリアーナ姫様が教えたんですね」


「まぁな」


 イオリは一度俯く。


「……ありがとうございます」


 その横で、ミレーヌが柔らかく笑った。


「そうです。清司さんには、私みたいな相棒もいますし」


 リリアーナがちらりとミレーヌを見る。


「自分で言うんや」


「事実ですから」


 ミレーヌはにこりと笑った。


 リリアーナは再びイオリを見る。


「今までは頼りない男二人も、顔つき変わってきたやろ」


「……はい」


 イオリの口元が少しだけ緩む。


「確かに、変わってきました」


「ほな、見ていったらええわ」


「……」


 イオリはリリアーナを見つめた。


 強くて。


 怖くて。


 誰よりも堂々としていて。


 それなのに、目の前の少女は思っていた以上に優しかった。


 目の前の相手が、どうしてこれほど皆に慕われるのか。


 少し分かった気がした。


 イオリの目から、ぽろりと涙が落ちる。


「何でそんなに素敵なんですか……」


「え……」


 リリアーナが珍しく言葉に詰まる。


 イオリは勢いよく顔を上げた。


「もう性別超えて好きです!!」


「声デカ!!」


 応接室にリリアーナの声が響いた。


 ミレーヌは口元を押さえながら笑う。


「また攻略してしまいましたね」


「してへんわ!!!!」


     ◇


 しばらくして。


 イオリが大広間へ戻ると、ちょうど反対側の扉からロイヤル・フラグメントの面々も入ってきた。


「ただいまー!」


「お腹すいたー!」


「パンあるー?」


「あるある! めっちゃある!」


 サキが笑いながらテーブルを指差す。


 ロイフラたちは嬉しそうに席へ向かい、その途中で戻ってきたイオリに気づいた。


 レナードもすぐに振り返る。


「お、イオリ。どうだった?」


 タケルも顔を上げた。


「リリアーナ姫と話せた?」


「はい」


 イオリはまだ少し赤い目元のまま、二人の前まで歩いてくる。


 そして。


「私、リリアーナ姫様、性別超えて好きになっちゃった」


 一瞬。


 広間が静かになった。


「えーーーーー!!!!」


 レナードとタケルの声が響く。


 そのすぐ横で。


「えーーーーー!!!!」


 今度はロイフラ全員の声まで重なった。


「イオリも?!」


「リリアーナ好きになったのー?!」


「すごーい!」


「やっぱりリリアーナだね!」


「最高ぉう!」


「そこ喜ぶんだ?!」


 レナードが思わず振り返る。


 イオリは恥ずかしそうにしながらも、しっかり頷いた。


「だって、本当に素敵な方なんです」


「いや、それは分かるけど」


 レナードが腕を組む。


「俺もさっき惚れそうになったし」


「僕も……」


 タケルまで続ける。


「え?!」


 今度はイオリが驚く。


 ロイフラもまた一斉に振り向いた。


「二人も?!」


「なんでー?!」


 レナードは少し考える。


 それから。


「なんかさ」


 みんなの顔を見ながら、ゆっくり口を開いた。


「俺、ここまで来て結構いろんなこと教わったじゃん」


 エリオットが首を傾げる。


「僕たちのことー?」


「そう」


 レナードは一人ずつ顔を見る。


「エリオットには、強いからって全部一人でやる必要ないって教わった」


 エリオットが嬉しそうに笑う。


「飲み込み早かったよね!」


「エミールには、戦いって力だけじゃなくて、順番とか位置とか整え方で全然変わるって」


「うん! 整え方もすぐ覚えてくれた!」


「レオンには、守るって死ぬことじゃないって」


 レオンが頷く。


「うん。命捧げることが全部じゃないよ」


 その言葉に、イオリも静かに頷いた。


 タケルも続ける。


「セシルには、攻撃したあと止まらないこと。ちゃんと動いて、必要な場所へ行くこと」


「みんな素直に聞いてくれてよかったよ!」


 セシルが満面の笑みを浮かべる。


「ノエルには、無理し過ぎないこと」


「うん! 無理し過ぎないことも覚えたよ!」


「アレクシスには、立ち位置とか動線とか」


 アレクシスが嬉しそうに頷いた。


「立ち位置が美しくなったしね!」


「美しいの意味、最初分かんなかったけどね」


「今は分かるでしょ?」


「分かる」


 レナードが笑う。


 ルシアンが少しだけ身を乗り出した。


「僕はー?」


「ルシアン?」


「うん!」


 レナードとタケルが一瞬顔を見合わせる。


「最初は連携とれてなかったけどね!」


 ルシアンが先に笑う。


「それはマジ」


 レナードも吹き出した。


「お前の強さ見た時、全員で戦う意味ある?って思ったもん」


「えー!」


「褒めてる褒めてる」


 笑いが広がる。


 そんな全員を、レイナは静かに見ていた。


 そして紅茶を置く。


「皆様、よく成長なされましたわ」


 その一言で、少しだけ空気が柔らかくなった。


 レナードは照れくさそうに頭を掻く。


「でもさ」


「うん?」


 タケルが見る。


「最後にリリアーナ姫から、男の在り方教わった気がするんだよな」


 ロイフラ全員が一斉にレナードを見る。


「何て言われたのー?」


「覚悟と責任の取り方で筋通せって」


 一瞬。


 ロイフラが静かになった。


 次の瞬間。


「リリアーナだー!」


「言いそう!」


「かっこいいー!」


「最高ぉう!」


「やっぱそれなんだ?!」


 レナードが笑う。


 それでも表情は、どこか真剣だった。


「いや、マジでかっこよすぎんだろ」


 その横で、タケルも小さく頷く。


「僕も……覚悟ができた気がするよ」


 以前なら。


 自分は戦えない。


 前に出るのは怖い。


 誰かの後ろにいればいい。


 そう思っていた。


 けれど今は違う。


 自分にできることがある。


 自分にしかできないこともある。


 それを分かった上で、前へ進もうと思えている。


 そんなスターライトを見て、アルカディアのリーダーがゆっくり立ち上がった。


「ロイヤル・フラグメントの皆様。レイナ様」


 ロイフラとレイナが顔を向ける。


「魔王討伐にご参加いただけること、とても心強く思います」


 リーダーは深く頭を下げた。


「我々も、全力を尽くします」


 エリオットが笑う。


「もちろん!」


 ノエルも続く。


「みんなで帰ってこようね!」


「うん!」


 セシルが拳を上げた。


「がんばろー!」


「がんばろー!」


 ロイフラ全員の声が広間に響く。


 スターライトとアルカディアも、それにつられるように笑った。


     ◇


 少し離れた応接室。


 大広間から微かに楽しそうな声が聞こえてくる。


 リリアーナはその声を聞きながら、紅茶を一口飲んだ。


「あいつらやったら倒せるやろ」


 ミレーヌが穏やかに頷く。


「そうですね。私もそう思います」


 バルドも静かに一礼した。


「彼等は倒せると信じております」


 リリアーナは少しだけ笑った。


「そやな」

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