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陰キャは恋愛無双、陽キャは戦闘無双――転生したら得意分野が逆でした  作者: 夜嶋朔


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第29話 最終試験

 世界各地を覆っていた黒い紋章の魔物は、確実に数を減らしていた。


 西部。


 南東部。


 東部。


 森林地帯。


 丘陵地帯。


 遺跡周辺。


 各地へ散っていた討伐隊から、次々と制圧完了の報告が届いている。


 残る大きな脅威は、魔王。


 そこへ辿り着くまでの道も、もうあと僅かだった。


 そんな中、スターライトとアルカディアへ最後の大規模討伐任務が与えられた。


 場所は、魔王の影響が最も強く残る北東部の荒野。


 これまで各地から逃れた黒い紋章の魔物が集まり、以前とは比較にならないほど強力な群れを形成しているという。


「最後の掃除って感じ?」


 荒野へ続く街道を歩きながら、レナードが剣を肩へ乗せた。


「掃除って規模じゃないよ」


 タケルは事前に渡された地図を見ながら答える。


「報告だと、今までの大型種が何体もいる。それに黒い紋章も濃くなってるって」


「じゃあ、強いんだ?」


「たぶんかなり」


「いいじゃん」


「だからなんで嬉しそうなの……」


 イオリが二人の横から口を挟む。


「油断しないでください。ここまで来たからこそ、最後まで全員で帰るんです」


 レナードが横を見る。


「お」


「何ですか?」


「前だったら『私が前に出ます』って言ってたじゃん」


「……」


 イオリは少しだけ視線を逸らした。


「学びましたから」


「素直じゃん」


「あなたもでしょう?」


「まあね」


 レナードは笑いながら前を向いた。


 その会話を聞いていたタケルも、小さく笑っている。


 以前なら。


 レナードは誰より先に敵へ突っ込み。


 イオリは傷ついてでも前線を守り。


 タケルは魔力が残っている限り魔法を撃ち続けていた。


 だが、今は違う。


 戦うたびに、一人ずつ教えてくれた者たちがいた。


 そして今日。


 最後に彼らを待っていたのは――。


「皆様、お待ちしておりましたわ」


 荒野の入口に、一人の女性が立っていた。


 風に長い髪を揺らしながら、上品な笑みを浮かべている。


「レイナさん!」


 レナードが手を上げる。


 アルカディアの面々は、すぐに姿勢を正した。


「レイナ様!」


「本日は、わたくしも同行いたしますわ」


 レイナはそう告げると、スターライトの顔を一人ずつゆっくり見た。


 レナード。


 タケル。


 イオリ。


 サキ。


 アヤコ。


 マイ。


 ミハル。


 その視線が最後まで巡ったところで、レイナの口元が僅かに柔らかくなる。


「……変わられましたわね」


 レナードが首を傾げた。


「何が?」


「皆様ですわ」


「まだ何もしてないけど?」


「ええ。ですから、まずは拝見いたします」


「何を?」


 レイナは答えず、にこりと笑った。


「参りましょう」


「なんか意味深なんだけど」


     ◇


 荒野へ入って間もなく、最初の群れが姿を現した。


 黒い紋章を持つオーガ。


 獣型の魔物。


 巨大な鳥型。


 そして、そのさらに奥には二体のミノタウロスまでいる。


「初手から多っ!」


 レナードが剣を抜く。


 だが、以前のようにそのまま突っ込むことはなかった。


 まず全員を見る。


「イオリ、前お願い!」


「任せてください!」


「サキ、右上!」


「見えてる!」


「タケル、まだ火壁いらない!」


「うん。もう少し引きつける!」


 ミハルは言われる前に左側の岩陰へ走り、アヤコの魔物が中央へ出る。マイは全員を見渡せる位置へ下がった。


 レイナは少し後ろから、その動きを静かに見ていた。


 敵が近づく。


 レナードとイオリが同時に前へ出る。


 だが、二人の動線は重ならない。


「イオリ、半歩左!」


「分かりました!」


 レナードが右へ抜ける。


 イオリが左のオーガを受ける。


 その間をサキの矢が通り抜けた。


 一体。


 二体。


 空から来た魔物を次々と撃ち落としていく。


「タケル!」


「今!」


 炎の壁が地面を走る。


 敵を倒すためではない。


 逃げ道を限定し、群れを一方向へ寄せる。


 その先には、すでにレナードがいた。


「来た来た!」


 一閃。


 先頭のオーガが倒れる。


 だがレナードは追わない。


 次に危険な場所を探す。


「サキ!」


「大丈夫!」


 大型の獣がサキへ向かおうとしている。


 その間には岩があった。


 以前なら大きく回り込んでいた。


 レナードは迷わず、その横の細い隙間へ入る。


 最短距離。


 一気に駆け抜け、サキへ届く前に魔物を斬り伏せた。


「ありがと!」


「余裕!」


 少し離れた場所で、レイナが静かに目を細めた。


     ◇


 最初の群れを片づけても、敵は途切れなかった。


 次の群れ。


 さらにその奥。


 黒い紋章を持つ魔物は、これまでより明らかに強くなっている。


 それでもスターライトは崩れない。


 サキは一か所に留まらず、矢を放つたびに位置を変える。


 ミハルは全員の進路を邪魔しない場所から敵の背後へ入り、タケルは魔法を連発せず、必要な場面だけに絞っている。


「タケル、大丈夫?」


 マイが聞く。


「まだいける。でも次の大きい魔法を使ったら一回休む」


「分かった」


 レナードがその会話を聞いて笑う。


「自分から休むって言うようになったじゃん」


「手震えてから止められる方が恥ずかしいから……」


「ノエル効果すげぇ」


 その直後、大型オーガがイオリへ棍棒を振り下ろした。


 イオリは剣で真正面から受けようとして――。


 半歩ずれた。


 棍棒が地面を叩く。


 横へ流れたイオリは、そのまま無防備になった脇腹へ斬り込んだ。


「いいじゃん!」


 レナードが声を上げる。


「受け止める必要はありませんから!」


「レオンに言われたやつ?」


「セシル様にもです!」


「ちゃんと全部覚えてんじゃん!」


「当然です!」


 イオリが次の敵へ向かう。


 今度はレナードも追った。


 だが前だけではない。


 後ろを見る。


 横を見る。


 誰がどこにいるかを確認しながら、必要な場所だけに入る。


 少し後ろで見ていたアルカディアのリーダーが、思わず笑った。


「別のパーティみたいだな」


 レイナが視線を向ける。


「以前は違いましたの?」


「かなり」


 アルカディアのリーダーは懐かしそうに笑う。


「レナードは一人で全部倒そうとする。イオリは自分で受けすぎる。タケルは判断はいいが、魔力を使い切りがちだった」


「報告通りでしたのね」


「覚えていたのですか?」


「もちろんですわ」


 レイナは再びスターライトを見る。


「皆様の訓練が始まる前にいただいた報告書ですもの」


     ◇


 荒野の中央へ近づいた頃。


 地面が大きく揺れた。


 これまでとは違う。


 一度。


 二度。


 そして、地面そのものを押し上げるような轟音。


「何?」


 サキが身構える。


 岩山の向こうから、巨大な影が現れた。


 四本の角。


 分厚い黒い皮膚。


 背中には何本もの棘。


 胸から腹へかけて、巨大な黒い紋章が広がっている。


 その後ろには、さらに複数の大型魔獣が続いていた。


 タケルの顔が引きつる。


「……今までで一番強いかも」


「だよね」


 レナードも笑いを消した。


 巨大魔獣が吠える。


 その音だけで空気が震え、周囲の小さな岩が転がった。


「来る!」


 イオリが剣を構える。


 レナードも前へ出る。


 だが。


「焦らない!」


 自分自身へ言うように声を出した。


 一度、全体を見る。


「タケル、まだ!」


「分かってる!」


「サキは角狙って! イオリは俺と前!」


「はい!」


 魔獣が突進する。


 レナードとイオリが左右へ分かれた。


 正面から止めない。


 通り過ぎる瞬間にイオリが足を斬り、サキの矢が角へ刺さる。


 魔獣の進路が僅かにずれた。


「今!」


 タケルの炎が横から上がる。


 敵が火を避け、さらに左へ寄る。


 そこにはミハルが仕掛けた罠。


 巨体の足が沈む。


「入った!」


「よし!」


 レナードが踏み込む。


 だが、巨大魔獣の尾が予想以上の速度で振り抜かれた。


「レナード!」


 イオリが叫ぶ。


 レナードは剣を構えかけ――。


 受けるのをやめた。


 後ろへ跳ぶ。


 尾が目の前を通り過ぎる。


「危なっ!」


「今のは正解です!」


「分かってる!」


 その瞬間。


 別の大型魔獣が横からサキたちへ迫った。


「まずい!」


 レナードが走ろうとする。


 距離がある。


 間に合わない。


 その時だった。


「サキ様、そのまま構えてくださいませ」


 レイナの声が響いた。


「え?」


「射ってください」


 サキが矢を放つ。


 直後。


 猛烈な風が背後から吹いた。


 矢が一気に加速する。


 空気を裂き、迫っていた魔獣の眉間へ突き刺さった。


「ええ?!」


 サキ自身が目を丸くする。


「まだですわ」


 レイナが片手を動かす。


 今度は地面が隆起した。


 巨大な土壁が魔獣の左右へ現れ、逃げ道を塞ぐ。


「タケル様」


「はい!」


「炎を」


「火よ!」


 タケルの炎が前へ伸びる。


 そこへレイナの風が重なる。


 炎が一気に数倍へ膨れ上がった。


「うわっ!」


「そのままで結構ですわ」


「僕の魔法じゃないみたい……!」


「タケル様の魔法ですわ。わたくしは少し、お手伝いしているだけです」


「少し?!」


 レナードが思わず振り返る。


「少しの規模じゃないって!」


     ◇


 そこから。


 レイナの援護が始まった。


 イオリが踏み込めば、足元へ一瞬だけ風が吹く。


 速度が上がる。


 大型魔獣がイオリへ攻撃を返そうとすれば、その足元を氷が滑らせる。


「今です!」


「はい!」


 イオリの剣が深く入る。


 サキが高所を狙えば、風が矢を押す。


 タケルが炎を使えば、風が広げる。


 ミハルが背後へ回ろうとすれば、土壁が一瞬だけ敵の視界を遮る。


 アヤコの魔物が囲まれれば、水が敵を押し流して道を作る。


 マイが負傷者へ向かえば、光がその場所を守った。


 そしてレナードが攻撃へ入る瞬間。


「レナード様、そのまま!」


「了解!」


 巨大魔獣が拳を振り上げる。


 空が光った。


 雷。


 轟音とともに落ちた一撃が腕へ直撃し、ほんの一瞬だけ動きを止める。


「今ですわ!」


「援護射撃の規模じゃねぇ!!」


 叫びながらも、レナードはその隙を逃さない。


 胸の黒い紋章へ剣を叩き込む。


 魔獣が大きくよろめいた。


「すご……」


 タケルが戦いながら呟く。


 レイナは一人で何種類もの魔法を使っている。


 炎。


 水。


 風。


 土。


 雷。


 氷。


 光。


 しかも、ただ撃っているわけではない。


 全員の動きを見て。


 全員が一番力を出せる瞬間に。


 必要な魔法だけを合わせている。


「この人……」


 レナードもようやく気づいた。


「エリオットと、エミールと、レオンと、セシルと、ノエルと、アレクシス……」


 タケルが顔を向ける。


「え?」


「全部乗せじゃん!!」


「……総括だから」


「総括ってそういう意味?!」


 レイナが少し離れた場所から微笑んだ。


「お話しする余裕がおありなら、まだ大丈夫ですわね」


「聞こえてんの?!」


     ◇


 戦闘は長く続いた。


 敵は強い。


 今までなら、どこかで陣形が崩れていただろう。


 だが今のスターライトは違った。


 誰か一人が無理をしない。


 誰か一人に任せきらない。


 攻撃のあとには動く。


 次に必要な場所を見る。


 互いの進路を邪魔しない。


 自分の限界も把握する。


 そして。


 強い者ほど、周りを見る。


「レナード!」


 タケルが叫ぶ。


「あと一回なら大きいのいける!」


「一回だけ?」


「うん!」


「じゃあ最後まで取っといて!」


「分かった!」


 レナードが敵へ向かう。


 イオリも横へ並んだ。


「私もまだいけます!」


「無理してない?」


「していません!」


「じゃあ行こう!」


 二人が同時に走る。


 サキの矢が上空から降り。


 アヤコとミハルが左右を塞ぐ。


 マイの回復が先に飛ぶ。


 そして。


「タケル!」


「今!」


 最後の炎が放たれた。


「レイナさん!」


「お任せくださいませ」


 レイナが両手を広げる。


 風が炎を巻き上げる。


 土が敵の足を固定する。


 水が背後を塞ぐ。


 氷が腕の動きを止める。


 雷が黒い紋章へ落ちる。


 光がスターライト全員を包んだ。


 巨大な魔獣が咆哮する。


「行くぞ!」


 レナードとイオリが同時に踏み込む。


 二本の剣が交差した。


 黒い紋章が大きく裂ける。


 巨体が揺れる。


 そして。


 地面へ倒れた。


 ドォォォォォン!!


 荒野に土煙が広がる。


 しばらく誰も動かなかった。


「……終わった?」


 サキが息を切らしながら聞く。


 タケルが魔力の残量を確認する。


「たぶん……」


 だが。


 荒野の奥から、さらに大きな咆哮が響いた。


「まだいるの?!」


 岩山の陰から、これまでとは明らかに違う巨大な影が立ち上がる。


 身体を覆う黒い紋章。


 桁違いの魔力。


 スターライト全員が身構えた。


 しかし。


「皆様は、そのままで」


 レイナが前へ出た。


「レイナさん?」


「十分ですわ」


「でも――」


「これは、わたくしが」


 レイナが片手を上げる。


 空が赤く染まった。


 炎。


 次の瞬間には巨大な水の渦が生まれ、その周囲を暴風が包む。


 地面が隆起し、岩の柱が魔獣の逃げ道を塞いだ。


 足元から氷が広がる。


 雷が空を走る。


 最後に眩い光が全てを覆った。


「……」


 レナードが口を開けたまま固まる。


「え?」


 タケルも同じだった。


 巨大魔獣が一歩踏み出そうとする。


 できない。


 氷と土が身体を固定し、暴風が翼を押さえ、水が動きを奪う。


 そこへ。


 雷。


 炎。


 光。


 三つの魔法が同時に落ちた。


 轟音が荒野全体を揺らす。


 光が消えた時。


 巨大魔獣は地面へ倒れていた。


「……一番強いじゃん」


 レナードが呟く。


「うん」


 タケルも素直に頷いた。


 レナードがレイナを見る。


「なんで最後まで隠してたの?!」


「隠しておりませんわ」


「これ隠してない判定?!」


 レイナは上品に微笑んだ。


     ◇


 荒野に静けさが戻った。


 黒い紋章を持つ魔物は、すべて討伐された。


 これで残る大きな敵は。


 魔王。


 アルカディアが周辺の確認へ向かう中、レイナはスターライトの前へ立った。


「皆様」


 全員が顔を上げる。


「合格ですわ」


「……何が?」


 レナードが首を傾げる。


 レイナが微笑む。


「最終試験です」


 一拍。


「試験だったの?!」


「ええ」


「先に言って?!」


 タケルが苦笑する。


「言われてたら意識しちゃうからじゃない?」


「そういう問題?!」


 レイナは楽しそうに笑った。


「ロイヤル・フラグメントの皆様が訓練へ入られる前、アルカディアから皆様の戦闘記録を受け取っておりましたの」


「成績表回ってたの?!」


 レナードがアルカディアを見る。


 少し離れたところで、リーダーが目を逸らした。


「おい!」


「必要な報告だ!」


「書き方どんなだった?!」


 レイナがさらりと答える。


「レナード様。圧倒的な戦闘能力。ただし、一人で突出する傾向あり」


「そのまんま!!」


「イオリ様。前衛能力は非常に高いものの、己を盾にしすぎる傾向あり」


 イオリが少し恥ずかしそうに視線を伏せた。


「タケル様。判断力は高いものの、魔力配分と体力に課題あり」


「全部書かれてる……」


 タケルまで顔を伏せる。


 レイナはそんな三人を見て、柔らかく笑った。


「ですが、今は違いますわ」


 レナードを見る。


「レナード様は、ご自身の強さだけではなく、皆様を見ておられる」


 イオリへ。


「イオリ様は、守るために生きて帰ることを覚えられた」


 タケルへ。


「タケル様は、ご自身の限界を知り、必要な時に必要な魔法を使っておられる」


 そして、スターライト全員を見る。


「誰か一人が強いのではありません」


「皆様が互いを見て、互いの力を引き出せるようになった」


 レナードが少し照れたように鼻の下を擦る。


「まあ……先生が多かったからね」


「ええ」


 レイナの表情が、少しだけ懐かしそうに変わった。


「人は、変われますわ」


「レイナさんも?」


 タケルが聞く。


 レイナは静かに頷いた。


「私は元々、悪役令嬢でしたの」


「悪役令嬢だったの?!」


 レナードが真っ先に反応する。


「そこに食いつくんだ……」


 タケルが呆れる。


 レイナはくすりと笑った。


「責任ばかりを抱え込み、周囲を見る余裕もございませんでした。けれど、姫様と出会って変わることができましたの」


 イオリの目が輝いた。


「リリアーナ姫様……!」


 レナードが横を見る。


「やっぱそこ反応するよね」


「当然です!」


 レイナはそんなイオリを見て、優しく微笑んだ。


「姫様は、その人自身も気づいていないものを見つけてくださいますわ」


 イオリは感動したように胸元へ手を当てる。


「……やはり、素晴らしい方です」


「ええ。本当に」


 レイナの声には、単なる敬意だけではない、深い愛情が滲んでいた。


 それからレイナは、もう一度全員を見渡す。


「皆様、よくここまで頑張られましたね」


 その一言に。


 誰もすぐには冗談を返さなかった。


 これまでの戦い。


 失敗。


 爆弾。


 攻略。


 ダンジョン。


 訓練。


 そして各地で出会った者たち。


 全部が繋がって、今のスターライトがある。


 レナードは小さく息を吐いた。


「……なんか卒業した気分」


「僕も」


 タケルが笑う。


「でも、まだ魔王いるけどね」


「現実戻すなよ!」


 レイナも楽しそうに笑った。


「ですから、その前に休息ですわ」


「休息?」


「はい」


 レイナは姿勢を正した。


「姫様から、リュミエール国で休息を取るように言われておりますので、参りましょう」


 一瞬。


 イオリの動きが止まった。


「……リュミエール国?」


「ええ」


「リリアーナ姫様の……?」


「はい」


 イオリの目が、これまでで一番大きく見開かれた。


「……!」


 レナードが即座に指を差す。


「顔!!」


「何ですか?!」


「めっちゃ嬉しそう!」


「当然でしょう!!」


 少し離れた場所では、アルカディアの面々が別の意味で動揺していた。


「レ、レイナ様! 我々もでございますか?!」


「もちろんですわ」


「リュミエール国で休息など、恐れ多いです!」


「姫様から皆様も、と伺っております」


「直接のお招き……?!」


 アルカディアのリーダーが青ざめる。


 その横でイオリだけは、すでに別のことで頭がいっぱいだった。


「……着替えは」


 レナードが振り向く。


「また服考えてる?!」


「リリアーナ姫様にお会いするかもしれないんですよ?!」


「ノエルに会わせてもらう話、本気だったんだ……」


「当たり前です!」


 タケルが笑う。


「イオリ、魔王より緊張してない?」


「それとこれとは別です!」


「姫に会う方が緊張してんじゃん!」


「うるさいです!」


 長く続いた討伐の先。


 スターライトはようやく、魔王との戦いを前にした束の間の休息へ向かうことになった。


 行き先は。


 世界のほとんどを傘下に収めた国。


 そして。


 彼らがまだ何も知らない、リリアーナの国。


 リュミエール王国だった。

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