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陰キャと陽キャは転生したら逆無双でした  作者: 夜嶋朔


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2/11

第2話 陰キャの潜在能力

 ダンジョンを出るまでに、レナードは五体の魔物を倒した。


 しかも全部、一撃だった。


 剣を振れば魔物は吹き飛び、蹴れば岩壁まで転がっていく。本人は大したことをしているつもりがないらしく、倒れた魔物を見ても「こんなもん?」と首を傾げるだけだった。


 一方、魔法使いになったタケルはというと。


「えっと……火よ」


 杖の先に小さな光が灯り、頼りない火の玉が飛び出した。


 ぽすっ。


 魔物の額に当たる。


 ぱちっ、と小さく弾けて消えた。


 魔物は何事もなかったようにタケルを見る。


 タケルも魔物を見る。


 数秒の沈黙のあと、レナードが吹き出した。


「クソ弱ぇじゃん!」


「……分かってるよ」


「今の何? 魔法?」


「たぶん……初級の火属性魔法」


「ライターじゃん!」


「ライターよりは……」


 言い終わる前に魔物が地面を蹴った。


「うわっ!」


 タケルが杖を抱えて後ずさるより早く、レナードが横をすり抜ける。


 軽く剣を振っただけだった。


 それなのに、魔物は勢いよく宙を舞い、そのまま洞窟の壁へ叩きつけられた。


「ほら」


 レナードは何事もなかったように剣を肩へ担ぐ。


「俺に任せとき!」


「……強すぎるんだよ」


「勇者だからっしょ」


「勇者でも普通はレベルとかあると思うけど……」


「じゃあ俺、超当たりじゃん」


 満足そうに笑ったレナードは、ふとタケルを見る。


「田中は?」


「……何が?」


「当たり?」


 タケルは自分の杖を見下ろした。


「……これからだと思う」


「頑張ろ?」


「慰めないで」


     ◇


 ようやくダンジョンを抜けると、二人の前には大きな石造りの街が広がっていた。


 高い城壁に囲まれた街道を馬車が行き交い、剣や杖を携えた冒険者たちが歩いている。露店には見たこともない果物や魔物の素材らしきものが並び、遠くには空へ伸びる大きな尖塔まで見えた。


 洞窟しか見ていなかった二人にとって、ようやく「異世界へ来た」という実感が湧いてくる光景だった。


「うわ、ちゃんと異世界じゃん!」


「今さら?」


「だって洞窟しか見てなかったし」


 街へ入った途端、すれ違う人々がちらちらとレナードを振り返る。


 細身で長い手足に、目を引くほど整った顔立ち。


 本人も視線には気づいていたが、前世から人に見られることには慣れている。


「めっちゃ見られてるよ」


「そりゃ見るっしょ」


「自信あるね……」


「この顔だよ?」


「自分で言うんだ……」


 レナードはさらりと髪をかき上げると、何事もなかったように歩き続けた。


「で、まず何すんの?」


「ギルドじゃないかな」


「やっぱあるんだ」


「こういうゲームなら、最初に冒険者登録するはずだから」


「さっすが経験者」


「まだ同じゲームか確信はないけど……」


「ほぼ一緒っしょ」


「そういう油断が一番怖いんだけど……」


     ◇


 街の中央にある冒険者ギルドは、外から見てもすぐ分かるほど大きな建物だった。


 重い扉を開けると、中には武器を持った冒険者たちが大勢集まっている。正面にはいくつもの受付が並び、壁一面には依頼書が貼られ、奥ではクエスト帰りらしい者たちが報酬を受け取っていた。


「うわ、ベタ!」


「褒めてる?」


「めっちゃ褒めてる」


 二人が受付へ向かおうとした、その時だった。


 レナードの足が止まる。


「……お」


「どうしたの?」


 視線の先には、一人の少女が立っていた。


 銀色の軽鎧をまとい、受付横で依頼書を読んでいる。艶のある長い髪に、まっすぐ伸びた背筋。華奢に見える身体には剣が下げられていて、周囲の冒険者とは明らかに纏う空気が違った。


 近寄りがたいほど整った顔立ちに、レナードの目が一気に輝く。


「あの子超イケてんじゃん!」


「え?」


 タケルがその視線を追った瞬間、表情を固くした。


「……イオリ」


「知ってんの?」


「知ってるっていうか……」


 タケルは少女を見たまま、少しだけ声を落とした。


「最難関ヒロイン」


「マジ?」


「うん。たぶん、このゲームで一番難しい」


 レナードはもう一度イオリを見る。


「なおさらよくない?」


「何が?」


「あの子一択っしょ」


「いや、待って」


「何?」


「最難関って言ったよね?」


「聞いた聞いた」


「好感度条件も厳しいし、選択肢一個間違えただけでイベント潰れることもあるから……」


「へー」


 返事をした時には、もうレナードは歩き出していた。


「聞いてないよね?」


「大丈夫だって」


「何が?」


「前世女だし?」


「それ関係あるかな……」


「女心余裕ー」


「だからそれが怖いんだって……」


 レナードは迷うことなくイオリの前まで行くと、いつもの調子でにこっと笑った。


「超可愛いねー! 仲良くしよ?」


 数メートル後ろで、タケルの顔から血の気が引いた。


「ちょ、待っ……」


 イオリはレナードを一度だけ見た。


「……そういうこと、誰にでも言ってるでしょ」


「誰にでもってなんで? 転生して初なんだけど?!」


「そういう問題じゃないと思う……」


 タケルが小さく呟いた、その瞬間。


 レナードの目の前に文字が浮かんだ。


【イオリの好感度が下がりました】


「……は?」


 レナードが固まっている間に、イオリは依頼書を手にその場を離れていく。


【イオリ 好感度:12】


「まじでなんで!?」


「だから軽いんだって……」


「軽くないって! 挨拶じゃん!」


「その挨拶がダメなんだよ……」


「可愛いって言われて嫌な人いる!?」


「イオリはそういうの言われ慣れてるから、逆効果なんだよ」


「知らねぇよ!」


「さっき最難関って言ったよ……」


 タケルが深くため息をついたところで、横から明るい声が飛んできた。


「あの……大丈夫?」


 二人が振り向くと、弓を背負った少女がこちらを見ていた。


 明るい栗色の髪をひとつにまとめ、親しみやすい笑顔を浮かべている。


 タケルの目が少し見開かれた。


「……サキ」


「また知ってんの?」


「王道ヒロイン。面倒見がよくて、序盤から好感度を上げやすいタイプ」


「攻略本じゃん」


「僕、やったことあるって言ったよね……」


 サキはタケルが持っている杖に気づいたらしい。


「魔法使いなんだね。今日登録?」


「あ、うん……たぶん」


「たぶん?」


「ご、ごめん」


「なんで謝るの?」


 サキがくすっと笑う。


 つられるようにタケルも少しだけ笑った。


【サキの好感度が上がりました】


「……え?」


 文字を見たレナードが小さく声を漏らす。


 その時、ギルドの奥から白い修道服をまとった少女が歩いてきた。腕には包帯と薬草を抱え、柔らかな雰囲気をまとっている。


「サキ、これ運ぶの手伝ってもらえますか?」


「あ、マイ。今行く!」


 タケルがまた小さく呟いた。


「マイ……シスター。回復役だ」


 マイは二人に気づくと、穏やかに微笑んだ。


「初めて見る方ですね」


「あ、今日来たばかりで……」


「そうなんですね。もし怪我をされたら、無理をせず声をかけてくださいね」


「ありがとう……ございます」


【マイの好感度が上がりました】


 レナードが無言になる。


「……」


 タケルはそんなことにも気づかず、普通に頭を下げていた。


「田中」


「何?」


「お前、何した?」


「え?」


「今」


「何もしてないけど……」


 レナードが納得できない顔をしていると、今度はギルドの入口から奇妙な鳴き声が聞こえてきた。


「キュルルッ」


 周囲の冒険者たちが一斉に振り返る。


 そこには、大きな獣型の魔物を連れた少女が立っていた。


 少女は周囲の視線など気にもせず、魔物と一緒にギルドへ入ってくる。


「邪魔だから、そこどいて」


「魔物!?」


 レナードが反射的に剣へ手を伸ばした。


「やめて」


 少女は魔物の頭を撫でる。


「この子、優しいから」


「いや、牙すごいけど」


「お腹空いてるだけ」


 タケルが小声で呟いた。


「アヤコ……テイマー」


「これもヒロイン?」


「うん。行動パターンが読みづらい」


「見りゃ分かるわ」


 アヤコは二人にほとんど興味を示さず、そのまま魔物を連れて奥へ消えていった。


「自由すぎんだろ……」


 レナードが呟いた、そのすぐ脇を、小柄な少女が大量の書類を抱えて通り過ぎた。


「あ、すみません……」


 地味な服装に、目立たない髪型。


 冒険者というより、ギルドで雑用をしている少女にしか見えない。


 レナードは特に気に留めなかった。


 だがタケルだけが、その後ろ姿を目で追っていた。


「……今の子」


「何?」


「いや……」


 少し考えたあと、タケルは首を振る。


「なんでもない」


     ◇


 冒険者登録を終えた二人は、受付横のベンチに座っていた。


 レナードの職業欄には【勇者】。


 タケルには【魔法使い】。


 受付係ですら一瞬固まったほど珍しい組み合わせらしいが、レナードはそんなことより、自分の職業欄を見て満足そうに笑っていた。


「やっぱ俺、すごいじゃん」


「職業だけならね……」


「だけって何?」


 レナードが笑いながらステータス画面を開く。


 すると、その横に見覚えのない項目が追加されていた。


【好感度一覧】


「お」


 タケルも横から覗き込む。


【イオリ】

レナード:12

タケル:18


「……は?」


【サキ】

レナード:25

タケル:34


「ちょ待って」


【マイ】

レナード:20

タケル:31


「……」


 レナードは画面からゆっくり顔を上げ、無言でタケルを見る。


「な、何?」


「お前さ」


「うん……」


「前世では女友達もいなかったじゃん」


「……確かに」


 タケルは少し考えてから、ぼそっと付け加えた。


「童貞だもんな……」


「自分で言うなよ!!」


 レナードはもう一度、好感度一覧を見る。


 イオリも。


 サキも。


 マイも。


 全部負けている。


「……なんで」


「僕にも分からないけど……」


 レナードは勢いよく立ち上がった。


「なんでこんなのに負けてんだァァァァァ!!」


 ギルド中に叫び声が響き渡る。


 周囲の冒険者たちが一斉に振り返る中、タケルは小さく肩をすくめた。


「こんなのって言わないでよ……」

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