第17話 正式加入
隠しダンジョンから戻った翌日。
スターライトの面々は、いつものように冒険者ギルドへ集まっていた。
ただ一つ、いつもと違うことがある。
「……いるじゃん」
レナードが受付の奥を見ながら言った。
そこではミハルが、昨日までと変わらない様子で書類を整理していた。
「いるね」
タケルも頷く。
「普通に仕事してんじゃん」
「ギルド職員だからね」
「昨日あんな短剣振り回してたのに?」
「盗賊だったけどね……」
「で、今日これ?」
レナードは書類の束を抱えるミハルを指差す。
「切り替え早くね?」
「仕事だからじゃない?」
「社会人つえー」
そんなことを話していると、ミハルがこちらに気づいた。
「おはようございます」
「おはよー」
「おはようございます」
いつも通りの挨拶。
昨日、隠しダンジョンで罠を解除し、短剣で魔物を倒していた人物とは思えない。
レナードは少しだけじっと見る。
「何ですか?」
「いや」
「?」
「普通だなーって」
「普通ですよ」
「昨日もそう言ってたじゃん」
「言ってませんけど」
「雰囲気で」
ミハルは困ったように笑った。
その横でタケルは、昨日解放された情報をもう一度確認する。
【ミハル】
【職業:盗賊】
【好感度:18】
ちゃんと表示されている。
「……やっぱり出る」
「まだ確認してんの?」
「だって昨日まで何もなかったんだよ」
「もう隠しヒロイン確定したんだからいいじゃん」
「確定って言い切っていいのかな……」
「好感度まで出てんじゃん」
「そうだけど」
レナードは少し考えたあと、ミハルへ向き直った。
「でさ」
「はい?」
「今日も仕事?」
「その予定です」
「ふーん」
レナードは数秒黙った。
そして、何でもないことのように言う。
「スターライト入れば?」
「……え?」
ミハルが固まった。
タケルも固まる。
「レナード!」
「何?」
「急すぎるよ!」
「そう?」
「そうだよ!」
イオリたちもこちらを見る。
サキが目を丸くした。
「ミハルが?」
「うん」
レナードはあっさり頷く。
「罠分かるし、鍵とか開けられそうだし、戦えるし」
「人を便利機能みたいに言わないで」
タケルが小声で突っ込む。
「いやでも便利じゃん」
「聞こえてますよ」
「あ、ごめん」
ミハルは苦笑した。
レナードはそのまま続ける。
「俺ら盗賊いないし。今後また隠しダンジョンとかあったら助かるじゃん」
「それだけ?」
イオリが聞く。
「あと普通に一緒にいて楽しかったし」
レナードは何の照れもなく言った。
「昨日も言ってたじゃん。俺らといるの楽しいって」
「……言いましたね」
「じゃあ入れば?」
あまりにも軽い。
けれど、レナードにとってはそれで十分だった。
強いか弱いかではなく、一緒にいたいと思えるかどうか。
以前、トップパーティーから引き抜きを持ちかけられた時もそうだった。
レナードは、仲間を数字では選ばない。
ミハルは少しだけ黙った。
「でも……」
「何?」
「私はギルド職員です」
「辞めれば?」
「軽いですね」
「掛け持ちは?」
「それはギルドに確認しないと」
「じゃあ聞こう」
「今?」
「今」
「レナードって、ほんと行動早いね……」
タケルが呆れる。
「考えてる間に聞いた方が早いじゃん」
「それが陽キャなんだろうな……」
「何その分類」
◇
それから数分後。
話を聞いたギルドマスターは、意外にもすぐ許可を出した。
「構わん」
「いいの?」
レナードが聞く。
「ミハルは元々、現場の調査にも出ている。ギルド職員として籍を残したまま、スターライトの依頼に同行する形なら問題ない」
「え」
タケルが反応する。
「元々、現場に出てたんですか?」
「ああ」
「……」
タケルがミハルを見る。
「だから詳しかったんだ……」
「全部隠しキャラ補正じゃなかったね」
レナードが笑う。
「でも盗賊なのは?」
「それは本人に聞け」
ギルドマスターに言われ、全員の視線がミハルへ集まる。
ミハルは少し困ったように笑った。
「昔、身につけただけです」
「どこで?」
タケルが聞く。
「色々です」
「そこ濁すんだ……」
「そのうち話します」
「また隠すじゃん」
レナードが笑う。
「隠しヒロインだから?」
「本人に言うのやめてよ!」
「ヒロイン?」
ミハルが首を傾げる。
「何でもないです!」
タケルが慌てて誤魔化した。
◇
こうして、ミハルは正式にスターライトへ加わることになった。
と言っても、いきなり全てが変わるわけではない。
ギルドの仕事がある日は受付や書類整理を続け、依頼へ出る時だけスターライトに同行する。
その形が、ミハルには一番合っていた。
「よろしくお願いします」
ミハルが改めて頭を下げる。
「よろしくー」
サキが嬉しそうに手を差し出した。
「女の子増えた!」
「そこ?」
イオリが笑う。
「でも、助かるわ。罠を見られる人がいるのは大きいもの」
「私も嬉しいです」
マイも微笑む。
アヤコの隣では、魔物がミハルの匂いを嗅いでいた。
「この子も気になるって」
「噛みませんよね?」
「たぶん」
「たぶんなんですね……」
そんなやり取りを見ながら、タケルは少しだけほっとしていた。
ゲームでは見たことのないキャラクター。
存在しなかったはずの隠しダンジョン。
知らない要素は増えている。
それでも今のところ、それは悪いことではなかった。
「タケル」
「何?」
レナードが横から好感度表を覗き込む。
「ミハル今いくつ?」
「十八」
「低っ」
「初期だからね」
「でも俺、もう結構喋ってるじゃん」
「攻略してないでしょ」
「挨拶した」
「挨拶だけで落ちないよ」
「でも可愛いって言ったら喜んだじゃん」
「それまだ言うの?」
「だってイオリと違って――」
「レナード」
背後から声がした。
「……はい?」
振り返る。
イオリが笑っていない。
「何?」
「なんでもないです」
「そう」
イオリはそのまま歩いていった。
レナードは少し待ってから、タケルへ顔を近づける。
「今危なかった?」
「かなり」
「爆弾?」
「たぶん」
「怖っ」
◇
その日の午後。
せっかく正式加入したのだからと、スターライトは簡単な討伐依頼を受けることになった。
相手は街外れに出没している盗賊ゴブリンの群れ。
難易度は高くない。
ただし、森の中に罠を仕掛ける厄介な種類だった。
「ミハル向きじゃん」
レナードが言う。
「そうですね」
森へ入って数分。
早速ミハルが手を上げた。
「止まってください」
「罠?」
「はい」
地面には枯れ葉が積もっている。
普通に見れば何もない。
ミハルが枝で軽く触れた瞬間、縄が跳ね上がった。
「うわ」
サキが一歩下がる。
「全然見えなかった」
「これ踏んだら?」
レナードが聞く。
「逆さ吊りです」
「俺ちょっと踏んでみていい?」
「ダメです」
「なんで?」
「遊びじゃないからです」
「一回くらい」
「ダメです」
「真面目だなー」
「レナードがふざけすぎなのよ」
イオリが呆れる。
その後も、ミハルは次々と罠を見つけた。
落とし穴。
鳴子。
毒針。
仕掛けられた場所だけでなく、敵が潜んでいそうな方向まで読んでいく。
「右奥、三体います」
「見えんの?」
「足跡があります」
「俺には葉っぱしか見えない」
「向いてないんじゃない?」
タケルが言う。
「俺、勇者だからいいし」
「万能ではないんだね」
「戦闘は万能」
「そこは認めるよ……」
◇
敵の拠点を見つけると、今度はミハルの戦い方がはっきり見えた。
正面から力で押すタイプではない。
物陰に身を隠し、敵の死角へ回る。
一体がレナードへ注意を向けた瞬間、その背後へ滑り込んで足を払う。
別のゴブリンがサキへ近づけば、短剣を投げて動きを止める。
「うまっ」
レナードが感心する。
「やっぱ普通に強いじゃん」
「正面からは苦手です」
「その言い方便利だな」
「本当ですよ」
残りの敵はスターライト全員であっという間に片づけた。
戦闘が終わると、ミハルは短剣についた汚れを拭き取りながら周囲を確認する。
「怪我してる方はいませんか?」
「大丈夫!」
サキが答える。
「こっちも平気」
イオリも剣を収めた。
レナードはそんなミハルを見ながら、満足そうに頷く。
「やっぱ入れて正解じゃん」
「レナード」
「何?」
「それ、物みたいな言い方だよ……」
「そう?」
タケルがため息をつく。
ミハルは気にした様子もなく笑った。
「私は嬉しいですよ」
「ほら」
「そこじゃないって」
その時、表示が浮かぶ。
【ミハルの好感度が少し上がりました】
「お」
レナードが気づく。
「また上がった」
「普通に仲間として信頼されてるんじゃない?」
「俺?」
「スターライト全体」
「俺じゃないの?」
「なんで全部自分だと思うの……」
◇
夕方。
依頼を終え、全員で街へ戻る。
昨日までなら、ミハルはギルドで待っている側だった。
今日は違う。
同じ依頼を受けて、同じ道を歩いて帰っている。
「なんか変な感じですね」
ミハルが言った。
「何が?」
「今までは、皆さんが帰ってくるのを待ってたので」
「これからは一緒に帰ってくればいいじゃん」
レナードがさらっと答える。
「……そうですね」
ミハルは少しだけ嬉しそうに笑った。
【ミハルの好感度が少し上がりました】
「また上がった」
タケルが呟く。
レナードも表示を見る。
「ほんとじゃん」
「自然に上がってるね」
「……」
レナードはしばらくミハルを見たあと、ぽつりと言った。
「やっぱイオリより――」
「言わない方がいいよ」
「まだ何も言ってないじゃん!」
「顔で分かる」
「ひどくない?」
前を歩いていたイオリが振り返る。
「何の話?」
「何でもない!」
レナードの返事だけが、やけに早かった。




