第15話 隠しヒロイン?
合同修行を終えてから数日。
スターライトの面々は、いつものように冒険者ギルドへ集まっていた。
最近は少しずつ難しい依頼もこなせるようになり、ギルド内で声をかけられることも増えている。
以前なら「勇者一人だけが異常に強いパーティー」という見られ方だったが、今ではそれぞれが戦えるようになり、少しずつ一つのパーティーとして認識され始めていた。
「スターライトって呼ばれるの、なんか慣れねぇな」
レナードが依頼掲示板を眺めながら言う。
「自分たちで決めたんじゃないの?」
サキが笑う。
「まあそうだけど。もっとこう、言われると恥ずいじゃん」
「決める時はノリノリだったくせに」
イオリに言われ、レナードは肩をすくめた。
「アルカディアみたいな名前にしとけばよかったかな」
「それ、トップパーティーの名前でしょ」
タケルが横から言う。
「じゃあ被るじゃん」
「だからダメなんだよ……」
そんなやり取りをしながら依頼を探していると、ギルドの奥から大量の書類を抱えた女性が歩いてきた。
いつも受付の補助や書類整理をしている、ギルド職員の一人だった。
「失礼します」
彼女はレナードたちの横を通り抜けようとして、足元に一枚の紙を落とした。
「あ」
「落としたよ」
タケルが拾い上げる。
「ありがとうございます」
女性は丁寧に頭を下げた。
その顔を見た瞬間、レナードが少し目を見開く。
「え、可愛いねー!」
「……」
タケルが横を見る。
女性は一瞬驚いたものの、すぐに柔らかく笑った。
「ありがとうございます」
「ほら!」
レナードがすぐタケルを見る。
「普通に喜ぶじゃん!」
「何の話……?」
「こういうのだよ! こういう反応!」
レナードは嬉しそうに女性の方を見る。
「俺これ普通の挨拶だから」
「ご挨拶で言うんですか?」
女性が少し笑う。
「言う言う。可愛いと思ったら普通に言うよ」
「そうなんですね」
まったく嫌がる様子がない。
むしろ少し照れたように笑っている。
レナードは満足そうに頷いた。
「やっぱこれが普通じゃん」
その横で、タケルだけが女性をじっと見ていた。
「……」
「何?」
「いや……」
「またなんかあんの?」
タケルは少し考えたあと、女性へ聞いた。
「あの、名前って……」
「ミハルです」
「ミハル……」
タケルの表情が変わった。
「何?」
レナードが聞く。
「名前ある」
「そりゃあるだろ」
「そうじゃなくて……」
タケルは小声になる。
「ゲームで、ギルドの職員に名前のあるキャラってほとんどいなかったんだよ」
「へえ」
「少なくとも、僕の記憶ではミハルっていう職員はいなかった」
「じゃあ新キャラ?」
「分からない」
レナードはもう一度ミハルを見る。
書類を抱えているだけの、ごく普通のギルド職員にしか見えない。
「でも好感度出てないじゃん」
「……うん」
タケルも確認する。
いつものような表示は何も出ていない。
「じゃあやっぱ違うんじゃね?」
「でも名前あるんだよ」
「名前ある可愛い一般人じゃん」
「それが怪しいんだって」
レナードは引いたような顔をした。
「ゲーム脳こわっ」
「そういう意味じゃないよ!」
◇
それから数日。
タケルは、何となくミハルを気にするようになっていた。
ギルドに来れば、かなりの頻度でいる。
書類を運んでいる時もあれば、受付の手伝いをしている時もある。
依頼書の整理をしていたり、冒険者たちへ簡単な案内をしていたりもする。
どこからどう見ても、ごく普通のギルド職員だった。
「まだ見てんの?」
レナードがパンを食べながら言う。
「だって気になるんだよ」
「何が?」
「普通すぎるところ」
「普通すぎるのが怪しいって、もう探偵じゃん」
「ゲームだとこういうキャラが……」
「はいはい、隠しキャラね」
「まだそうとは言ってないよ」
「顔に書いてある」
タケルは少しむっとしながらも、視線を戻した。
その時。
別の冒険者が受付で声を荒げた。
「この依頼、北の洞窟だろ? 入口が崩れて入れないって聞いたぞ」
「通常の入口は使えません」
受付嬢が困ったように答える。
「じゃあどうすんだよ」
その会話を聞いていたミハルが、書類を置いた。
「東側に古い搬入口があります」
「え?」
冒険者が振り向く。
「今は使われていませんが、中へは繋がっています。ただ、途中に落とし穴が二つあるので、壁沿いに進んだ方が安全です」
「……詳しいな」
「昔の地図に載っていますので」
ミハルは何でもないことのように答えると、そのまま仕事へ戻った。
「……」
タケルが固まる。
「何?」
レナードが聞く。
「今の」
「地図見てただけじゃん」
「落とし穴まで知ってた」
「地図に書いてたんじゃない?」
「古い搬入口の場所まで即答した」
「仕事できる人なんじゃね?」
「……」
タケルはますます怪しそうにミハルを見る。
「絶対なんかある」
「それ本人に言うなよ」
◇
さらに翌日。
スターライトが依頼から戻ると、ミハルが受付近くで書類を整理していた。
「お疲れ様です」
「ただいまー」
レナードが軽く手を振る。
ミハルも笑顔で頭を下げた。
「今日はどうでした?」
「余裕」
「レナードがほとんど倒したけどね」
イオリが言う。
「今日は半分くらい残したじゃん」
「半分も取ったのよ」
「俺にしては我慢した方でしょ」
そんな会話を聞きながら、ミハルが少し笑う。
レナードはそれに気づいた。
「何?」
「仲がいいんですね」
「まあね」
レナードはそのまま何気なく続ける。
「ミハルも今度一緒に行く?」
「え?」
「冒険」
「私がですか?」
「うん」
タケルが横で思い切り反応した。
「レナード!」
「何?」
「急に誘わないでよ!」
「別にいいじゃん」
ミハルは少し困ったように笑った。
「私はギルド職員なので」
「そっか」
「戦えませんし」
「じゃあ無理か」
レナードはあっさり引いた。
その瞬間。
タケルが小さく呟く。
「……戦えない?」
「何?」
「いや」
ミハルはそのまま書類を持って奥へ行ってしまった。
タケルは背中を見送りながら、考え込む。
「絶対怪しい」
「だから何が」
「戦えないって、自分から言った」
「普通じゃん」
「でもこのゲームで名前があるキャラが――」
「また始まった」
◇
夕方。
レナードとタケルは宿へ戻りながら、今日のことを話していた。
「で、結局どう思ってんの?」
レナードが聞く。
「分からない」
「攻略対象?」
「それも分からない」
「好感度出てないし」
「うん」
「じゃあ違うじゃん」
「でも名前ある」
「そこから離れろよ」
タケルは少し考え込んだあと、ぽつりと言った。
「……隠しヒロインかもしれない」
「は?」
レナードが立ち止まる。
「普通の攻略対象じゃなくて、条件満たさないと好感度も出ないタイプ」
「そんなのあんの?」
「ある」
「めんどくさ」
「だから隠しなんだよ」
レナードは少し考えたあと、首を傾げた。
「でもさ」
「何?」
「隠れてなくね?」
「え?」
「毎日ギルドいるじゃん」
「そういう意味じゃないよ!」
「普通に書類持って歩いてんじゃん!」
「存在が隠れてるんじゃなくて、ルートが隠れてるの!」
「分かりづら!」
タケルはため息をついた。
「とにかく、少し調べたい」
「好きにすれば?」
「レナードも協力してよ」
「なんで俺が?」
「コミュ力あるから」
「そこだけ便利に使うじゃん」
「お願い」
レナードは少し考えたあと、肩をすくめた。
「まあいいけど」
そして、ふと思い出したように笑う。
「でもミハル、普通に可愛いよな」
「うん」
「しかも褒めたらちゃんと喜ぶし」
「うん……」
「イオリより絶対――」
タケルがすぐに遮った。
「最後まで言わない方がいいよ」
「なんで?」
「爆弾」
「……」
レナードが周囲を確認する。
イオリはいない。
「いないじゃん」
「聞こえてなくてもやめた方がいいって」
「でもさ」
レナードは少し悔しそうに口を尖らせる。
「可愛い上に落としやすそうじゃねぇかァァァ!!!」
「だから言い方!!」
夕暮れの通りに、タケルの声が響いた。




