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陰キャは恋愛無双、陽キャは戦闘無双――転生したら得意分野が逆でした  作者: 夜嶋朔


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第14話 陰キャの休日

 合同修行が終わった翌日。


 久しぶりに、完全な休暇が与えられた。


 朝から依頼も訓練もなく、武器の手入れさえ済ませてしまえば何をしてもいい。


 タケルは宿の部屋で目を覚ますと、しばらく天井を見つめた。


「……休みだ」


 思わず小さく呟く。


 ここ最近は、ダンジョンに潜ったり修行したりで、まともに一日何もしない日はなかった。


 前世なら。


 休日なんて家から出ずにゲームをして、漫画を読んで、気がつけば夜になっていた。


「今日は久しぶりにゆっくり――」


 コンコン。


「タケルー?」


 扉の向こうから、聞き慣れた明るい声がした。


「……はい?」


 扉を開けると、そこにはサキが立っていた。


「今日休みでしょ?」


「う、うん」


「私、街見に行こうと思ってるんだけど、一緒に行かない?」


「僕と?」


「うん」


 タケルは固まった。


「……なんで?」


「なんでって、休みだから?」


「そうじゃなくて……僕でいいの?」


 サキは一瞬きょとんとしたあと、笑った。


「タケルがいいから誘ってるんだけど」


「……」


 タケルの顔が一気に赤くなる。


 その瞬間。


【サキとの休日イベントが発生しました】


「……!」


 タケルは目の前に浮かんだ表示を見て、さらに固まった。


「どうしたの?」


「な、なんでもない!」


「じゃあ行こ!」


「う、うん……」


     ◇


 それから少しして。


 街の大通りには休日を楽しむ人々が溢れていた。


 露店では焼きたてのパンや串焼きが売られ、雑貨屋や服屋の前にも人だかりができている。


 その中を、タケルとサキが並んで歩いていた。


「この辺、ちゃんと見たことなかったんだよね」


「僕も」


「いつも依頼の行き帰りだけだもんね」


 サキは楽しそうに店を覗きながら歩いている。


 タケルは隣にいるだけで落ち着かず、何度も視線の置き場所に困っていた。


 そして。


 二人から十数メートル離れた場所。


「……青春してんなー」


 レナードが串焼きを食べながら歩いていた。


 完全に尾行である。


 本人は隠れているつもりらしいが、長身の美形が屋台を渡り歩いているのでむしろ目立っていた。


「サキめっちゃ楽しそうじゃん」


 串を一口。


「タケルも意外と普通に喋れてんじゃん」


 さらに一口。


「やるねぇ」


 今度は隣の屋台で揚げ菓子を買う。


「……これうま」


 もはや何をしに来たのか分からなくなり始めていた。


     ◇


 タケルとサキは雑貨屋に入り、店内を見て回っていた。


「これ可愛くない?」


 サキが手に取ったのは、小さな羽根の飾りがついた髪留めだった。


「うん。サキに似合うと思う」


「ほんと?」


「うん」


 タケルは少し迷ったあと、続ける。


「その色、普段使ってる弓にも合いそうだし」


「そこ見るんだ」


「え?」


「普通、髪とか服に合うって言わない?」


「そ、そうなの?」


 タケルが焦ると、サキは吹き出した。


「でも、なんかタケルらしい」


【サキの好感度が少し上がりました】


 少し離れた店先でレナードが焼き菓子をかじりながら、その表示を見ていた。


「普通に上がってんじゃん」


 もぐもぐ。


「俺がアドバイスしなくてもいけるようになってんの?」


 もぐもぐ。


「成長したな、陰キャ」


 その時。


「レナード?」


「ん?」


 声をかけられ、レナードが振り向く。


「何してるの?」


 そこにはマイが立っていた。


「見張り」


「……何を?」


「タケル」


「どうして?」


「休日イベントだから」


「よく分かりませんけど……」


 マイは苦笑しながら、両手いっぱいに抱えている紙袋を持ち直した。


「買い出し?」


「はい。教会で使うものを少し」


「重そうじゃん。持とうか?」


「え?」


「半分貸して」


 レナードが自然に手を伸ばした瞬間。


「タケルさん!」


 少し先からマイが声を上げた。


「え?」


 タケルが振り向く。


 サキも一緒に立ち止まる。


「こんにちは」


「こんにちは」


 マイはレナードから荷物を受け取らず、そのままタケルへ近づいた。


「ちょうどよかったです。これ、少しだけお願いしてもいいですか?」


「もちろん」


 タケルが袋を受け取る。


「ありがとうございます」


【マイの好感度が少し上がりました】


「……」


 レナードの手だけが空中に残った。


「俺も持とうとしたんだけど?」


 誰も聞いていなかった。


     ◇


 しばらくして、マイと別れた二人が大通りを進んでいると、今度はアヤコとその魔物に出会った。


「タケル」


「あ、アヤコ」


「この子、また肉欲しいって」


 アヤコの隣にいる魔物が、肉串の屋台をじっと見ている。


「また?」


「好きみたい」


「じゃあ買おうか」


 タケルは何の迷いもなく屋台へ行き、味付けされていない肉を一つ買った。


「はい」


 魔物は嬉しそうに食べ始める。


 アヤコがその様子を見ながら小さく笑った。


「覚えてたんだ」


「塩ついてない方がいいんでしょ?」


「うん」


【アヤコの好感度が少し上がりました】


 少し離れたところで、レナードが今度は肉まんのようなものを食べながら固まった。


「……また?」


 もぐもぐ。


「こいつ今日サキと歩いてるだけだよな?」


     ◇


 さらにその少し後。


 武器屋の前を通りかかったところで、今度はイオリと鉢合わせた。


「イオリ?」


「タケル。サキも」


「何してるの?」


 サキが聞く。


「剣の手入れを頼みに来ただけよ」


「休みの日まで剣?」


 タケルが思わず言うと、イオリが眉を上げた。


「悪い?」


「悪くないけど……休みの日くらい、訓練休んでもいいんじゃない?」


「……」


「ずっと修行してたし」


 タケルは本当に何気なく言っただけだった。


 けれどイオリは少し意外そうに彼を見る。


「あなたに言われるとは思わなかったわ」


「ご、ごめん」


「別に怒ってない」


 イオリは少しだけ表情を緩めた。


「今日は剣を預けたら休むつもりよ」


「そっか」


【イオリの好感度が少し上がりました】


「……なんで?!」


 少し離れたところから声が飛んできた。


 全員が振り向く。


 レナードが串焼きを片手に立っていた。


「レナード?」


 イオリが訝しげに見る。


「何してるの?」


「……観光」


「さっき見張りって言ってませんでした?」


 マイがいつの間にか後ろにいた。


「どっちでもいいじゃん!」


     ◇


 その後も、タケルとサキの休日は続いた。


 途中でゲーム屋のような遊技場を覗いたり、屋台で軽く食べたり、広場の噴水の前で休んだり。


 タケルは最初こそ「これはイベントか」「この選択肢で合ってるか」と頭の中で考えていたが、次第にそんなことを忘れていった。


「タケルって、休みの日いつも何してたの?」


 噴水の縁に座りながら、サキが聞く。


「前?」


「うん」


「……ゲーム」


「それだけ?」


「漫画も読む」


「家から出ないの?」


「ほとんど」


「へえー」


 サキは面白そうに笑う。


「じゃあ今日、かなり珍しい日だね」


「そうかも」


「楽しい?」


 タケルは少し考えた。


 ゲームなら、ここでどの答えを選べば好感度が上がるか考える。


 けれど今は。


「……楽しいよ」


 普通にそう答えた。


 サキは一瞬黙ったあと、嬉しそうに笑った。


「私も」


【サキの好感度が大きく上がりました】


 タケルは表示を見た。


 けれど今度は、数字を確認しなかった。


     ◇


 夕方。


 二人が宿へ戻る頃には、レナードの両手には屋台で買った食べ物の包みがいくつも残っていた。


「疲れたー」


「レナード、今日何してたの?」


 タケルが聞く。


「お前ら見張ってた」


「ずっと?」


「うん」


「なんで?」


「イベントだから」


「意味分かんないよ……」


 部屋へ戻ると、タケルは今日の好感度表を確認した。


【サキの好感度が大きく上がりました】

【マイの好感度が少し上がりました】

【アヤコの好感度が少し上がりました】

【イオリの好感度が少し上がりました】


「……」


 隣から覗き込んだレナードが固まった。


「待って」


「何?」


「お前、今日サキとデートしてただけじゃね?!」


「途中でみんなに会ったけど……」


「会っただけじゃん!」


「少し話したりはしたよ」


「それで全員上がんのおかしくね?!」


 タケルも困ったように好感度表を見る。


「僕に言われても……」


「しかも俺、一日中お前ら見張ってただけなんだけど!」


「見張ってたっていうか……食べてたよね」


「……」


「ずっと」


 レナードは手元に残っている串と紙袋を見る。


 確かに。


 今日は戦っていない。


 攻略もしていない。


 誰かとデートもしていない。


 ただ、街を歩きながら食べ続けていただけだ。


「……俺だけ普通に休日満喫しただけじゃん!!」


 タケルは笑いながら、もう一度好感度表を見る。


 その中で。


 サキの数字だけが、他より大きく伸びていた。

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