↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰キャは恋愛無双、陽キャは戦闘無双――転生したら得意分野が逆でした  作者: 夜嶋朔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/40

第13話 俺の時代

 深層ダンジョンから戻って数日。レナードたちは冒険者ギルドの訓練場に集まっていた。


 最近は明らかに依頼の難易度が上がってきている。ウルフやゴブリンだけならともかく、オーガや大型魔獣まで当たり前のように出てくるようになった。


 レナード一人なら、まだどうにでもなる。


 けれど、これから先もずっと自分一人で全部倒していくわけにはいかない。


「このままじゃ、みんなキツくない?」


 レナードがそう言うと、隣で杖を持っていたタケルも頷いた。


「僕もそう思う」


「特にタケル」


「僕?」


「全然ダメじゃん」


「そこだけ具体的に言わなくてよくない……?」


 以前より魔法は強くなっている。火球もそこそこの大きさになったし、少なくとも焚き火なら一瞬でつけられる。


 ただ、強敵相手となるとまだ心許ない。


「でも、誰に教えてもらう?」


 サキに聞かれ、レナードは腕を組んだ。


「俺じゃ魔法分かんねぇしなー」


 そう言いながら訓練場を見回していると、少し離れた場所で別のパーティーが稽古をしているのが目に入った。


 以前、レナードに決闘を挑んできたトップパーティーだった。


「……あ」


 レナードの目が止まる。


「いるじゃん」


「何が?」


「先生」


「え?」


 レナードは何の迷いもなく、そのまま彼らの方へ歩き出した。


「ちょっと頼んでくる」


「そんなノリで?!」


     ◇


「なあ」


 突然声をかけられたトップパーティーの面々が、一斉に振り向いた。


「レナードさん?」


「今度さ、ちょっと修行付き合ってよ」


「修行?」


「うん。こいつらもっと強くしたくてさ」


 レナードは後ろにいる仲間たちを親指で指したあと、そのままタケルを指す。


「特にタケルが全然ダメだから教えてくんね?」


「だから僕だけ名指ししないでよ!」


 タケルの声が訓練場に響き、トップパーティーのリーダーは少し驚いたあとに笑った。


「もちろん構わない。ただし、条件があります」


「何?」


 リーダーは自分たちの仲間へ視線を向けた。


「その代わり、レナードさんはこちらの剣豪や勇者にご指南願いたい」


「いいよー」


「軽っ!」


 タケルが即座に突っ込む。


「だって教えるだけでしょ?」


「相手トップパーティーだよ?」


「だから?」


「……なんでもない」


 こうして、何とも軽いノリで合同修行が決まった。


     ◇


 翌朝から、二つのパーティーは本格的な訓練を始めた。


 まず捕まったのはタケルだった。向こうの魔法使いは、彼の魔法を何度か見たあとですぐに問題点を指摘する。


「魔力を一気に出そうとしすぎだ」


「え?」


「お前は総量が少ない。なら威力を上げるより、無駄を減らせ。もっと細く、狙いを絞れ」


「無駄を減らす……」


 タケルは言われた通りに杖を構えた。


「火よ!」


 飛び出した火球は、以前ほど大きくはない。けれど一直線に飛び、標的の中心へ正確に命中した。


「お」


 少し離れたところにいたレナードが振り返る。


「当たったじゃん!」


「うん!」


「焚き火以外でも使えそうじゃん!」


「まだそれ言うの?!」


 タケルの横では、サキも弓使いから姿勢を細かく直されていた。


「肩に力を入れすぎない。撃つ直前に一瞬だけ呼吸を止めて」


「こう?」


「そう」


 サキが矢を放つと、今までより鋭く飛び、遠くの的の中心へ突き刺さった。


「やった!」


「サキすげぇじゃん!」


 レナードが声を飛ばすと、サキは嬉しそうに笑った。


 アヤコは魔物との連携を重点的に教わっていた。指示を出してから動かすのではなく、敵の動きを予測して先に位置を取らせる。


 マイは回復魔法の範囲と速度。


 イオリは、複数人で戦う時の前衛としての立ち位置や、味方との距離の取り方を学んでいた。


 そしてレナードは、向こうの剣豪と勇者を相手にしていた。


「次、俺お願いします!」


「いいよー」


「本気でお願いします!」


「本気でやったら死ぬけど」


「……少しだけ抑えてください」


「了解」


 二対一。それでもレナードにはかなり余裕があった。


 相手の剣を軽く受け流しながら、


「踏み込み遅いよ」


 もう一人の攻撃をかわし、


「そこ、一回下がった方がいい」


 さらに剣を振る相手へ、


「腕だけで振らない。身体ごと」


 そう言って一瞬で懐へ入り、その剣先を喉元で止める。


「こう」


「……速すぎて分かりません!」


「マジ?」


「もっとゆっくりお願いします!」


「むずいなー」


 レナードは困ったように頭を掻いた。


 少し離れた場所で、それをイオリが静かに見ていた。


 以前のレナードなら、ただ圧倒的に強いだけだった。自分が勝つことしか考えていないように見えたこともある。


 けれど今は違う。


 相手の動きをちゃんと見て、必要以上に力を出さず、どうすれば強くなれるかまで考えて教えている。


 イオリは何も言わず、もう一度自分の剣を構え直した。


     ◇


 合同修行は、それから数日続いた。


 中でも分かりやすく変わったのはタケルだった。


 大きな火球を一発撃ってすぐ疲れるのではなく、小さな火球を何発も正確に当てる。その方が魔力の消費も少なく、実戦ではずっと使いやすい。


「三発!」


 タケルが杖を振ると、三つの火球が続けて飛び、離れた標的へ一発ずつ命中した。


「おおー!」


 レナードが拍手する。


「やるじゃん!」


「ほんと?」


「焚き火三つ同時にいけるじゃん!」


「戦闘で褒めてって言ってるよね?!」


 サキがそのやり取りを見て笑う。


「でも、ほんとに強くなったよね」


「う、うん」


【サキの好感度が少し上がりました】


 レナードは浮かんだ表示を見て眉を上げた。


「修行でも上がんのかよ」


「頑張ってるからじゃない?」


「青春じゃん」


「異世界だけどね」


 それぞれの成長も目に見えていた。


 イオリは一人で前へ出すぎなくなり、サキは狙いが安定した。アヤコと魔物の連携は以前よりずっと速く、マイも回復の判断が早くなっている。


 タケルも、まだ強いとは言えない。


 それでも以前のようにレナードの後ろで見ているだけではなくなった。


「結構いい感じじゃん」


 レナードが満足そうに頷くと、タケルが少し笑った。


「レナードのおかげでもあるよ」


「俺?」


「この人たちに頼んでくれたから」


「いや、頼んだだけじゃん」


「それができるのがすごいんだよ。僕なら絶対声かけられないし」


「普通に言えばいいだけじゃん」


「それができないんだって……」


 レナードは本気で分からないような顔をして首を傾げた。


     ◇


 合同修行最終日。


 全員が訓練を終え、片づけを始めていた時だった。


「レナードさん」


 後ろから声をかけられ、レナードが振り返る。


 そこには、トップパーティーの女剣士が立っていた。


「今日もありがとうございました」


「全然。俺も楽しかったし」


「その……」


 女剣士は少しだけ視線を逸らした。


「レナードさんって、思ってたより優しいんですね」


「思ってたより?」


「最初はもっと、自信家で近寄りにくい人かと思ってました」


「自信家ではあるけどね」


「そこは否定しないんですね」


 女剣士が思わず笑う。その頬は、ほんの少し赤くなっていた。


「また、個人的にも剣を教えてもらえたら嬉しいです」


「いいよー」


「本当ですか?」


「うん」


 女剣士はぱっと表情を明るくし、


「ありがとうございます!」


 嬉しそうに去っていった。


 レナードはその背中を見送りながら首を傾げる。


「何あれ」


 少し離れた場所で見ていたタケルが、言いにくそうに口を開いた。


「レナード」


「何?」


「たぶん、その人……」


「何?」


「レナードのこと好きなんじゃない?」


「俺?」


「うん」


「マジ?」


     ◇


 ギルドへ戻ると、今度は受付嬢がレナードの姿を見つけて笑顔になった。


「レナードさん、お疲れ様です」


「お疲れー」


「合同修行、今日までだったんですね」


「そうそう」


「少し寂しくなりますね」


「なんで?」


「毎日レナードさんが長くいらっしゃったので」


「俺いつも来てるじゃん」


「そうですけど……」


 受付嬢は少し照れたように笑った。


「実は、前から素敵な方だなって思ってたんです」


「……え?」


 レナードの動きが止まる。


 タケルまで横で固まった。


 ちょうど別の冒険者に呼ばれた受付嬢は、そのまま仕事へ戻っていく。


 レナードはしばらく動かずにいたが、やがてゆっくりタケルへ顔を向けた。


「今の」


「うん」


「どういう意味?」


「そのままじゃない?」


「俺のこと好き?」


「たぶん」


「……」


 レナードは改めて周囲を見回した。


 さっきの女剣士。


 受付嬢。


 考えてみれば、最近やけに話しかけてくる女性冒険者も何人かいる。


「待って」


「何?」


「俺、モテてる?」


「……そうかも」


「マジで?」


「うん」


 レナードの顔がみるみる明るくなっていった。


「ついに?」


「何が?」


「来た?」


「何が?」


 レナードは勢いよく両手を広げた。


「俺の時代キターーーー!!!」


 ギルド中に声が響き、近くにいた冒険者たちが一斉に振り返る。


 そして次の瞬間。


【イオリ】

【爆弾危険度が上昇しました】


「……」


 レナードの笑顔が固まった。


「早っ!!!」


 タケルが額を押さえる。


「そりゃそうだよ……」


「今の聞いてた?!」


「同じギルドにいるんだから聞こえるよ!」


 レナードは慌ててイオリを探した。


 少し離れた場所で、こちらに背を向けて歩いていく姿が見える。


「イオリ!」


 レナードが大声で呼ぶ。


 イオリは振り返らない。


「いや冗談!」


 さらに声を張り上げる。


「イオリ一筋だから!!」


 ギルド内が一瞬、妙に静かになった。


 タケルが顔を覆う。


「それもっと恥ずかしいよ……」


「だって爆弾!」


「本人の前で叫ばなくても……」


 イオリはそのまま角を曲がって姿を消した。


 レナードは不安そうに見送りながら、タケルへ小声で聞く。


「……やばい?」


「どうだろ」


「また水?」


「水で全部解決すると思わないでよ」


「じゃあ何すんの?!」


     ◇


 その頃、ギルドの廊下を一人で歩いていたイオリは、人の気配がなくなったところでふと足を止めた。


『イオリ一筋だから!!』


 あれだけ大声で言われれば、聞きたくなくても聞こえる。


 さっきのレナードの声が、まだ耳に残っていた。


「……ほんと、ばかだなぁ……」


 呆れたように小さく呟きながらも、その口元はほんの少しだけ緩んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。