ヤンデレという病
帰宅し夕食後、「お兄ちゃん、食器下げて、一緒に洗っておくから」とにこやかに話す結衣に、母さんと父さんがほっとしたような笑顔を見せた。
「最初、あの話をした時はどうなるかと思ったが、2人の仲が元に戻って良かった」
僕は引き攣った笑顔で返し、風呂に入ろうと席を立った。
そうして浴室のドアを開けると、なぜかそこにはバスタオル一枚の結衣が立っていた。
「なっ!? お前、何してんだ!」
「お兄ちゃんの背中、流してあげようと思って♡」
「バカ言え! 俺たちはもう子供じゃないんだぞ! いくら血が繋がってないからって、お前は俺の大切な『妹』なんだから、こういうのはダメだ!」
僕がそう言って浴室から追い出すと、ドアの向こうで結衣の動きがピタリと止まる気配がした。
「……いもうと」
ドア越しに聞こえた結衣の声は、ひどく低く、震えていた。
「私が……どんな気持ちで、お兄ちゃんを避けてたか知ってる? 血が繋がってるからって、絶対に叶わない想いにどれだけ絶望したか……知ってる?」
「結衣……?」
「神様がくれた奇跡なのに。やっと、ただの男と女になれたのに。……どうして、お兄ちゃんはまだ『妹』なんて言うの?」
ゴツッ、と。
ドアに額を擦り付けるような鈍い音が響いた。
「……そっか。わかったよ、お兄ちゃん」
ドアの向こうで、結衣がクスクスと笑い始めた。
その笑い声は甘く、ねっとりとしていて、僕の背筋に冷たい汗が伝った。
「お兄ちゃんがまだ『お兄ちゃん』でいたいなら、それでもいいよ。でもね……」
「私以外の女が、お兄ちゃんに近づくのはもう許さない。……ずっと一緒だよ。どこにも行かせないからね、私だけのお兄ちゃん」
その日を境に、僕は部屋にいても視線を感じるようになり、ふとした時にアプリチェックをした僕のスマホには、GPS監視アプリがインストールされていた。
学校一の美少女である妹の塩対応の裏にあった重すぎる愛情に、ただの鈍感な兄だった僕が気づいた時には――もう、手遅れだった。
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