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僕の妹がこんなにヤンデレデレになるなんて〜狂い始める日常〜  作者: 虹の箸


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想いお弁当

朝からの妹とのやりとりで、精神的に疲れたが、ようやく昼休みのチャイムが鳴り響いた。

「おーい綾人、メシ食おうぜ!」

「今日は学食行くか? それとも購買?」

いつものように、悪友の健太けんたしょうが僕の席にやってきて、自分たちの机をくっつけようとしてきた。僕も鞄から菓子パンを取り出そうとした、その時だった。

ガラッ、と教室の前方のドアが開いた。

直後、騒がしかった教室の空気が、ピタリと一瞬だけ止まる。

「え、嘘……なんであの子がここに?」

「一年生の結衣ちゃんじゃん……生で見るとやばいな、超可愛い」

クラスメイトたちがざわめくのも無理はない。そこに立っていたのは、入学して間もないというのに「学園一の美少女」としてすでに全校生徒の注目の的となっている妹――結衣だったからだ。

結衣は周囲の熱視線など全く気にする素振りも見せず、教室を見渡すと、僕を見つけてパッと花が咲いたような笑顔を浮かべた。

「お・に・い・ちゃーんっ!」

タタタッ、と小走りで僕の席までやってきた結衣は、ピンク色の可愛らしい包みを胸に抱きかかえていた。

その「お兄ちゃん」という甘い響きに、クラス中の男子たちが(あいつの妹だったのかよ!?)という驚愕と嫉妬の入り混じった視線を僕に向けてくる。

「お、おい結衣! お前、なんでわざわざ俺の教室に……」

「なんでって、一緒にお昼食べようと思って! ほら、お兄ちゃんのお弁当、私が作ってきたんだよ!」

そう言って、結衣は嬉しそうに包みを僕の机の上にコトンと置いた。

そのやり取りを見ていた健太と翔が、目を丸くして身を乗り出してくる。

「まじかよ綾人! お前、こーんな可愛い妹がいたなんて一言も言ってなかったじゃんか!」

「しかも手作り弁当!? うわー、俺も結衣ちゃんみたいな妹に弁当作ってもらいてー!」

ニヤニヤとからかってくる友人たち。いつもなら適当に笑って返すところだが、結衣の反応は違った。

結衣はゆっくりと健太と翔の方へ振り返ると、首をこてんと傾げて、とびきり愛らしい笑顔を作った。

「あの、先輩たち」

「おっ、おう! なんだい結衣ちゃん?」

「私、お兄ちゃんと二人きりで、ゆっくりお弁当を食べたいんです」

甘い声だった。

だが、その瞳には一切の笑みがなく絶対零度の冷たさが宿っていた。

その異様な気迫と凄みに、健太と翔の顔からサッと血の気が引くのがわかった。

「……だから、今日はお兄ちゃんと2人でごはんを食べさせて下さい。」

「っ……!!」

「あ、あはは! そ、そうだな! 兄妹水入らずの邪魔しちゃ悪いよな! 行こうぜ翔!」

「お、おう! じゃあな綾人! また後で!」

友人たちは引きつった愛想笑いを浮かべると、逃げるように学食へと走り去っていった。

「あ、おいお前ら……!」

僕が引き止める間もなく、彼らが退散してぽっかりと空いた前の席に、結衣はごく自然な動作で腰を下ろした。

「ふふっ、これでやっとお兄ちゃんと二人きりだね」

「お前なぁ……友達を追い出すことないだろ。変に気を遣わせたじゃないか」

「いいの。私のお兄ちゃんに馴れ馴れしく近づく人は、誰であっても排除するから」

「は……?」

「なんでもないっ! さ、開けるよー!」

結衣が広げた包みの中からは、立派な三段重が現れた。

蓋を開けると、そこには僕の好物である唐揚げや卵焼き、タコさんウインナーなどが、まるで高級料亭の仕出し弁当のように美しく、そして隙間なくギッシリと詰め込まれていた。

「す、すごいなこれ。お前、いつの間にこんなの……」

「朝、お兄ちゃんが起きる前に早起きして作ったの! 全部お兄ちゃんの大好きなものばっかりだよ。はい、あーんっ♡」

結衣は自分のお箸で唐揚げを一つ摘むと、僕の口元へと差し出してきた。

「いや、自分で食えるから!」

「だーめ。私が食べさせてあげたいの。ほら、あーんしないと、私このまま一生動かないよ?」

周囲からは、クラスメイトたちの「嘘だろ……あの氷の美少女が、あんなにデレデレしてるなんて……」「羨ましすぎる……」というヒソヒソ声が丸聞こえだった。

顔から火が出そうなくらい恥ずかしかったが、結衣のその真っ直ぐな、そしてどこか昏い光を宿した瞳に見つめられ、僕は観念して口を開けた。

「……あーん」

「えへへっ、美味しい?」

「あ、ああ……すげぇ美味い」

「よかったぁ! じゃあ次は卵焼きね! はい、あーんっ♡」

僕が咀嚼して飲み込むのを、結衣は頬杖をつきながら、まるで世界で一番尊いものを見るかのような熱を帯びた瞳でじっと見つめていた。

(まさか、家だけじゃなく学校でもこんなにべったりされるなんて……)

血の繋がらない妹からの、手作り弁当での「あーん」。

傍から見れば夢のようなシチュエーションかもしれない。だが、逃げ出した友人たちの怯えた顔と、先ほどの結衣の氷のような視線を思い出すと、詰め込まれたおかずの重み以上に、彼女の愛の重さが僕の胃をキリキリと締め付けるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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