腕組み登校
しかし、僕の心配は杞憂におわった。
衝撃の事実が分かった翌々日、結衣は部屋から何事もなかったかのように出てきた。いや、何事もなくはなかった。僕への態度が180度激変したのだ。
「お・に・い・ちゃ〜ん! おはようっ! ほら、早く起きないと遅刻しちゃうぞ!」
僕のベッドにダイブしてきて、耳元で甘い声を囁く結衣。
いきなりの「お兄ちゃん」呼びに、僕は目を丸くした。
「お、おい結衣、あ、ごめん、結衣さん……? 急にどうしたんだ……」
「もう、そんな呼び方やめて!いつもみたいに結衣って呼んで!そんなことよりほら、着替え手伝ってあげる!」
「いや、自分でできるから! ていうか近い、近いぞ!」
密着してくる結衣を引き剥がそうとするが、彼女は嬉しそうに僕に抱きついたまま離れない。
まるで幼い頃に戻ったかのようだが、高校一年生になり女性らしさを帯び始めた彼女のスキンシップは、以前とは全く違う破壊力を持っていた。
そして、結衣の行動はそれだけでは留まらなかった。
「お兄ちゃん、一緒に学校に行こう」
「え? いや、でもお前、いつも俺と時間ずらして家を出てただろ……?」
「それは昔の話! ほら、早く行こ!」
玄関を飛び出した結衣は、当然のように僕の右腕に自分の両腕をギュッと絡ませてきた。その胸の柔らかい感触が腕に直に伝わってきて、僕は慌てて身を引き剥がそうとする。
「お、おい結衣! 外だぞ、近所の人や友達に見られたら……!」
「見られてもいいもん。私たち、血が繋がってないんだから!」
「いや、世間的にはどう見ても兄妹だろ! それに、お前恥ずかしいとかないのかよ」
「全然。むしろ世界中に見せつけたいくらい」
えへへと甘く笑いながら、結衣はさらに僕の腕にすり寄ってくる。すれ違う近所の人が、あの学校一の美少女が男子にべったりくっついている姿を見てギョッとした顔をしていたが、結衣はどこ吹く風だ。
そもそも、結衣が僕と同じこの高校を受験した時も、僕は不思議に思っていたのだ。結衣の成績ならもっと上の進学校を余裕で狙えたはずなのに、なぜか僕が通うこの中堅校を頑なに志望した。
『家から近いから。それ以外に理由なんてないから。……絶対に勘違いしないでよね』
当時は氷のような声でそう言い放たれたが、今にして思えば……。
「なあ結衣。お前、この高校選んだのって……」
僕が恐る恐る尋ねると、結衣は嬉しそうに目を細めた。
「うんっ! だって、家ではお兄ちゃんを避けるしかなかったから……せめて学校だけでも、一緒のところに行きたかったんだもん。本当は家でもずっとくっついていたかったけど、遠くからでもお兄ちゃんの姿を見ていたかったし……制服姿のお兄ちゃん、すっごくかっこいいから」
上目遣いで見つめてくる結衣の顔は、朝日に照らされてほんのりと赤く染まっていた。
(嫌われていると思っていたのに……まさか、ただ一緒にいたいというだけで、わざわざ進路まで変えたのか……?)
その重すぎる事実に僕はただただ呆然とし、結衣に腕をホールドされたまま、好奇の目に晒されながら登校するしかなかった。
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