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僕の妹がこんなにヤンデレデレになるなんて〜狂い始める日常〜  作者: 虹の箸


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臨界点

「……よし。熱も完全に下がったし、体調もバッチリだ!」

知恵熱で倒れてから数日後。

四人のヤンデレヒロインによる「純度100%の愛の看病」を乗り越え、綾人は無事に完全復活を遂げていた。

久しぶりに袖を通した制服の感触に、綾人はホッと胸を撫で下ろす。

あの数日間は、ある意味で地獄だった。

汗をかかせるためにと結衣に添い寝され、栄養をつけるためにと琴音に膝枕であーんをされ、血流を良くするためにと凛に全身をマッサージされ、体調管理と称して志乃先生に隅々まで身体検査(意味深)をされる日々。

(でも、彼女達が心底俺を心配してくれてたのは伝わってきたし……あの休戦状態のおかげで、少しはみんなの頭も冷えたはずだ)

そう、綾人は甘く見ていた。

熱が下がり、体が健康になれば、またあの「ドタバタだけどなんとかなる日常」に戻れるのだと信じて疑わなかった

しかし、現実は全く逆だった。

問題の根本は、何一つ解決していない。それどころか――。


ヤンデレたちにとって、綾人が倒れ、自分たちの前で「完全に無抵抗で弱い姿」を晒したことは、決して触れてはいけない『禁断の果実』だった。


『結衣の執着の変質』

(あぁ……熱でぐったりしてるお兄ちゃん、最高に可愛かった。私が服を脱がせても、体を拭いてあげても、抵抗せずに全部委ねてくれた……。もっと、もっとお兄ちゃんを私なしじゃ生きられないくらい、弱らせてあげたい……っ♡)


【琴音の変質】

(私の作ったお粥しか口にできない綾人。食事から排泄まで、綾人の命のサイクルを私が全て管理する快感……。もう、普通の健康な綾人じゃ物足りないわ。彼を一生ベッドに縛り付けて、私がお世話してあげたい……っ♡)


【凛の変質】

(センパイの弱った筋肉、熱い吐息……看病って、あんなに興奮するッスね。私がセンパイを壊して、私が治してあげる……このループなら、一生センパイと繋がっていられるッス……っ♡)


【志乃の変質】

(水瀬くんの生命線を握るという究極の優越感。大人の私による完全なる飼育管理……。ええ、もうこんな学園での小競り合いなんて茶番ね。彼を私の家に連れ込んで、一生『患者』として愛してあげるわ……っ♡)

そう、四人のヤンデレ状態は「看病」という圧倒的な支配の蜜の味を知ったことで、さらなる深淵へと堕ちていたのだ。

もはや彼女たちは、「綾人に振り向いてほしい」という次元にはいない。

「綾人をどうやって自分だけの所有物にするか」という、極めて危険な最終フェーズへと突入していた。


登校した綾人は、違和感に気づいた。

「あれ……? 今日、誰も近づいてこないな」

いつもなら、朝から結衣が抱きついてきたり、下駄箱で琴音が待ち伏せしていたり、廊下で凛が突撃してきたりするはずだった。

しかし、今日に限って誰一人としてアプローチを仕掛けてこない。

すれ違っても、「おはよう、水瀬くん」「お兄ちゃん、無理しないでね」と、不気味なほど完璧で優しい笑顔を向けられるだけなのだ。

(もしかして……本当に俺の体調を気遣って、距離を置いてくれてるのか!? 俺たちの間に、ようやく健全な距離感が……!!)

綾人が感動で泣きそうになっていた、その日の放課後。

下駄箱を開けると、そこには一枚の便箋が入っていた。

『放課後、旧校舎の音楽室に来てね。大事な話があります。』

差出人の名前はない。しかし、その手紙を見て、綾人は妙に嫌な予感を覚えたが、将来のお人好し手伝い、誰もいない旧校舎の音楽室へと足を運んだ。


ギィッ……。

防音扉を開けた綾人の目に飛び込んできたのは、異様な光景だった。

音楽室のパイプ椅子に、結衣、琴音、凛、そして柊先生の四人が、横一列に並んで座っていた。

彼女たちの手には、カッターも、バールも、睡眠薬もない。

ただ、四人全員が、底なし沼のように暗く、それでいてこの世のものとは思えないほど美しい『慈愛の笑顔』を浮かべて、綾人を待ち構えていた。


「み、みんな……? 大事な話って……」

綾人が後ずさりしようとした瞬間、背後の防音扉が重い音を立てて閉ざされ、カチャリと鍵がかけられた。

「お兄ちゃん。もう、無理しなくていいんだよ」

結衣が立ち上がり、ゆっくりと綾人に近づく。

「えっ……無理って、俺、すっかり元気になったぞ?」

「ううん。綾人は強がっているだけよ。あのまま私たち四人がそばにいなきゃ、綾人は一人で生きていけないくらい、弱い男の子なんだから」

琴音が綾人の頬を、氷のように冷たい手で撫でた。


「センパイ。私たちが、センパイの全部を『管理』してあげるッス。もう考えなくていいッスよ。センパイはただ、私たちの言うことだけを聞いて、可愛がられていればいいんスから」

凛が背後から綾人に抱きつき、その耳元で甘く囁く。


「そうよ、水瀬くん。あなたが一人で選ぼうとするから苦しいの。……だから、私たちが代わりに選んであげるわ」

志乃が、机の上に一枚の書類をコトンと置いた。

それは、綾人の名前がすでに勝手に記入された『退学届』と『婚姻届(四枚)』だった。


「な、なんだよこれ……!?」

「私たち、気がついたの。四人で牽制し合っていても、お兄ちゃんが疲れちゃうだけだって」

結衣の瞳には、もはや一切の光がない。

「だから、私たち四人で『協定』を結んだの。お兄ちゃんをこの学校から退学させて、外界から完全に隔離する。そして、私たち四人で毎日交代で……一生、愛してお世話してあげることにしたのよ♡」


「ヒッ……!!」

綾人は恐怖で声を上げた。

刃物を向けられるよりも、罵られるよりも恐ろしい。

彼女たちはついに「綾人を奪い合う」ことをやめ、「綾人の人権を奪い、四人で完全共有シェアする」という最凶の結論に到達してしまったのだ。


「さあ、水瀬くん。逃げ場はどこにもないわ。あなたが自分で決断(誰かを選ぶ)できないなら、私たちが一生、あなたを甘い地獄で飼ってあげる」

志乃の赤いルージュが、綾人の唇に迫る。

「だ、誰か!! 助けて……っ!!」

防音扉に守られた音楽室で、綾人の悲鳴は誰にも届かない。

持ち前のお人好しも、極上の鈍感(すきさけ)スマイルも、完全に覚醒してしまった四人のヤンデレには何一つ通用しなかった。

奪い愛の行方は、綾人の精神と貞操の『完全なる四等分』という形で、最悪のハッピーエンドを迎えようとしていた。

限界点を突破した狂気と愛欲が渦巻く中、綾人の視界は、四人の美しくも恐ろしい笑顔によって完全に黒く塗り潰されていくのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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