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僕の妹がこんなにヤンデレデレになるなんて〜狂い始める日常〜  作者: 虹の箸


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愛情100%の♡

「……ハァ、ハァ、ハァ……っ」

夕暮れの道を一人歩きながら、綾人は頭を抱えていた。

妹、幼馴染、後輩、そして女教師。

四人の「病んでいない普通の女の子(女性)」としての純粋な破壊力は、綾人の理性の防壁をすでにボロボロに打ち砕いていた。

(ダメだ……俺、もう限界かもしれない)

そんなかつてない貞操の(自分自身からの)危機に慄きながら、綾人はふらつく足取りで我が家である水瀬家へとたどり着いた。

「ただ、いま……」

「あ、お兄ちゃんお帰り! ご飯できてる……って、お兄ちゃん!?」

出迎えた結衣の声が、不自然に遠く聞こえる。

視界がぐらりと揺れ、足元の床が急に傾いたような錯覚に陥った。

「あれ……? なんか、急に寒気、が……」

ドサァッ!

「お兄ちゃん!? お兄ちゃん!!」

結衣の悲鳴を最後に、綾人の意識は暗闇へと沈んでいった。

「……んっ……」

次に綾人が目を覚ました時、視界には見慣れた自室の天井が映っていた。

体は鉛のように重く、関節が軋むように痛い。おまけに、頭には冷たい氷嚢が乗せられていた。

(倒れたのか、俺……)

「——目が覚めたみたいね」

凛とした大人の声にはっとして横を向くと、ベッドの周りには信じられない光景が広がっていた。

「お兄ちゃん……っ! よかった、目が覚めて……っ!」

涙目で綾人の手を両手で強く握りしめている、妹の結衣。

「綾人、具合はどう? 汗、拭くわね」

心配そうに眉を下げ、綾人の額の汗を温かいタオルで優しく拭う、幼馴染の琴音。

「センパイ……マジで死ぬかと思ったッスよ。救急車呼ぼうかと思ったッス」

ベッドの足元で、珍しく冗談抜きで青ざめた顔をしている後輩の凛。

そして、綾人の枕元で体温計を確認している、白衣姿の柊志乃先生。

「熱は39度5分。典型的な過労と極度のストレスによるものね」

志乃はため息をつきながら、冷ややかな視線を三人の少女たちに向けた。

「……反省しなさい、あなたたち。私を含めて、連日の過度なプレッシャーが水瀬くんの神経を限界まで擦り減らしていたのよ。彼が壊れてしまっては、元も子もないでしょう」

志乃の言葉に、結衣、琴音、凛の三人はシュンと肩を落とした。

ヤンデレとはいえ、彼女たちの行動原理の根本は「綾人を愛している」ことだ。自分のせいで綾人が物理的に倒れてしまったという事実は、彼女たちの狂気に冷や水を浴びせるには十分すぎた。

「お兄ちゃん、ごめんなさい……私、お兄ちゃんが無理してるの気づけなくて……っ」

「私がいながら、綾人を倒れさせるなんて……幼馴染失格だわ」

「センパイ……ごめんなさいッス……」

三人が本気で落ち込んでいるのを見て、綾人は慌てて首を振った。

「違うんだ! みんなのせいじゃ……いや、みんなのせいでもあるんだけど……でも、俺が勝手にキャパオーバーになっただけで……」


そこで、志乃がパンッと一つ手を叩いた。


「というわけで、水瀬くんが完全に回復するまで、私たち四人は完全休戦に入ります。おかしな抜け穴アピールも、お色気も一切禁止。純粋に、水瀬くんの看病だけを協力して行うわよ」

「……えっ、四人で!?」

綾人の声が裏返る。

「当たり前じゃない。結衣ちゃん一人に看病を任せたら、寝ている間に何をされるかわからないもの。相互監視と分担作業よ」

琴音がすかさず牽制を入れると、結衣がムッとして言い返した。

「琴音先輩の作ったお粥こそ、何が入ってるかわかったもんじゃないでしょ!」

「まあまあ。食事と投薬の管理は、大人の私がしっかりチェックするから安心して。さあ、水瀬くん。まずはたっぷり汗をかいた服を着替えましょうか」

志乃がそう言うと、三人の少女が一斉に綾人のパジャマのボタンに手を伸ばしてきた。

「「「「さあ、バンザイして?(ッス)」」」」

「えっ……ちょ、ちょっと待って! 着替えくらい自分で……」

「ダメよ、熱があるんだから。ほら、力を抜いて」

四対一の看病(という名の圧倒的包囲網)。

結衣が綾人の上着を脱がせ、琴音が背中の汗を温かいタオルで拭き、凛が新しいパジャマの袖を通し、志乃が乱れた前髪を整える。

(——ッ!! やめろ、そんな優しい手つきで俺に触るな……っ!!)

ヤンデレ的な打算や下心が(表向きは)一切ない、純粋な『看病』。

しかし、四人の美しい少女と大人の女性に囲まれ、至近距離でかいがいしく世話を焼かれるこの状況は、熱で弱り切った綾人の理性を別の意味で完全にメルトダウンさせようとしていた。

「綾人、背中拭くから少し前傾姿勢になって。」

琴音の指先が、タオル越しに綾人の背筋をなぞる。

「お兄ちゃん、ズボンも履き替えなきゃ。私、見ないようにして脱がせてあげるから……ちょっとお尻上げて?」

結衣の手が、綾人の腰回りに伸びてくる。

「センパイ、足先冷えてるッスよ。私がさすって血流良くしてあげるッス」

凛が綾人のふくらはぎを、柔らかい手で揉みほぐす。

「ふふっ……水瀬くん、顔が真っ赤ね。熱のせいかしら? それとも……」

志乃が至近距離で微笑みながら、綾人の頬に冷たい手のひらを当てる。

(あぁぁぁぁっ……!! 殺される……! 俺の理性が、圧倒的母性と優しさの暴力に殺されるぅぅぅっ!!)

「病気で弱っている男子を、無防備な美少女四人がよってたかって看病する」という、最も危険なイベントが発生してしまったのだ。

「あ、あの……みんな、本当にありがとう。でも、もう大丈夫だから……!」

「ダメよ。次は、栄養をつけなきゃ」

琴音がフーフーと息を吹きかけたお粥のスプーンを、綾人の口元へと運ぶ。

「はい、あーんして?」

ヤンデレとしての裏がない、100%の善意。だからこそ、断れない。

綾人は震える口を開け、お粥を口に含んだ。

「美味しい?」

「……うん。すげぇ美味しい」

「よかった……ふふっ」

嬉しそうにはにかむ琴音。


(ダメだ。完全休戦状態のあいつら、無敵すぎる……っ!)

ヤンデレたちの狂気から逃れたはずが、行き着いた先は「純度100%の過剰な優しさ」という名の、逃げ場のない甘い地獄だった。

熱にうなされながら、綾人はこの看病生活が、自分の貞操にとって最大の危機に瀕するのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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