事案2:血の繋がらない妹の寝顔
その日の夜。
綾人が自室でテスト勉強をしていると、結衣が「数学教えてー」とノートを持ってやってきた。
いつもなら露出度の高い服でベッドに潜り込んでくる結衣だが、今日はダボダボのスウェットの上下という、色気もへったくれもない完全な部屋着姿だった。
「ここの因数分解が、どうしても合わなくて……」
「ああ、ここは公式を先に当てはめるんじゃなくて、一度展開してからまとめるんだよ」
机に並んで座り、シャーペンを動かす二人。
真剣にノートに向かう結衣の横顔は、学園一の美少女と謳われるだけあって、息を呑むほど整っている。長いまつ毛が瞬きするたびに揺れ、白く透き通るような頬が手の届く距離にある。
「あ、そっか! わかった! お兄ちゃん、天才!」
結衣は嬉しそうにパチパチと手を叩くと、「ありがとっ」と綾人の肩にコツンと頭を預け……そのまま、フカァ……と寝息を立て始めたのだ。
「えっ、結衣? 寝たのか?」
返事はない。
テスト勉強の疲労が溜まっていたのだろう。結衣は綾人の肩を枕にして、本当に無防備な深い眠りに落ちてしまったのだ。
「……たく、世話が焼けるな」
綾人は苦笑いしながら、結衣の頭をそっと撫でた。
その瞬間。
結衣のスウェットの襟元から、ほんのりと甘いシャンプーの香りが漂ってきた。
(——っ!!)
綾人の手が、ビクッと止まる。
スーッ、スーッという規則正しい寝息。少しだけ開いた桜色の唇。そして、自分の肩に預けられた、小柄ながらも確かに『女の子』としての柔らかさを持つ体の重み。
(嘘だろ……結衣って、こんなに……女の子っぽかったか……?)
いつもは『襲ってくる変態妹』として警戒の対象でしかなかった結衣。
しかし今、何の防備も打算もなく、ただ安心しきって自分に寄りかかっているこの少女は、どうしようもなく庇護欲をそそる、たまらなく魅力的な異性だった。
(ダメだ、俺は何を考えてるんだ! 相手は結衣だぞ! 妹だぞ!!)
理性が全力でブレーキをかけるが、健全な男子高校生の本能がアクセルをベタ踏みしてくる。
綾人の視線は、無意識のうちに結衣の無防備な唇へと吸い寄せられていく。
(……少しだけなら。……ちょっと、触れるくらいなら……)
綾人がゴクリと喉を鳴らし、結衣の顔にそっと自分の顔を近づけようとした、その時。
「んぅ……お兄、ちゃん……」
「——ッ!!?」
結衣が肩に顔をスリスリと擦り付けてきた。
「ふばぁっ!?」
綾人はバネ仕掛けのおもちゃのように飛び退き、椅子から派手に転げ落ちた。
「い、痛ってぇ……っ! はぁ、はぁ、はぁ……」
床に這いつくばりながら、綾人は荒い息を吐き、自分の頬を両手でバシンッ!と叩いた。
(危なかった……! あと少しで、俺の方から一線を越えてしまうところだった……!)
ヤンデレモードの時は、「殺される(修羅場になる)」という生存本能が働いて理性を保つことができる。
しかし、彼女たちが『ただの可愛い女の子』に戻った瞬間、綾人の防御力はゼロになり、むしろ彼自身の内側から湧き上がる衝動に殺されそうになるのだ。
琴音と結衣の「普通の女の子」としての破壊力に打ちのめされた綾人だったが、その驚威は幼馴染と妹だけにとどまらなかった
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