事案1:幼馴染の無防備な笑顔
休日の昼下がり。綾人がリビングでテレビを見ていると、琴音がキッチンで昼食の準備をしてくれていた。
いつもならここで「私の愛情エキスも入れておくわね♡」と怪しい粉をふりかけるところだが、今日は、綾人が琴音の作ったオムライスが久しぶりに食べたいとリクエストしたのだ。その言葉に今日の琴音はただ純粋に、真剣にオムライスを作ってくれている。
「綾人、ちょっと味見してくれる? チキンライスのケチャップ、濃すぎないかしら」
琴音が木べらでチキンライスをすくい、ふーふーと息を吹きかけてから綾人の口元へ差し出した。
「お、おう」
綾人がパクッとそれを口に含む。
「どう?」と首を傾げる琴音。そこには「間接キスよ♡」というようなねっとりとした煽りも、粘着質な視線もない。ただ、幼馴染の感想を待つ、年相応の純粋な顔があった。
窓からの日差しが、琴音のサラサラの髪を透かしている。エプロン姿の彼女は、どこからどう見ても『新婚の若奥様』のような、温かくて家庭的なオーラに包まれていた。
「……うん、すごく美味い。完璧だよ、琴音」
「本当? よかった! じゃあ、卵で包むから待っててね」
パァッと花が咲いたように、心底嬉しそうに微笑む琴音。
その飾り気のない、100%ピュアな笑顔を見た瞬間。
ドクンッ。
(——な、なんだこれ!? 今の琴音、すげぇ可愛い……っ!!)
綾人の心臓が、ヤンデレの脅威とは全く別のベクトルの「動悸」で跳ね上がった。
いつもなら警戒心でガチガチに固められている綾人の防壁が、『普通の幼馴染』という全く予期せぬストレートパンチによってあっさりとすり抜けられ、急所にクリーンヒットしてしまったのだ。
「あ、のさ……琴音。オムライス、手伝おうか?」
「ふふっ、大丈夫よ。綾人は座って待ってて。……あ、でも、卵をひっくり返すところ、見ててくれる?」
少し照れくさそうにはにかむ琴音の唇が、異常なほど艶やかに見える。
(ヤバい! 琴音って、こんなにかわいかったっけ⁉︎)
綾人は顔を真っ赤にして、必死に琴音へと向かう愛おしさと戦う羽目になった。
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