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僕の妹がこんなにヤンデレデレになるなんて〜狂い始める日常〜  作者: 虹の箸


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20/24

ヤベー奴に頼っちゃった

「絶対不可侵条約」の締結によって平穏が訪れるという綾人の希望は、見事に打ち砕かれた。

ヤンデレヒロインたちは条約を「守りながら」、いかに綾人の理性を削り取るかという『合法的な抜け穴アプローチ合戦』へとその手口を凶悪化させていった。


「綾人、肩が凝ってるんじゃない? 幼馴染としてマッサージしてあげる。……ほら、私、今日はスキーウェアを着てるから! 直接肌も触れてないし、露出もゼロ! 完璧なルール遵守よ!」

「いや、室内でスキーウェアはおかしいだろ! ていうか、ウェア越しでも琴音の胸の質量が後頭部にモロに……っ!」

「あら? スキーウェアのクッション性のおかげでしょ? さあ、もっと体重かけるわね。んっ……綾人の体温、ウェア越しでも伝わってくるわ……♡」

「(ダメだ、見えない分、逆に感触への想像力が掻き立てられて頭がおかしくなりそう……っ!)」


「お兄ちゃん、お水持ってきたよ」

「待て結衣。ルールその3『食事に怪しい粉やエキスを混入することの禁止』は守ってるだろうな?」

「もちろんだよ! お水には一切何も『混入』してないよ!……ただ、私が先にマカとスッポンのサプリを致死量飲んでるから、口移しで飲ませてあげるだけ!ほら、唇開いてっ♡」

「それは間接的に摂取してるのと同じだろ!? ていうか致死量て!どんだけだよ!!」

「むー、お兄ちゃんのケチ!」


「あっ、綾人センパァイ♡ 奇遇ッスね、こんな廊下の曲がり角でぶつかるなんて!」

ドスッ! と凛の柔らかい体が綾人の胸に飛び込んでくる。

「瀬戸さん! 半径1メートル以内の無断接近は禁止だって言っただろ!」

「えぇ〜? 私はただ廊下を歩いてただけで、先輩の方からぶつかってきたんじゃないスか! これは『事故』ッスよ! 事故なら仕方ないんで、このまま少しだけ先輩の胸の鼓動、聴かせてもらうッスね♡」

「(こいつ、俺の動線を完璧に読んでわざと当たり屋みたいな真似を……!)」


それから数週間。

「合法的なセクハラと誘惑」の波状攻撃を毎日受け続けた綾人は、心身ともに疲弊し切っていた。

目の下には濃いクマができ、頬は少しこけている。

(……もう無理だ。高校生の俺の手に負えるレベルじゃない。誰か……ちゃんと話が通じて、あいつらを指導できる『大人』に頼るしかない……っ!)

放課後。

フラフラとした足取りで、綾人は誰もいない進路指導室のドアを叩いた。

そこにいたのは、綾人のクラスの担任であり、物理の教師であるひいらぎ 志乃しのだった。

「水瀬くん? どうしたの、そんなに顔色を悪くして。……入りなさい」

柊先生は、銀縁メガネの奥の知的な瞳を細め、優しく綾人を招き入れた。

黒髪を後ろでタイトにまとめ、タイトスカートに白衣を羽織った彼女は、生徒からは「クールで厳しい美人教師」として恐れられつつも公平で教え方も上手いと信頼を得ている大人の女性だ。

温かい紅茶を出された綾人は、その安心感から、せき止めていたダムが決壊したように全てを打ち明けた。

血の繋がらない妹の異常な執着。

幼馴染の過激な干渉。

後輩の狂気的な誘惑。

自分がどれだけルールを作っても、巧妙な抜け穴を突かれて貞操の危機に瀕していること。

「……先生、助けてください。俺、もうどうしていいか分からなくて……っ」

綾人は両手で顔を覆い、震える声で懇願した。

柊先生は口元に手を当て、深刻な面持ちで綾人の話を最後まで静かに聞いていた。

「……なるほど。それは、高校生のあなたが一人で抱え込むには重すぎる問題ね」

柊先生は立ち上がり、綾人の隣に座ると、その震える背中を大人の優しさでそっと撫でた。

「水瀬くん、あなたはよく耐えたわ。自分の衝動に流されず、相手を傷つけないように一人で踏ん張ってきたのね。……立派よ」

「先生……っ!」

「安心しなさい。私は教師であり、大人です。生徒の健全な学生生活を守る義務があるわ。明日、水瀬さん、橘さん、瀬戸さんの三人を個別に呼び出して、指導と警告を行います。必要であれば、ご家庭とも連携して物理的に距離を置かせる手配もするわ」

「ほ、本当ですか……!?」

「ええ。だからもう、怯えなくていいのよ」

柊先生のその力強く、毅然とした言葉に、綾人の張り詰めていた緊張の糸がプツンと切れた。

「良かった……これで、やっと普通の生活に……」

安心感からか、急激な眠気が綾人を襲う。出された紅茶の温かさも相まって、綾人の意識は泥のように沈んでいった。

「少し、ここで眠っていきなさい。疲れているんでしょう」

柊先生の甘い子守唄のような声を聞きながら、綾人は進路指導室のソファで深い眠りに落ちた。

(ああ……やっぱり、大人の先生は頼りになる。これで俺の平穏は守られるんだ……)


「……ふふっ。可愛い寝顔」

綾人の寝息が完全に規則正しくなったのを確認すると、柊先生――志乃は、クールな教師の仮面を音もなく滑り落とした。

志乃はソファに横たわる綾人の顔のすぐ横に膝をつき、その銀縁メガネを外す。

そして、綾人の首筋に顔を埋め、まるで極上の麻薬でも吸引するかのように、ズゥゥゥッ……と深く、長く息を吸い込んだ。

「はぁっ……あぁ……水瀬くんの匂い……。恐怖と疲労で汗ばんだ匂いも、最高に甘くて愛おしい……」

志乃の瞳には、先ほどまでの理知的な光は一切ない。

そこにあるのは、三人の少女たちすら凌駕する、底知れぬほどドロドロに淀んだ『大人の情念』だった。

「水瀬くんに手を出していた、発情期のメス豚三人……水瀬くんをあんなに疲弊させるなんて、やっぱり子供には『愛し方』が分かっていないのよ」

志乃は、書類キャビネットから『進路指導ファイル』を取り出した。

しかしその中身は、生徒の成績表などではない。

綾人の入学式から今日に至るまでの、数千枚に及ぶ隠し撮り写真が、狂気的な几帳面さでファイリングされていた。

「水瀬くんの優しさも、その純粋さも、全部私が管理してあげる。あの子供たちには、教師の権限を使って徹底的に『指導』をして、二度と水瀬くんに近づけないようにしてあげるからね」

志乃は、眠りこける綾人の頬をねっとりと撫で、その唇に深いキスをした。


綾人は出された紅茶に、睡眠薬が混ぜられていたことなど、彼は知る由もない。


「安心して。今日から私が、あなたの人生の全てを『教育』してあげるから。……ずっと一緒にいましょうね、私だけの綾人くん♡」

妹、幼馴染、後輩。

三人のヤンデレから逃れるために綾人がすがりついた最後の希望は――権力と大人の狡猾さを兼ね備えた、『最凶にして最悪の第四のヤンデレ』の腕の中だったのである。


お読みいただきありがとうございました。

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次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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