橘琴音の場合:幼馴染の特権と甘美な猛毒
終わらない修羅場、もとい「賑やかすぎる青春」の日常。
しかし、彼女たちはただ三人で牽制し合っているだけではない。僕の《《鈍感な壁》》を打ち崩すため、三者三様、あの手この手で僕を「男」として取り込もうと、日夜ゲリラ的なアタックを仕掛けてくるようになったのだ。
「はい、綾人。冷たい麦茶とクッキー持ってきたわよ」
休日の午後。僕の部屋でテスト勉強をしていると、琴音が勝手知ったる様子で入ってきた。
「あ、ありがとう琴音。いつも悪いな」
「ううん。未来の旦那様のお世話をするのは、妻として当然の義務だから♡」
冗談めかして笑いながら、琴音は僕のベッドに腰を下ろした。そして、本棚から古いアルバムを引っ張り出してくる。
「ねえ、息抜きにこれ見ない? ほら、私たちが幼稚園の時のお遊戯会」
「うわっ、懐かしい! 俺、木の役でずっと突っ立ってたやつだ」
琴音が僕の隣にぴったりと身を寄せ、一緒にアルバムを覗き込む。
その瞬間、ふわっとフローラルな香りが漂い、僕の二の腕に琴音の豊かな胸の感触がムニュッと押し付けられた。
「こ、琴音……ちょっと近くないか?」
「えー? 昔は一緒にお風呂にも入ってたのに、今更照れてるの? 可愛いところあるのね」
琴音はわざとらしく身を乗り出し、夏服のブラウスの襟元から、白くて深い谷間を僕の視界にチラつかせる。目のやり場に困って視線を泳がせていると、琴音はアルバムの一枚の写真を指差した。
「見て。これ、小学生の時の夏祭り。綾人が不良に絡まれた私を、泣きながら助けてくれた時の写真」
「あー……あの時は俺もボコボコにされて、結局二人で泣きながら帰ったんだよな」
「ふふっ。でもね、あの時綾人が私の手を強く握って走ってくれた感触、私、今でも右手に残ってるの。……あの時からずっと、私の心には綾人しかいないのよ?」
琴音の瞳が熱を帯び、至近距離で見つめてくる。その甘い雰囲気に、思わずドキッとしてしまった。
「琴音……」
「綾人……。ねえ、私のこと、どう思っ——」
「いやぁ、俺たち本当に最高の『幼馴染』だよな! これからもよろしくな、親友!」
「…………っ!!」
僕が満面の笑みでサムズアップすると、琴音は一瞬真顔になる、がすぐに笑顔に戻った。優しい慈母のような。
(……いいわ。今日はこのくらいにしておく。それに、綾人の通学カバンの中の盗聴器の電池も、無事に新品に交換できたしね……ふふっ)
心の奥底でどす黒い笑みを浮かべながら、琴音は「ええ、幼馴染サイコーね!」と笑い返した。
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