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僕の妹がこんなにヤンデレデレになるなんて〜狂い始める日常〜  作者: 虹の箸


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ある日綾人が見た夢

「……ねえ、お兄ちゃん」

「綾人」

「綾人先輩」

「「「私たちのこと、どう思ってる?」」」

三人の少女から放たれた、逃げ場のない漆黒の問いかけ。

突きつけられたカッターナイフと、無骨なバール。そして、彼女たちの底なしの情念。

普通の人間であれば、恐怖で逃げ出しているか、パニックに陥っていただろう。

しかし、綾人の異常なまでの「お人好し」と「優しさ」は、この極限状態において、彼自身の精神のタガを完全に外してしまった。

「……そっか」

綾人の口からこぼれたのは、悲鳴でも拒絶でもなかった。

ふっと、憑き物が落ちたような、酷く穏やかで、虚ろな笑みだった。

「俺のために、結衣も、琴音も、瀬戸さんも……そんなに苦しんで、傷ついていたんだね。気づかなくてごめん。俺、本当にバカだ」

「……お兄ちゃん?」

「俺なんかのために、君たちが殺し合う必要なんてないんだよ」

綾人はゆっくりと両手を広げ、まるで全てを許す聖母のように、三人の狂気を真正面から受け止めた。

「俺の全部で満たされるなら……三人で、好きにしていいよ。俺の心も、体も、時間も、全部あげるから。……だから、もう誰も傷つかないで」

その瞬間、カフェの空気が完全に凍りついた。

ヤンデレである彼女たちすら想定していなかった、綾人の『完全なる受容と自己犠牲』。

その歪みきった優しさは、三人の少女の心に燻っていた独占欲を、全く別の次元の狂気へと昇華させてしまった。

「あ、ああ……お兄ちゃん……! 好き、大好き……っ!」

「綾人、綾人、私の綾人……!」

「先輩……あはっ、最高ッス、先輩……っ!」

結衣が、琴音が、凛が。

カッターとバールを床に投げ捨て、泣き崩れながら綾人にすがりつく。綾人は三人まとめて、その腕の中に抱きしめた。

「シェアする」という、常軌を逸した狂気の協定が、ここに結ばれたのだった。

それからの彼らの生活は、まさに『ただれた』と呼ぶにふさわしいものだった。

綾人と結衣は学校を中退し、両親との縁を絶った。琴音と凛も同じように社会との繋がりを自ら断ち切り、四人は古びたアパートの一室に引きこもるようになった。

昼夜の概念は消え失せた。密室の中で、三人の少女は綾人という唯一の存在を貪り、愛し、溺れ続けた。

月・水・金は結衣。火・木・土は琴音。日曜日は凛。

しかし、そんなルールはすぐに崩壊し、常に四人の体が一つに絡み合うような、境界線のない泥沼の共依存へと堕ちていった。

部屋の隅に置かれたチェロは埃を被り、二度と美しい音色を奏でることはなかった。代わりに部屋に響くのは、甘く粘着質な愛の囁きと、狂気に満ちた笑い声だけ。

「お兄ちゃん、ご飯、口移ししてあげるね」

「綾人、私の体、見ていて。瞬きもしないで」

「先輩、私の事ずっと撫でててくださいッス……」

綾人もまた、抵抗するどころか、彼女たちに全てを委ね、自らの自我を完全に溶かしていた。

四人だけの閉ざされた世界。

しかし、人間の精神と肉体は、そのような異常な高熱の愛を永遠に維持できるようにはできていない。

社会から完全に隔離され、愛という名の猛毒を致死量まで飲み続けた彼らは、やがて限界を迎えた。

ある日を境に、四人はそのアパートから忽然と姿を消したのだ。

「水瀬兄妹と、その知人二名が失踪」

「カルト的な集団家出か?」

テレビのワイドショーやネットニュースが一時的にこの不可解な事件を面白おかしく取り上げたが、彼らの足取りは全く掴めなかった。

――それから、数ヶ月後のことである。

県境に近い、山奥の廃墟同然の場末のホテル。

「異臭がする」という管理人の通報で駆けつけた警察官が、チェーンの掛かった一室のドアをバールでこじ開けた。

「……うっ!」

むせ返るような死臭。しかし、部屋の中に広がっていた光景は、凄惨な死の現場というよりも、どこか宗教画のように異様で、静謐な美しさを放っていた。

ベッドの上。

そこに、四つの遺体が折り重なるようにして横たわっていた。

綾人を中央にし、結衣、琴音、凛が、彼にすがりつくように、抱きしめるようにして密着している。

四人は皆、一糸まとわぬ全裸であった。

死因は不明。服毒なのか、あるいは餓死するまで愛し合い続けた末の衰弱死なのか。

ただ一つ、現場に入った警察官たちを底知れぬ恐怖と悪寒で戦慄させた事実があった。

腐敗が始まりつつある四人の死顔が――不思議と、全員が穏やかな、心からの安らぎに満ちた「笑顔」を浮かべていたのだ。

『ずっと一緒にいようね』

『誰にも邪魔されない、永遠の世界へ』

まるで、肉体という檻を捨てて、四人だけの完璧な世界へと旅立ったことを祝福しているかのような、凄絶な微笑み。

彼らにとっての「ハッピーエンド」は、この現実世界には存在していなかったのだ。

「男女四人の遺体発見。集団自殺か」

センセーショナルな見出しと共に、この事件は連日メディアで大きく報道された。

若者たちの不可解な死、複雑な人間関係、そして密室での最期。大衆の好奇心を刺激するには十分すぎる要素だった。

しかし、どれほど熱狂的に消費されたニュースであっても、残酷なほどに時の流れはすべてを押し流していく。

新しい事件が起き、新しいスキャンダルが世間を賑わせるにつれ、四人の狂気に満ちた愛の結末は、人々の記憶から急速に薄れていった。

今ではもう、彼らのことを語る者は誰もいない。

ただ、あの場末のホテルの冷たいベッドの上で完成した、永遠に侵されることのない四人だけの愛の檻の中で彼らの魂が、今も甘く、静かに微睡み続けている。


ラブコメにするつもりがこのようなストーリーが浮かんでしまって、どうしても書きたかったので夢オチという卑怯な手を使いました。でもこんなのもありかなっ♡

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