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僕の妹がこんなにヤンデレデレになるなんて〜狂い始める日常〜  作者: 虹の箸


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破滅へ向けて

カランコロン、と。

駅前のオシャレなカフェに、場違いなほど重く、冷たい入店音が響いた。

「美味しいね、綾人。スマホは後でゆっくり探せばいいから、今は私と——」

琴音が甘い声で綾人に微笑みかけていた、その時だった。

「——見つけたわよ。この、泥棒猫」

「マジでいい度胸してるッスね、橘先輩」

カフェの入り口に立っていたのは、肩で息をする結衣と凛だった。

二人の全身からは、周囲の客が思わず息を呑んで道を空けるほどの、黒々とした致死量の殺気が立ち上っていた。

「ゆ、結衣!? 凛ちゃんまで!? なんでここに……」

驚いて席を立とうとした綾人は、次の瞬間、二人の手に握られている『異常なもの』を見て言葉を失った。

カチ、カチ、カチ、カチ……。

結衣の右手には、刃が限界まで剥き出しにされた**鋭利なカッターナイフ**。

ギギギギギ……ッ。

凛の右手には、床を引きずるたびに火花を散らす、無骨で赤錆びた**バールのようなもの**。

「お兄ちゃんはちょっと黙っててね。今、この害虫を駆除するから」

「そうッスよ。橘先輩のその余裕ぶった顔、今から原型留めないくらいグチャグチャに叩き潰してやるッスから」

復讐の鬼と化した二人が、一切の躊躇なく琴音の席へと距離を詰める。

カフェの中は悲鳴すら上がらないほどの恐怖に包まれ、店員も客も完全にフリーズしていた。

「うっ……!? 何考えてんだ! ここ店の中だぞ! おかしなものをしまえ!!」

完全にパニックになった綾人がそれでも必死に止めようとするが、結衣と凛の耳には届いていない。結衣がカッターを振り上げ、凛がバールのようなものを構え、まさに修羅場が物理的な『血みどろの惨劇』に変わろうとした、その瞬間だった。

「……バカみたい。あなたたち、本当に頭が空っぽなのね」

カッターとバールを向けられながらも、琴音はパフェのスプーンを置き、冷ややかなため息をついた。

その全く怯えていない態度に、結衣と凛の動きがピタリと止まる。

「強がりッスか? 脳みそぶちまけても同じこと言えるか試してみるッスよ」

「遺言なら聞くわよ、琴音先輩」

「いいえ、事実を言ったまでよ。——少しは冷静になりなさい。ここで私を刺したり殴ったりして、それでどうなるの?」

琴音は氷のような視線で二人を見据え、そして、驚きと恐怖で怯えている綾人に視線をうつした。


「こんな場所で潰し合いをして、警察沙汰になって、結局綾人に『頭のおかしい女たちだ』って嫌われたら……私が、認めたくないけど私たちが今までやってきたこと、全部何の意味もなくなるじゃない」

その言葉に、結衣のカッターを持つ手がピクッと止まり、凛のバールが床に落ちて鈍い音を立てた。

「あなたたちもわかっているはずよ。綾人が、信じられないくらい『優しい』《ゆうじゅうふだん》ってこと…そう優しさの裏返しの弱さ。私たちはそれも含めて綾人を愛してる(しゅうちゃく)してる。だから、裏でどれだけ牽制し合っても、マウントを取っても、綾人は困るだけなの」

琴音は立ち上がり、ゆっくりと結衣と凛の前に出た。

「だから……こんな無意味な殺し合いは終わり。私たちがどれだけ本気で、どれだけ狂おしく綾人のことを愛しているか、全てをぶちまけるの。それを優しい綾人は拒否できない」

「……琴音先輩」

「橘先輩……」

「その上で、綾人はどうしたいのか、誰を選ぶのか、あるいはどう思っているのか。……もし、それでも納得がいかなくて殺し合いになるって言うなら、その時は受けて立つし、なんなら綾人を殺して私も死ぬわ」

琴音の理路整然としていそうで、しかしどこかおかしく何より狂気を孕んだ提案ことば

それは「互いの破滅」を避けるためな判断ではない。綾人への「ギリギリの最後通牒」だった。

結衣はチャキッ、と音を立ててカッターの刃を引っ込めた。

凛もバールのようなものを足元に転がし、深い深呼吸を一つした。

「……ふふっ。いいわ。琴音先輩にしては、まともな提案ね」

「乗るッス。どうせ、綾人先輩が最後に選ぶのは私に決まってるッスから」

「えっ……? な、なに? 殺し合い? 気持ちを聞くって……?」

一人だけ蚊帳の外に置かれ、状況が今ひとつ理解できていない綾人が、引きつった笑いを浮かべながら後ずさる。

だが、逃げ道はなかった。

結衣、琴音、凛。

三人のヤンデレヒロインは、一切の光を宿さない、漆黒に淀んだ瞳で——ゆっくりと、一斉に綾人の方を振り返った。

「……ねえ、お兄ちゃん」

「綾人」

「綾人先輩」

三人の声が、不気味なほど綺麗にハモる。

「「私たちのこと、どう思ってる?」」

血の繋がらない妹。

家が隣の幼馴染。

チェロを慕う後輩。

これまで「日常」というオブラートに包まれていた彼女たちの激重な愛情と執着が、今、一切の隠し事なく、全方向から綾人ただ一人へと突きつけられたのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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