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『リプレイ・コード ―千年の記憶を、君の手首に結ぶまで―』  作者: Camelia
正解の檻にいる、正解のない君へ
7/15

既視感と約束

――!!

激しい耳鳴りで目が覚めた。

視界に飛び込むのは、点滅するネオンと湿ったアスファルト。

「……あれ? 僕は、何を?」

記憶の断片が、水面に映る月のようにゆらゆらと定まらない。自分がなぜ、こんな路地裏に棒立ちしているのかが思い出せなかった。

ふと、ビルの窓ガラスに映る自分を見る。……可もなく不可もない、どこにでもいる少年の姿だ。白のダボっとしたロンTに、少し着古したデニム。高校生くらいだろうか。

「……君。ちょっといいかな」

背後からの硬い声に肩が跳ねた。振り返ると、鋭い眼光を向ける警察官が立っていた。不安のせいか僕は左手首を無意識に握っていた。

…僕は逃げた。

数分後僕は高架下で一人の男に拾われた。日比野 蓮。

彼は僕に寝床と食事を与え、「システムエンジニアだ」と名乗った。

豪華なマンションへ入り、そこで暮らさせてもらうことになった。

眠れば、非現実的な空間にいた。

水色の髪の少女、アイと出会った。

「初めまして。迷い込んじゃったかな?」

彼女は僕に「めぐる」という名前をくれた。

現実の冷たさと、仮想空間の温かさ。

二つの世界を往復し、僕はアイに恋をした。

けれど、幸せの絶頂で世界はノイズに包まれ、真っ白な光がすべてを飲み込む。

いや、幸せだと思っていた。最後に見たリプレイにアイの姿はなかった。

衝撃で目が覚めた。

ネオン。アスファルト。深夜の東京。

「……あれ、僕は……?」

デジャブのような違和感を振り払い、僕はまた、蓮という男に手を引かれた。

仮想世界でアイに会い、語り合い、そしてまた「工場」の音と共に世界が弾ける。

記憶は残らない。ただ、胸の奥にだけ、名前のない喪失感が積み重なっていく。

必ず助ける!絶対に!!

目の前には、古びた時計塔?


時刻2030年の8月17日、深夜4:00




――!!


目を覚ますと、夜の東京が目に広がる。

チカチカと点滅する毒々しいネオンサイン。湿ったアスファルト。

「……あれ? 僕は、何を?」

腕を握る。

立ちつくす僕に、蓮が声をかける。

「うちに来るか?」

その言葉に頷く。既視感に怯えながら、僕はまた豪華なマンションの客室で眠りにつく。

アイと笑い、アイと約束を交わし、そしてアイが消える。

何回、何十回と。

ーー…けど……めぐるは同じ光景を何度見ても、全てが初めてだったんだよねーー




蓮さんに拾われてから一週間が経った。

僕はショッピングから帰ってきた。夕食を済まし、早めに部屋へ戻った。

今日も僕はアイに会いに行った。




「……アイ。『夏祭り』って知ってる?」

アイの瞳が、一瞬でキラキラと輝き始めた。

「夏祭り! もちろん知ってるよ! 浴衣を着て、下駄を鳴らして……。夜店から流れてくるソースの香りと、遠くから聞こえるお囃子や賑わった屋台の音とか、

暗闇の中に浮かび上がる提灯の明かりは、まるで魔法みたいなんだから!最後を締めくくるのは打ち上げ花火!

空いっぱいに綺麗な火薬が打ち上げられるの。それが花火!いろんな形、色をした花火は大きな音とともにまるで空に絵を書いたかのように鮮やかに広がるの‼︎」

アイは身振り手振りを交えて、楽しそうに話し始めた。

「……義務とか、効率とか、そういうのはないの?」

「あはは、何言ってるの? お祭りはね、無駄なことを楽しむためにあるんだよ。金魚すくいで熱中しすぎて袖を濡らしたり、お腹いっぱいなのに綿菓子を買っちゃったり。……そういう『不適切な』寄り道こそが、お祭りの本当の正解なんだから」

アイの言葉を聞いているだけで、僕の胸の奥がトクン、と跳ねた。

現実の街で感じたあの冷たい違和感が、彼女の熱い言葉で溶かされていく。

「……楽しそうだな。アイと一緒に、そういうお祭りに行ってみたい」

「そうだ。それこそこのリプレイの世界で夏祭りはできないの?」

目を輝かせながら僕はアイにそういった。

「ん〜、できないこともないんだけど、意外と時間がかかるんだよね。ちゃんとした夏祭りを再現するには数年かかりそうかも」

「そんなに?」

「魔法みたいにポンとできるような優れた世界ではないからね」

笑いながらアイはそう答えた。

「…じゃあ作ろうよ。数年後に夏祭りができるように。一緒に楽しめるように」

僕が小さく呟くと、アイは少しだけ驚いたように目を見開き、それから顔を赤らめて俯いた。

「……うん。行こうよ、二人で。その時は、私がとびきりの浴衣を選んであげるね」

「…約束だよ、アイ」

「うん、約束」

アイの細い指が、僕の小指に絡みつく。

その指先の熱が、あまりにもリアルで、僕は思わず彼女の手を強く握り返した。

システム上のデータ。仮想空間の案内人。

そんな理屈はどうでもよくなっていた。今、目の前で赤らんで笑っている彼女を、僕は心の底から「愛おしい」と感じていた。

「めぐる……?」

アイが不思議そうに僕の顔を覗き込む。

彼女の吸い込まれそうな紺色の瞳に、僕の姿が映っている。

「……なんでもない。アイに会えると、なんだか、すごく安心するんだ」

「私もだよ、めぐる。あなたが来てから、この世界がもっと綺麗に見えるようになった気がするの」

「…ありがとう。また来るよ」

めぐるはそう言って現実世界へ戻って行った。

めぐるを見送ったアイは1人佇んでいた。

「…数年後に夏祭りか…。」

「……『次』は用意しといてあげるから」

アイは少し沈黙した後、笑みを浮かべそう言った。

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