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ドングリ魔法はまだ飛べない ~でも、3センチなら飛べるもん!~  作者: 大沙かんな
第九章 疾風篇 (一年生後期)

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67.山頂を目指そう!

 もう日が沈み始めた山頂で、学園長を含め、その報告に教師たちはいっせいに色を失い、ただ愕然としていた。


 最後尾を登ってきたはずの教師たちが山頂に到着したというのに、A組とB組の姿がどこにもないのだから当然だ。


 麓からここまでほぼ一本道、いくつかある分かれ道にはしっかりと標識が立てられている。道に迷う要素はどこにもない。


 山頂付近はそうでもないが、眼下を見下ろすと深い霧が立ち込めて視界を遮る。その上、もう陽はほとんど沈んで、辺りがどんどん深い闇に包まれていく。


 まさか濃霧の中で無駄に動き回りでもしたのか。


「行けるか?」


 学園長の声音が硬い。もちろん、これから捜索に出られるか、それを問うているのだ。


「ほぼ不可能です、ここまで登って来るだけで精いっぱいでした」

「朝まで待つしかありません」


 なだらかな山ではあるけれど、道の途中にはいくつも崖がある。そして足元は濡れた落ち葉でつるつる滑るのだ。


 そんな危険な山道を霧の深い真夜中に動き回るのは、それこそ自殺行為だとしか言えない。


 せめて雲が晴れて月が出てくれれば。


 じりじりと、時間だけが過ぎていく。



 ~~~~~



 その数時間前、キャナリーたちがとても楽しそうに山を登っているころ。


「きゃぁっ!」

「ほら、足元に気を付けて」


 足を滑らせて転びかけたショミンダに、アーシュラが手を伸ばして抱きかかえた。


「これもう、つるつるですよ! 雪じゃないのに反則です!」

「あはは、落ち葉ってすっごく滑るよね!」


 きれいに黄葉した木々から、はらりはらりと落ち葉が舞う。


 道の上にはそんな落ち葉がうづたかく積もり、それが雨露に濡れて足元を滑らせる。


 アーシュラやキャナリー、他にも数人の山慣れた者にはどうってことはないけれど、山を歩きなれない子供たちにはちょっとした試練だ。


 崖というほどではない、かなりなだらかな斜面だけれど、一度落ちるとそのまま登ってくるのはちょっと難しい。



「いい物見つけたぞ!」


 アーシュラが拾ってきたのは、誰かが落とした鍋のフタか、それとも風に飛ばされた木窓か、少し朽ちたような板切れだ。


「いやっほうっ!」


 それをお尻の下に敷いたかと思うと、そんな斜面をまるでソリのように、つづら折りの下の道まで一気に滑り降りていく。


「あ、ずるい! 私も!」


 全力で駆け上がってきたアーシュラから板切れを奪い取ると、キャナリーも負けじと斜面を滑り降りた。


 どかんっ!


「痛ててて……」


 ぶつかった勢いで、真っすぐに立っていたはずの木が少し傾いてしまっている。


「何やってるんだ、キャナリーは」


 交代したアーシュラが滑り出すと、キャナリーと同じ木にぶつかって止まった。ミシっと音がして、さらに木が傾く。


 普通のソリと違って操縦が難しい。


「こんなことぐらいで木が傾くなんて、どうなってるんだ?」

「たしか、地盤が柔らかいって言ってたよ!」


 この山ではないけれど、学園までの旅の途中、雨で橋が流されていくのを見たのは、ここからそれほど離れていない場所だ。


 再度交代したキャナリー、今度は木にぶつからずに無事に下まで滑り降りることに成功した。


「いつまでやってるんですか! もうみんな、先に行っちゃってますよ!」

「あ~待って~、置いていかないで~!」


 それでもしっかり板切れを持ったまま、キャナリーが飛ぶように登ってくる。


 クルルも少しやってみたそうにしていたけれど、どうやら我慢したようだ。山の中でこの野生児二人と同じように遊んでいたら、最後まで体力が持つわけがない。



 少し急ぎ足で他の班を追いかけると、休憩してお昼ご飯を食べ始めていたみんなに追いついた。


「ちょっと空気が湿っぽいよね」

「もしかして雨になるかもな」


 朝方に見かけたような晴れ間は今はどこにも見当たらない。


「わかるんですか?」

「いや、同じ山ではあるけど、地元じゃないしね。正直良くわからないよ」


 それはキャナリーも感じている。同じようでいて、なんだかちょっとだけ勝手が違うようなそんな感じだ。


「あれ、リリス、どこに行ってたの?」

「お友達と会ってたモモ! 宝の山モモ!」


 リリスが頬っぺたにいっぱいドングリを詰め込んで戻って来た。


 そのやって来た方に目を凝らすと、おそらくそのお友達だろう、同じように頬っぺたをいっぱいに膨らませたリスたちが挨拶しているのが目に留まる。


 どうやら精霊であるリリスにとっては、勝手が違う、なんてことはあまりないらしい。



 きゃーきゃーと騒がしい昼食を終えて、学園生たちは再び山頂に向けて歩き出した。


 アーシュラの予報は外れて、雨が降ってくるような(きざ)しは見当たらない。


 その代わりに、道行く先に少しもやがかかり始めている。


「霧……ですね、大丈夫でしょうか?」

「これぐらいならへっちゃらだよ?」


 山の中での霧は良くあること。前後が分からないほどの濃霧になれば別だけれど、うっすらと霧がかかっているくらいなら何も問題はないのだ。


「そうでした、やっぱり海と山は違いますね」


 海の上で霧に出会うとかなり危険だ。どっちが陸なのか分からないうちにどんどん沖に流されて、霧が晴れた時には陸の影も形も見当たらない、なんてことも少なくない。



 霧で視界が悪くなる中、さらに道を登っていくと分かれ道に出くわした。と言ってもしっかり標識が立てられており、先行している班のみんなはそれに従って間違いなく進んでいる。


「ちょっと待って!」


 キャナリーは標識の所までタッタと駆け上がると、懐から大きな虫眼鏡を取り出して丹念にそれを調べ始めた。


「こ、これは!」

「どうした、キャナソン博士!」


「全部分かった! これはきっと道案内の標識!」

「なんだって! それは大発見だ!」


「霧が濃くなってきてますし、二人とも、遊んでないで早く行きませんか?」


 よっぽど霧が嫌いなのかショミンダが乗ってくれず、キャナリーはちょっとしょんぼりしながらみんなの後についていく。


 それでも何か未練があるのか、時々キャナリーは後ろを振り返る。


「もう、いつまでやってるんですか、置いていきますよ?」

「えへへ、ごめんね!」


 正直よくわからない。でも何かが違う、そんな小さな違和感を吹き飛ばすように笑うと、キャナリーはみんなに追いつくように走り出した。



 霧はどんどん深くなる。


 そしてそれは、音もたてずに学園生たちを飲み込んでいく……。


迫りくる危険!

キャナリーは、そしてアーシュラやショミンダは大丈夫なのか?


キャナソン博士の名推理に期待してくださる皆さん、ぜひとも★感想と評価★をお願いいたします!


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