63.秋の終わり
中央魔法学園単独開催となった『魔法剣術の部』。
己の誇りと新たな道を目指し、キャナリーたちは剣と魔法が交錯する激闘の舞台を駆け抜けた。
新章!
キャナリーを待つのは、もしかして前世含めた最大のピンチ? そして静かに忍び寄る影とは一体……
~~中央学園新聞~~
《学園対抗戦、中央学園大勝利!》
連日の熱戦の結果、我が中央魔法学園が全種目で優勝という完全勝利を……
《後期・野外実習大予想! 今回は山?》
……
《運勢》
火 調子に乗るとしくじる
水 今はつぼみ、でも花は開く
土 友情を信じよう
風 勝負の時、恐れるな
~~~~~~~~~~
大賑わいだった学園対抗戦も終了し、中央魔法学園にはまた、ひとときの平常な毎日が戻っている。
「毎日ずっとニンジンなんて、もう死ぬかと思いましたよ」
ショミンダが爽やかな顔を見せた。
そう、魔法剣術で競い合ったあの日以来ずっと続いていた学園食堂の茹でニンジン祭が、やっと今日、普段どおりのメニューに戻ったのだ。
ショミンダだけじゃない。もちろんキャナリーとアーシュラも、ここ数日見たことが無いくらいのニコニコ顔になっている。
「また退治しなきゃ!って思ったもんね」
「いや、やるなら今度は全滅させないと駄目だぞ」
アーシュラの胸にあった初代・魔法剣士バッジも大切に片づけられて、もうそこにはついていない。
「普段用と飾る用、二つ欲しいな」
「それなら来年も勝って、もう一個手に入れないとね!」
「また勝ったらまた勝ったで、それも二つ欲しくなりますよ、きっと」
そう、第一回なんて銘打っていても、おそらく今年限りだろうと思われていた魔法剣術の部が、なぜか王侯貴族の一部で気に入られたようで、来年以降も開催されそうなのだ。
一過性のものに過ぎないかもしれないけれど、他の四学園からもやってみたい、なんて意見が出ているという。
一年生の決勝戦だけでなく他の学年でも、水や土での足場の制御がかなり興味深く映ったらしい。
そこからさらに発展して、あまりに火の魔力が有利すぎる的当て重視の魔術の部を、改革しようという話まで上がってきているそうだ。
「自分を見据えて、何が来ても大丈夫なように鍛え上げる。それだな」
どうなるかわからない未来の話をしたって、人食い鬼に笑いながら食べられてしまうだけだ。
ほけーっとしながらアーシュラの話に相槌を打っているキャナリーに、ショミンダがいたずらっぽい目つきで口を開く。
「キャナリーだって、他人事じゃないでしょう?」
「ほへ?」
一瞬分からなかったけど、そう言われればそうだった。
準決勝で金属武器を使ったということで、カミオンは失格扱いになってしまい、決定戦が行われることもなく、キャナリーが三位の賞状を貰ったのだ。
「私は入賞してないから、関係ありませんけどね~」
「ず、ずるいよ!」
そんなやりとりをしながらも、ショミンダは食堂の隅っこ、一人で座るカミオンをチラっと見ると、少しだけ付け足した。
「私も準備だけはちゃんとした方がいいかもしれませんね、それも正しい方法で」
食堂を出ると、空がどんよりと曇っている。
「あれ? さっきまで晴れてたのに!」
そう言っている間に曇り空はどんどん暗さを増していき、ついにはポツポツと雨が降り出してしまった。
「教室まで走ろう!」
三人はローブのフードを目深にかぶると、食堂から校舎へと一目散に駆け出す。
もちろん彼女たちだけじゃない。周囲の学園生たちがみんな、てるてる坊主姿になって冷たい雨の中をそれぞれの校舎に向かって走っていく。
雨は最初に思ったよりも強くて、校舎の玄関口についた時にはかなり濡れて、ローブの表面からは水滴がしたたっていた。
ぶるぶるぶるっ!
「わ、冷たい! リリス、やったな~!」
キャナリーもバタバタとローブを掃ってやり返す。
「お、おい! こっちまで……それなら!」
巻き込まれたアーシュラやショミンダも黙っているわけがない。
さっきまで乾いていた玄関口は、瞬く間にびしょ濡れに変わってしまった。
キ~ンコ~ン♪
「うわ、急がないと!」
「遅刻になっちゃいますよ」
もう一度、軽くぶるっと震えると、キャナリーたちは玄関を後にした。
なんとか間に合って椅子の背もたれに濡れたローブを干していたら、本鈴の鐘と共に学園長で担任のエライ先生が教室に入ってきた。
相変わらずの黒髪に白髭、そして生成りのローブは少し雨に濡れて茶色いまだら模様になっている。
慌てて濡れたローブを着ようとする生徒たち。
「ああ、そのまま干していて構わん。今風邪をひくと大変じゃぞ、なにしろせっかくの野外実習に行けなくなるからのう?」
それを聞いて濡れたままで我慢していたクラスメイトたちも、急いでローブを脱ぎ出した。
「さて、今も言ったが、後期の野外実習がそろそろやってくる。前期は森じゃったが、今度は登山じゃ」
行先はモンデモン山。王都からは南西の方角、馬車で数日のところにある、大きいけれどキャナリーやアーシュラたちの地元ほど標高は高くない山だ。
「あの、先生……また徒歩で移動ですか?」
「心配はいらぬよ、また行方不明になられたら困るからの」
今回は馬車を連ねて山の麓まで行き、そこから徒歩で山に登るらしい。
山中で一夜を明かすことになるそうだけど、テントなどは馬車で運んでもらえるので、大きな荷物は持たなくても良いという。
「持っていく物は食べ物や飲み水、あとは暖かい服装、それに細々した物ぐらいじゃの」
「おお~~っ!」「やったぁ!」
前期の森では悪夢のような荷物運びを経験したクラスメイトたちから喜びの声が大きく沸き起こる。
「これこれ、他のクラスの邪魔になるじゃろう、静かにせんか」
教室の中が落ち着いたところでエライ先生は続けた。
「今回の班は前回と違って五人一組じゃ。男子だけ、女子だけにならぬように。それでは班に分かれなさい」
エライ先生の合図で、教室のみんなが一斉に動き出す。
窓の外ではまだ冷たい雨がしとしと降り続けている。
王都に少しづつだけれど冬の気配が近づいていた。
第9章、開幕です。
作者、気合入れていきます!




