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CHANGE  作者: ゼン
番外編
13/15

シンシアの完璧な婚約者

 毒蛇が(ドラゴン)を産んだ。

 そのような奇跡を見たことがある者はいるだろうか。

 シンシア・リスコフは「ある」と、断言できる。


 その人物とは──


「シンシア! 聞いてくれ! ベアトリクスに茶会に誘われた!」


 と、この世の春が来たような顔で、難易度の高いステップを踏んでこちらにやってくる男、シンシアの婚約者のルイ・スターンである──


 そんな完璧で理想の貴公子と言われる男の正体は、残念ながら()()だ。妹にお茶をしようと誘われただけで、「わーい」とか言っちゃう男である。

 しかし、コレはあの毒蛇二匹にバレていない。

 あっぱれ。なんせ天下の(ドラゴン)様。


 神に愛されし、二物どころか百物、千物も与えられしコレ。

 だが、そんなルイにも弱点はあった。


 それは、妹のベアトリクスである。


 スターン家で一番まともだと言えるベアトリクス・スターン(※個人(シンシア)の感想です)が、ルイの弱点である。

 幼少の砌にベアトリクスが放った「にいに、だいしゅき」に撃ち抜かれて以来、ルイはベアトリクスにメロメロだ。可愛くって仕方がない。

 猫っ毛ふわふわの金の髪も、自分よりも少し薄い透き通った青い瞳も、甘いものよりも塩気があるものを好むところも、小さな動物に相好を崩すところも、目茶苦茶可愛い! とのこと。


 しかし、悲しいかな。


 毒蛇の影響により、ルイに対抗心とコンプレックスを持った現在のベアトリクスが「お兄様、大好き」などと言う訳もなく。

 距離を詰めようとすればするほど裏目に出ては、シンシアに「嫌われた、死にたい」などと泣きついてきていた。

 なので。

 今回も絶対にそうなのだろうと思っていたシンシアだったのだが……。


「ルイ、あなた疲れているのではなくって?」


 学業の他に、本来は毒蛇がしなければいけない執務と、王太子殿下のお守り……もとい交流もあるルイが疲れていないはずがない。

 考えなくても分かることだが、平気な顔をしているからすっぽ抜けていた。


「熱はないけれど……大丈夫? お水飲む?」

 シンシアは内心で大反省をしつつ、ルイを座らせてその額に手を当てる。


「ないよ。疲れてもない。それに今は力が漲っているんだ。でも水は貰う」


 ルイの額に当てていたシンシアの手は優しく剥がされて、そのまま握られた。

 ちなみに彼の手は、シンシアの手を握ることしかしない、お行儀の良い手だ。

 指摘すれば離れていくので何も言わないでおく。


「じゃあさっきのは私の空耳なのね? 嫌だわ。私、疲れてるのかしら?」

「酷いな、シンシアは。ベアトリクスに茶会に誘われたって言ったのは聞こえてただろう?」

「あら、じゃあ空耳でも過労でもなかったのね。安心したわ」


 シンシアの言葉にルイは少し不満そうにしつつも、妹から誘われたことを説明し始めた。


 ……シンシアは基本的にはルイの味方なのだが、ベアトリクスの気持ちも痛いほどに分かる。

 こんな何でも出来てしまう兄がいて、両親がそんな兄ばかりを優遇したら、コンプレックスを持っても仕方がないだろう。


 例え、その両親が決して褒められるところがない部類の毒蛇でも、子からしたら親は親なのだ。


 オスの毒蛇もといルイの父親は、ルイが優秀で書類仕事が得意だと分かると、これ幸いと諸手を挙げて己の仕事を息子に丸投げするド屑野郎である。

 メスの毒蛇もといルイの母親は、まだ嫁になってもないシンシアに『ルイに似た息子を産みなさい、もし女だったりお前に似ていたら離縁させるからね』なんて言う女だ。


 これを言われた時のシンシアの年齢は今のベアトリクスと同じである。


 想像してみてほしい、意地悪く口を歪めた女に「離縁させるからね」と言われた幼気な少女の気持ちを。

 あれを言われた日、シンシアは帰宅後泣いた。悔し泣きである。


 そして、将来産まれる子供を、絶対に絶対に絶対に義母となる毒蛇にだけは抱かせないと決めた。

 何が起ころうと、この決意は決して揺るぎはしないだろう。


 幸いなことにルイはシンシアの話を聞いてくれたので、対策を講じることができるが……そうでなかったらと思うとゾッとする。


「今度こそ、失敗したくないんだ。だから会話の予行をしたい。……シンシア、練習に付き合ってくれないかな?」

「ええ、もちろんよ」

「ありがとう。……ああ、ごめん。ずっと手を握ってしまっていた」

「ふふ、いいのよ」


 ずっと気が付かなければ良かったのに、と思いながらもシンシアはにこりと笑みを返した。






 ツンが強めなベアトリクスは最近変わった。


 まず変化の一つ目。

 毒蛇二匹をベアトリクスが見限ったことである。

 正確には『見限った』とは言わないのかも知れないが、ベアトリクスは彼らの気を引くことをすっぱり止めた。


 そして変化の二つ目。

 彼女の婚約者であるエヴァンとの関係だ。

 顔を見合わせれば喧嘩していた二人の空気がぐっと柔らかいものになった。

 これに関しては、エヴァンも変わったのだろう。

 お互いに歩み寄っているのが分かり微笑ましい。


 それから三つ目の変化は、ベアトリクスがルイとの関係を良いものにしようとしていることだ。

 最初の頃のお茶会は会話が途切れがちで、ぎこちないものだったそうだが、近頃はぎこちなさは残りつつも何とかなってるらしい。

 今度のお茶会にはシンシアも誘われているので、良いアシストをして兄妹の関係の潤滑油になろうと意気込んでいる。


 ルイの婚約者であることから、避けられがちだったのでこれを機に仲良くなりたい気持ちもある。


 その際に、シンシアがベアトリクスの味方であることを伝えるつもりだ。

 そして最終的には、彼女が変わったきっかけを教えてもらえるくらい仲良くなりたい。

「お茶会で話したことですか? 他愛のないことばかりでしたよ。良いアシストもできたし満足です。……ああ、近い将来、毒蛇……いえ、あの方達が田舎に療養に行くことになることは伝えませんから、ご安心なさって? やあね、計画だなんて。人聞きの悪い。私のことを悪の手先みたいに言うのはおよしになって。ええ、ええ、そうよ? 先にこのことを決めたのはルイです。……未来の旦那様の言うことですもの。私は従いますわ」

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