11.エピローグ
幸せ、と書いて『幸』。
齊藤 幸。
それが女の名前だった。
幸は、ここではない世界の少女と、ひょんなことから入れ替わった。
入れ替わった際、ベアトリクスは幸には到底出来やしないことをしてくれた。
驚くことなかれ。
なんとベアトリクスは、意地悪な先輩をぎゃふんと言わせたり、それにより臨時収入を得たり、幼馴染の彼と恋人関係になるきっかけを作ってくれたりと、幸の人生を良い方向へ導いてくれた。
夏祭り最中の入れ替わりで、幸がちょっとした勘違いをしたのはご愛嬌の内。
涼と、例の花火の下で公開告白なるものをして、いかんせん地元なので非常に恥ずかしい事態になっているけれど、それも含めてまるっと『良い想い出になった』という一言で纏めたい。……大人なので、纏めちゃう!
凛恋とは後に二人きりで話をして、謝罪を受け取った。
ずっと後悔していた、と聞いて赦した。
涼には「甘いんだよなあ」と呆れられたが、幸は赦したい。
赦して、赦されたい。
そして、その赦しを持って一歩踏み出してほしいし、踏み出したい。
──いつか、もし奇跡が起きたとして。
あの子に会えた時、指針となるような人物になっていたいから。
ここではない世界の空の下。
今日もあの子が、美味しいものを食べて、よく寝て、たくさん笑っていられますように!
***
ベアトリクス・スターン。
それが、彼女の名前だった。
その名には、『幸せの担い手』という意味があるらしい。
ベアトリクスは、ここではない世界の女と、ひょんなことから入れ替わった。
驚くことなかれ。
なんと幸は婚約者との関係がうまくいっていないベアトリクスの為にレシピノートなるものを作成してくれた。
そして、涼と出逢って、恋を知って……その恋は瞬時に破れたけれど、ほんの少しだけ大人になれた気がする。
エヴァンの前で泣いた日以来、ベアトリクスは変わった。
いや、変わろうとしている。
答えはまだ知らないけれど、これは『いい方向』なのだと思う。
……まだ完全に拗らせがなくなったわけではないので、エヴァンと喧嘩することもある。
でも、その日の内に仲直りをして、二人で甘くないお菓子を食べることにしている。
兄との関係は、もちろんまだまだとてもぎこちなく、会話もなかなか続かない。
でも、歩み寄りは諦めない。諦めたくない。
失敗は怖い。できることなら避けたい。
だけど、逃げないで進もう。
──いつか『もしも』会えたとして、変わった自分を見てほしいから。
ここではない世界の空の下。
あの女が、名前の通りの路を歩いて行けますように。
【完】
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