046:琥珀色の思い出
野乃花が持ってきたブローチは遥にとって非常に興味深かった。
「話に聞いた通り。素敵ですね」
「祖父がヨーロッパに外遊した時のお土産なんです」
重く憂いに満ちた口調で野乃花が言った。
「がいゆう?」
「はい」
同じような意味ではあるが、海外旅行でもなく、出張でもなく、”外遊”とは、如何にもな言い方だった。
事実として、そのブローチは三ツ橋宗輔が主要国首脳会議に出席した時に、野乃花にと買い求めてきたものだった。
「えーっと……そうですか」
遥は敢えてそこに触れずに、あくまでも琥珀の話題に絞った。
「あちらは琥珀の大きな産地もありますし、デザインも洗練されていますね。
これならば若い人もさりげなく付けられそうです。
若い人を含め、もっと多くの人に琥珀の品を身近に使って欲しいと思っているので、この二×四ビルの店主のみなさんにも意見を聞いています」
なので、野乃花もよろしく、という訳だった。
「その上で、ミツバチか蜂蜜モチーフという縛りもあるのでね。
このハニカム・ハニーシリーズはなかなか人気があるとは思うのですが……」
野乃花が髪に挿している簪の一連のシリーズはハニカム・ハニーというらしい。
「そろそろ新しいものも作りたいと思っています」
言いながら遥は自身のデザイン帳を見せてきた。野乃花は機械的にページをめくった。
一枚目の絵が目に留まる。
”アカシア”の花のようだ。そう書いてある。それを琥珀と銀細工で表現しようとしたらしい。
”黄色い花”は琥珀の玉がいくつも房のように繋げて再現し、櫛の歯のような細かい銀の葉が付けられている。そこにしずく型の琥珀と銀のミツバチがぶら下がっていた。
「ああ、それはねぇ、ここに来て最初に考えたものです。
ちょっと思い違いをしていて、ある意味、失敗作なんですよ」
”思い違い”と失敗”という単語に野乃花はギクリと反応した。
二×四ビルに初めて来た時、遥の知る蜂蜜は、祖母が大きな瓶から掬ってくれるものだった。金色の蓋を開け、祖母は遥のホットケーキやパンの上に、たっぷりと掛けてくれた。その後、母親に内緒でこっそりとスプーンも舐めさせてくれたものだ。
瓶はいつしかプラスチックの容器に代わり、遥も成長して自分一人でも蜂蜜を掛けられるようになったが、それ以上、蜂蜜について深く考えることはなかった。蜂蜜は蜂蜜という一つのものだった。もっとも、優しい祖母の記憶と結びついたそれの印象は良い。
広瀬耕之進は新たな店子に、彼の祖母がしたように大きな瓶から蜂蜜を掬って勧めた。まずは、とっつきやすいアカシア蜜から。
「それでピン、と閃いたんです。蜂蜜の採れる花と、その蜂蜜と同じ色合いの琥珀を組み合わせてみたらどうだろうかって。”アカシア”なら花も琥珀で作れるし……と」
「え?」
野乃花は反射的に疑問の声を漏らした。




