037:仕事二日目
二日目の朝。
野乃花は早々に起きた。体調は良い。
身支度を整えると、昨日と同じく蜂蜜パントリーの前で過ごし、朝の一匙を食べる。この日は菩提樹の蜂蜜にした。鼻に抜けるハーブのような爽やかな香りが、清々しい朝に相応しかった。
それから片平光と星陵子を招き入れ、ハーブガーデンでの作業を手伝うと、当然のように一階に降りた。
光は苦笑した。どうやら野乃花は今日も彼女の店を手伝ってくれる気満々のようだ。
早速、掃除を始め、ハーブガーデンから摘んできた花を各テーブルに飾っている。どれも隙のない、流れるような作業で、口も手も出せない。
出勤してきた名取は自分の朝の仕事が終わっているのを知って、唖然とした。することがなくなり、手持無沙汰になった野乃花に、光は追い立てられるように仕事を求められたが、そうは言っても、今日は、イチゴはない。名取を見ると、野乃花に取られていない仕事を、がっちりと掴んで離す気配はなかった。
これは笑ってばかりはいられないな、と思いながら、では、混む前に早めの朝食にしてもらおうということになった。
「モーニングの時間帯は混むので、先に食べてもらうと助かります」
そう言われると、野乃花は大人しく指定席に座った。
名取がやって来て、注文を取る。
「今日はモーニングの時間なので、こちらのメニューでどうぞ。
本当はどの時間帯でも管理人さんには好きなメニューを提供できるんですけど、ここで違うものを食べていると、他のお客さんもそれを注文できるのかと思わせてしまったら悪いからって、広瀬様が。
けれども、野乃花さんが六階で食べるのでしたら、なんでも構いませんよ。私、運びます」
なぜそんなことを言ってしまったのか、名取は不思議に思い、野乃花を厄介払いしたいと願望があることに気づき、恥じた。
朝の仕事をしなくていいのは楽ではあったが、それでは自分の立場はどうなる? と名取は憤っていたのだ。
そんなモヤモヤした気持ちで受けた注文は『ティースプーン』特製の手作りグラノーラだ。ナッツやドライフルーツも入っており、女性人気が高い。これにヨーグルトを掛け、その上にたっぷりの蜂蜜を掛けるのだ。
野乃花がこの日、選んだ蜂蜜は『栗蜜』だった。濃い目の色合いで苦味のある蜂蜜は、昔、日本では人気がなかったが、最近ではそれも個性と受け入れられるようになっていた。野乃花もそのカラメルのような味わいが好きと言って、微笑んだ。
蜂蜜の話をしている時はすごく可愛くて、素敵な人に見えるのに。
注文を伝えに戻りながら名取は心の中で呟いた。
現に、野乃花の近くに座っていた、いつも百花蜜か、レンゲかアカシアを頼む、あまり冒険しないタイプの常連客が彼女を捕まえ『今日は栗蜜に挑戦してみたくなったから、注文替えてもらえないかな?』と申し出て来たのだ。さらに、もう一人、客に捕まった。その人は、来る度に蜂蜜の種類で悩むお客さんだった。
「ねぇ、あの奥に座っている綺麗な女の人は。何の蜂蜜を注文したの?」
名取が野乃花の蜂蜜の種類を教えると、「じゃあ、今日はそれにしよう」と決めた。
三つの注文を通すと、お返しに、とばかりに熱々のパンケーキの皿が出された。蜂蜜と一緒にトレイに乗せると、テーブルに持って行く。
扉が開き、新しいお客様が入ってくる。
「いらっしゃいませ! 申し訳ありません。少々、お待ちください」




