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糸束  作者: ぬじゃわきし
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6/9

袋を担ぎ、歩きながら小見郎は龍子に訊ねた。

「『ポインセチア』の場所分かるの?」

「分かる。あと、20分程だよ。」

思いの外、自分とは全然違う存在になってしまった龍子に小見郎は驚きと寂しさを感じずにはいられなかった。彼女は己のアイデンティティーを犠牲にして一人の命を助けようとした。その結果、彼女になにかが変わったのである。今、彼女自身が何を考え何を思っているか、まだ分からない。恐怖、をも彼は感じていた。とりあえず小見郎は袋を担ぎ続けた。



やがて、夜になった頃に、さびれた建物に着いた。薬局の看板がぶら下がっているが、どう見ても閉店している。

二人は真っ暗の薬局に入り、ゆっくりと中へ進んだ。誰もいない。カウンターを越えて事務室の扉を開けようとした。その時。


「だれ?」


声が聞こえてきた。扉の向こうからだ。龍子は答えた。


「瑠田龍子と申します。“回路人間”です。」

すると声は答えた。

「まず、リーダーの真田さんとお話して、許可しなければなりません…」

なぜなら回路人間と言えども裏切り者がいるかもしれないから。そういう事は龍子は痛感していた。だがどうやって信じてもらえるか…。

「真田さんはいらっしゃらないのでしょう?」

龍子のその言葉に相手は動揺した。

「…なんで知っているのですか…」

「真田さんから言伝てをしに伺いました。」

「しかし…真田リーダーの言い付けが…」

相手は未だに頑として聞かない。こうなったらこういう言い方しかできない…龍子は心が痛かったが勇気を振り絞って言った。

「真田さんは、殺されました。」

相手が暫く沈黙し、訪ね返した。

「本当なのか…?」

「厳密には、生命維持ができなくなりました。亡くなる寸前に、通りかかった私と回路で“接触”をしました。彼の“回路”は全て私の元に結合し、彼の意志は私の中にあります。」

「嘘だぁぁぁ!」

ドアの向こうで相手は叫んだ。

「つまり、お前が真田リーダーだと!?そんな事はあってはならぬ…リーダーは他の所で生きてるんだろう?」

「いいえ…違います…」

信じてくれない…当然である。龍子とて、あの行動が上手くいくとは確信してなかった。しかしこうなったら説得するしかない。

龍子はドアの端に手を置いた。そして手を“回路”にし、ドアの隙間から触手を伸ばした。龍子は言った。

「それに触れて下さい。答えがここにあります。」

ドアの向こうからは返事はない。龍子は待った。

やがて龍子はその人を感じた。その人どころではない、部屋の中の多くの人々が龍子と“接続”していた。小見郎も“接続”した。声が聞こえてきた。



“嗚呼、リーダーが…”

“ここに生きてらっしゃる…”

“リーダー…”

中の世界で龍子がいた。否、龍子の姿をした真田であった。彼女は言った。

“皆さん、普通の人たちはとうとう我々を見捨てました。我々を同じ人間と見るのを止めたようです。ですがそれに対し我々は死ぬべきか?それは違います。しかし人間は我々が生きる事を望みません。対立、戦いが、始まりました。”

大勢がそれに賛同し、“回路人間に勝利を!”と叫んだ。

だが龍子は首をふり、言う。

“しかし、武力は私は望みません。そもそも私達は脆い存在…。戦ったところで、勝ち目はなく、たとえ成功しても大いなる代償が待ち構えています。”

“龍子、それは違う。”

突然小見郎が叫び始めた。

“我々はまだ様々な可能性が秘められている!普通の人間とは違うんだ!普通の人間ではできない技術もできるはずだ。我々に勝ち目はある!いざ!戦いだ!”

人々はわけも分からず小見郎に賛同した。龍子は小見郎の意見に驚いた。それは何かおかしいと思ったが、「殺すのはイケナイ」程度の陳腐な反論しかできない。ちょっと見ないうちに、小見郎はどうやらある種の狂気に陥っていた。すなわち生存の恐怖。龍子への恐怖。いつの間にか、多くの人々が龍子から接続を断った事を知った。小見郎まで。ドアは開き、小見郎は歓迎された。龍子は悪い予感しかしなかったが、それを伝えるには相手が余りにも多い。龍子はどうしようか分からず、あまりの裏切りに、崩れ落ち、泣き出した。全身はたちまち赤い触手と変異した。


“泣いてはいけない”


という自分の声が聞こえた。いや、真田の声かもしれない。


“周りがいかに自分と違う流れになろうと、自分の流れを保つのだ。それが真実なら流されない。あなたはそれを選択できる。”


“でも、私は一人…”


“いや、そうではない。顔を上げなさい。”


龍子は見上げた。室内で騒いでいる小見郎たちから離れて数人の回路人間が龍子を見下ろしていた。

彼らは言った。


「しっかり。」

「真田、いや瑠田リーダー。」

「私達はあなたに賛同します。」

龍子は冷静になり、元の姿に戻って笑顔を見せて言った。

「そうね。」


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