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糸束  作者: ぬじゃわきし
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日に日に“回路”抹殺の会の動きはエスカレートした。あの不気味な紋章の旗を掲げたトラックが町を横断し、あの「虫」が巧妙に人間に化けて、いつ何時もあの触手で我々人間を狙い続けているに相違ないと力説していた。あらゆる原因不明の誘拐事件などを、彼らは「虫」、すなわち“回路人間”のせいにした。

人々は最初、関心をもたず無視をしていたが、それはむしろ龍子達にとって悪い兆候であった。関心ももたぬまま、無意識に、ひっそりと、彼らの考えが植え付けられるのだ。

例えば。なぜか夜になると子供は外出禁止になり、大人すら夜歩くのも恐れる人がいた。「回路」という悪口が出来た。こうして日に日に“回路人間”は居づらくなった。


そして、ある日、事件は起きた。


いつものように、例のトラックは交差点を横切っていた。またか、と龍子と小見郎は思ったが、どうも様子はおかしい。トラックの荷台に囚われた回路人間がいた。そして回路抹殺会の男が叫んでいた。

「皆さん!聞いてください!素晴らしい、朗報を手に入れました!あいつらを本当に抹殺する方法です!」

周囲の人々、そして龍子と小見郎は驚いて振り向いた。

「彼らは驚異的再生力をもっております。頭の傷すら致命傷にはならない…だが、ただひとつ、我々と同じ弱点があります!それは…心臓です!」

わああ、と歓声が上がり、囚われた回路人間はもがき始めた。

「覚悟するんだ!」

男は銃を向けた。そのとき、回路人間から赤い触手が伸び、銃を握る男の手に触れた。回路抹殺の彼は動揺した。手から“コロサナイデ”という切実な思いが伝わったのだ。男は葛藤したが、これは悪魔の囁きだと思い、頭に響く声を無視して引き金を引いた。






夕暮れ。連中は去り、その回路人間だけがそこに残った。龍子は何もできなかった自分に怒りを抱いた。しかし、何ができよう。回路人間は狂暴どころか貧弱である。それを彼らは虐げているのだ…。

龍子はそれを見た。体力を失い、体の維持ができずに触手だけになったその姿。龍子は静かに哀悼の念を示し、申し訳ないと頭を垂れた。

その時、触手が動いた。龍子は驚いた。まだ生きていたのだ。龍子はそっと触れた。すると話しかけてきた。

“私の体は…もう…使い物にならないみたいだ…だが彼らのために死ぬに死ねない…”

龍子は言った。

“何かできることは…”

“いいよ。ありがとう…優しいお嬢ちゃんだね…”

顔は崩れて分からなかったが笑っているようにも見えた。

おそらく老人と思われる彼は、静かに語りかけた。

“あなたが私にできる事は何もないだろう…ただ一つ願おう。あなたは生きてる。それは素晴らしい。だからあなたは私の分、しっかり生きてくれればそれでいい…”

“あなたの分しっかり生きる…。”

その言葉に龍子は閃きを感じた。

“待ってください!一つだけ方法があります!”

“何かね…”

“あなたの分を生きます。そうです。あなたはきっと素晴らしい方。死なせるわけにはいきません。ですから、私の体で生きて下さい!”

“何を…?”

“私とあなたで接続して、あなたの意思を私が預かるのです。”

“つまりあなたの体に私が住むというのか?なんと恐ろしい事を…”

“それしか助かる道はありません。”

“しかし…”

“時間はありません。さあ。”

“…”


老人は決意し最期の力を振り絞って全身触手化した龍子と接続した。老人の記憶が滑り込んできた。老人の名は真田士郎。突然“回路”になった彼は、仕事仲間から追い出された。が、それをきっかけに“回路”の人々を守りたいと思い、人寂れた町でひっそりと“回路人間”のユートピアを築き始める。そこを住む者は「ポインセチア」と読んだ。回路人間の赤い姿に例えてだ。「ポインセチア」の人々は真田をリーダーとしてしたっていたが、今、自分が殺されたらこの先どうなってしまうのか。龍子は思った。


老人の触手と龍子の触手は融合し、老人の体は次第に自分自身の体から剥がれて龍子の中に取り込まれた。後には白骨が残った。小見郎はその様子を見て、しばし驚愕していた。


老人の触手と融合した龍子は自分の体を再構成した。姿は前の龍子のままだし、経験こそ増えたものの、意思も、自分以外にはない。龍子は気づいた。真田士郎の意思と自分の意思は融合した。だが最終的な選択意思を真田は龍子に委ねたのであろう。結局は龍子そのものになってしまった。

だが、龍子は以前の自分とは違うと確かに自覚していた。自分は実質「ポインセチア」のリーダーになってしまったのだ。そうだ、彼らの元に向かわないと。


相田小見郎は夕陽を背に振り向く瑠田龍子を見た。龍子は言う。

「これから、大変よ。」

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