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「それは本当の話?」
と小見郎は訊ねた。龍子は答えた。
「うん。あと、“回路人間”かどうかを知る技術を発明したとか言ってる。」
「でも…それってどうやるつもりなんだ…」
「分からない…なんか、向こうの人たち、パソコンじゃなくて紙でデータを作ってるみたい。だから分からないけど…」
「注意は必要だな。僕たちもうかうかとこうしてられないな。」
糸束だった二人は元の姿に戻った。そして部屋を出た。
数日後。
「いま、この地球上で、悪い虫が住み着いております!」
トラックに乗りながらそう演説している男がいた。龍子と小見郎は立ち止まった。男は言い続ける。
「虫と言っても、一見そうは見えない。こやつは人間に化けて隠れておるのです。が、正体を見れば一目瞭然!正真正銘の化け物でございます!皆が知ってる“回路人間!”」
トラックの周りの支持者とおぼしき人々が拍手した。
「その目的はなんなのか?あの触手を見れば分かるでしょう!奴等はあの醜い触手で我等を取って食おうとしてるのであります。」
歓声が上がった。龍子は逆上し、トラックに向かおうとしたが小見郎に止められた。
「嗚呼なんと恐ろしい!このままだと我々の命が危ない!さあどうすればいい!ご安心下さい、我々があなた達をお守りします!“回路”抹殺の会を応援して下さい!」
「嘘つきめ!」
彼方から大声が聞こえた。別の男がトラックに向かいながら叫んだ。
「お前らは間違った考え方をしている!“回路人間”に食事は必要ない!」
トラックの男が答えた。
「おやおや、そう言うあなたは回路人間ですか?」
「そうだ!」
一同は驚いた。トラックの男は言う。
「そうか、では捕獲しないといけませんな。」
トラックから沢山捕獲隊らしき人々が現れ、男に向かった。だが男は異変に気づいた。どうやら両腕が意図せずして赤い糸状に分裂し始めたらしい。脚も変異し、男は立てなくなった。小見郎は言った。
「あれだ。」
龍子が見ると、なるほどトラックの荷台にレーダーらしき物がある。
「電磁波か超音波かしら…」
「どちらにしろ神経を麻痺して狂わして維持できないようにしてるんだな。」
最終的に全身が紐になって抵抗できない男に、捕獲隊は袋に詰めていった。龍子はひどい、と思ったが、ふと異変に気づいて叫んだ。
「小見郎くん!」
「なんだ!」
「手…」
龍子は自分の右手を見た。右手が糸状に分裂し、元に戻せない。それは腕へとどんどん進行していた。小見郎も同様に崩壊していた。
「レーダーの影響だ!逃げよう!」
物陰にうずくまり、二人は麻痺が収まるのを待った。小見郎は幸い少ししか崩れなかったため、すぐに治ったが、龍子は左腕と右肩まで崩れていた。元に戻そうにも機能しない。向こうの方から誰か啜り泣く声が聞こえる。
そばから小見郎の触手が伸び、龍子の崩れた腕に触れた。
「何してるの?」
「治すおまじない。」
数分経って、龍子の腕は癒えた。二人は立ち上がり、さっきのトラックがあった場所に向かった。
そこに一人の、また別の男がうずくまって泣いていた。見ると、なんと、若草先生であった。
「先生!」
「…あぁ、瑠田龍子さん、相田小見郎くん…」
「どうしたのですか?」
「何でもない…何でもないんだ…」
「何でもないはずありません。まさか、捕まったあの方の事ですか?」
若草先生は目を見開いて龍子を見つめた。
「…いいのか?相田くんの前で言っても。」
「大丈夫です。彼も私と同じです。」
「…!」
相田は軽く会釈をした。若草先生は言った。
「そうか。実は僕も…と言いたい所だが、残念ながら僕は普通の人間だ。はぁ。捕まったあの人は伊綱という親友でね。昔から勇気のある奴だった。彼が“回路”になろうと親交は止まなかった。というか、彼のおかげで“回路”に対する偏見がほぼ無くなったのだよ。」
そういって鼻をかみ、若草先生は話続けた。
「それが、ああいう目にあってしまったのが残念でならない…あの回路抹殺の会は、捕まったら最後だ。普通の人間として忠告するが君たちも気を付けろ。普通の人間は俗っぽい上に残酷なものだ。だが伊綱はいい奴だった…」
若草先生は再び泣き出した。龍子は先生の傍に座り、言った。
「先生…私にできる事は少ないですが…お手をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「何かね…?」
龍子は若草先生の手を握った。そして腕を“回路”に変えて若草先生の手に吸着した。その大胆さに小見郎は驚いた。若草先生は慌てて言った。
「な、何を…」
「“慰め”です。」
若草先生はすぐに何かが自分に流れるのを感じた。これは何であろう…憐れみが先生の心を満たした。なぜであろう、すっかり気分が楽になった。先生は驚きの念で、龍子の顔を見つめた。龍子は微笑んだ。
「良くなったみたいですね。」
そう言って腕を放した。若草先生は接続された腕を見、龍子を見た。そして感謝の念を示すために頭を垂れた。




