黒龍ルナの弱点
昼下がり。
王都の一角にある小さな中庭。
白いテーブルの上には、お茶とケーキが並んでいた。
「えへへ……おいしいね」
シャーロットが嬉しそうに笑う。
その隣。
ルナは静かに紅茶を飲んでいた。
いつも通り無表情。
……なのだが。
視線だけは、皿の上のいちごケーキへ向いている。
フレアがニヤニヤした。
「ねえシャーロット」
「?」
「この子、いちごケーキ大好きなんだよ」
ぴたり。
ルナの動きが止まる。
「……」
ほんの少しだけ眉が動いた。
シャーロットが目を丸くした。
「えっ、本当?」
「ほんとほんと! この前なんて――」
ルナが静かに指を動かす。
フレア:
「限定いちごケーキのために街三つ――」
こつん。
ルナのデコピンが、フレアの額に当たった。
次の瞬間。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
フレアが空へ消えた。
シャーロット:
「ええっ!?」
ルナは静かに紅茶を置く。
「……口が軽い」
「軽くないよ!? 今飛んでったよ!?」
遠くの空で、
「ひどくないー!?」
という声が聞こえた。
ルナは何事もなかったようにケーキを食べる。
ぱく。
シャーロットは思わず笑ってしまった。
「えへへ……」
「……なに」
「なんでもない」
その時。
どさっ。
フレアが庭に降ってきた。
「もー! 本気で飛ばさないでよ!」
「……軽く」
「軽くで城壁越える!?」
フレアは椅子へ座ると、懲りずに笑った。
「でも本当にすごかったんだよ?」
ルナ:
「……」
シャーロット:
「?」
フレア:
「この前ねー、限定いちごケーキ落としそうになって――」
シャーロット:
「うん」
フレア:
「谷に転がり落ちた!」
沈黙。
シャーロット:
「……え?」
ルナ:
「……」
フレア:
「しかもケーキ守りながら!」
シャーロット:
「えぇぇっ!?」
フレアは大笑いする。
「黒龍が! 谷で! ごろごろーって!」
ルナ:
「……殺す」
シャーロット:
「だ、大丈夫だったの……?」
ルナは少しだけ視線を逸らした。
「……ケーキは守った」
フレア:
「本人は岩に刺さってた!」
シャーロット:
「えへへっ……!」
耐えきれず吹き出す。
「だ、だめ……想像したら……っ」
肩を震わせて笑うシャーロットを見て、ルナは少しだけむっとした顔をした。
「……笑いすぎ」
「ご、ごめんね……でも、ルナがケーキ守ってるところ想像したら……っ」
フレア:
「しかもその後、森で動けなくなって――」
シャーロット:
「あ」
ぴたり、と空気が止まる。
シャーロットとルナの視線が合った。
あの日。
森で。
大怪我をして倒れていた黒龍。
シャーロットが初めてルナと出会った日。
フレアがにやっと笑う。
「つまりー」
ルナ:
「……」
フレア:
「シャーロットとの出会いの原因はいちごケー――」
ぴん。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」
再び空へ消えた。
シャーロット:
「あっ……」
ルナは静かに紅茶を飲む。
「……うるさい」
シャーロットは少しだけ笑って。
そして、小さく言った。
「でも……」
「?」
「ケーキのおかげで会えたなら、ちょっと感謝しないとかも」
ルナが固まる。
「……」
シャーロット:
「えへへ」
最近、街へ出るたびに。
シャーロットはよく、いちごケーキを買って帰ってきていた。
ルナは少しだけ目を逸らし。
皿の上のいちごを、静かに食べた。
ぱく。
少しだけ間が空く。
そして、小さく。
「……だから最近、よく買ってくるのか」
シャーロット:
「?」
ルナ:
「……なんでもない」
遠くの空からフレアの声が響く。
「聞こえてるからねー!?」
ルナ:
「……まだ飛びたい?」
「ごめんなさーい!?」
シャーロットは耐えきれず吹き出した。
「えへへっ」
昼下がりの中庭に、柔らかな笑い声が広がった。




