第5節「結論」
夕暮れの聖療院。
窓から差し込む赤い光が、静かに部屋を染めていた。
「……終わったぁ」
シャーロットが机へ突っ伏す。
「お疲れ様です」
エリシアが小さく笑いながら、お茶を置いた。
「ありがとぉ……」
今日も診療は無事終わった。
重症患者はいない。
子供たちは元気に帰っていった。
窓の外からは、楽しそうな笑い声も聞こえる。
「平和だねぇ」
マリアがお茶を飲みながら呟く。
「平和だな」
ルナも静かに頷いた。
少し前までは、考えられなかった光景だった。
崩壊寸前だった聖療院。
届かなかった命。
流行病。
王国改革。
沢山のことがあった。
でも今は。
穏やかな時間が流れている。
「シャーロットー!」
フレアが後ろから抱きついてくる。
「ふぇっ!?」
「今日も頑張ったねー!」
「わ、わぁっ!?」
相変わらず勢いがすごい。
でも。
嫌じゃなかった。
「……えへへ」
自然と笑ってしまう。
その時。
コンコン、と扉が叩かれた。
「失礼します」
修道女だった。
「地方定期報告です」
「ありがとう」
受け取る。
ぱらり、と紙をめくる。
『今年も死亡率改善』
『地方診療継続中』
『教育班増員完了』
知らない場所。
見えない人たち。
でも。
ちゃんと続いている。
「……届いてる」
小さく呟く。
昔は。
見える範囲しか救えないと思っていた。
目の前へ手を伸ばすことしか出来なかった。
全部を救えないことが苦しかった。
届かなかった人が怖かった。
でも。
「……今は違うね」
シャーロットが静かに笑う。
「へ?」
フレアがきょとんとする。
「私が見えてなくても」
「ちゃんと誰かが支えてくれてるから」
地方診療所。
教育班。
巡回医療。
繋いでくれる人たち。
沢山の誰か。
「……うん」
エリシアが優しく頷く。
「皆で繋いできましたから」
その言葉に。
シャーロットは少しだけ目を潤ませた。
最初は小さな診療所だった。
スラムの片隅。
届く範囲だけ。
それでも。
手を伸ばし続けた。
支えられながら。
助けられながら。
少しずつ繋がっていった。
「……結局」
シャーロットは窓の外を見る。
夕焼けに染まる王都。
遠くで遊ぶ子供たち。
穏やかな街。
「一人じゃ無理だったなぁ」
小さく笑う。
その時。
「当然だ」
レオンが即答した。
「ふぇっ!?」
またいつの間にかいた。
「びっくりするからやめてよぉ!」
「慣れろ」
「むりぃ!」
フレアが笑い転げている。
騒がしい。
でも。
暖かい。
それが今のシャーロットには、とても大切だった。
夕日が沈んでいく。
今日もどこかで。
誰かが誰かを支えている。
見えない場所でも。
見えない誰かが。
きっと誰かを救っている。
少女はもう、“見える範囲しか救えない”とは思っていなかった。
それでも。
今日も変わらず、目の前の誰かへ手を伸ばしている。
――それが、シャーロットという少女だった。




