第4節「見えない救い」
春の終わり。
柔らかな風が、地方の小さな村を吹き抜けていた。
「次の方どうぞー!」
簡素な診療所。
そこで働いているのは、中央聖療院で教育を受けた若い修道女だった。
「熱は下がってますね」
「お薬ちゃんと飲めましたか?」
「うん!」
小さな子供が元気よく頷く。
以前なら。
この村に医療はほとんどなかった。
高熱が出ても、祈るしかない。
流行病が広がれば、多くが倒れていた。
でも今は違う。
「消毒終わりましたー!」
「隔離室準備出来てます!」
人が動いている。
知識が繋がっている。
誰かが支えている。
「……すごいなぁ」
年老いた村人が、しみじみ呟く。
「前はこんな場所、誰も来なかったのに」
診療所の壁には、小さな紋章が描かれていた。
中央聖療院。
そして。
その下には、小さな文字。
『見える範囲から、少しずつ』
最初は、小さな言葉だった。
でも今は。
王国中へ広がり始めている。
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その頃。
王都・聖療院。
「地方定期報告です!」
修道女が大量の書類を運んでくる。
「わぁ、増えたねぇ……」
シャーロットが苦笑する。
机の上には、各地からの報告。
『北部地方安定』
『巡回診療継続』
『今年の死亡率さらに減少』
知らない場所。
会ったこともない人たち。
でも。
確かに繋がっている。
「……届いてる」
ぽつり、と零れる。
昔は。
見える範囲しか救えないと思っていた。
目の前へ手を伸ばすことしか出来なかった。
でも今は違う。
自分が見えていなくても。
誰かが繋いでくれている。
「シャーロット様」
エリシアが静かに一枚の手紙を差し出した。
「これ、地方の子供からです」
「子供?」
開く。
そこには、少し歪な文字。
『せいじょさまへ』
『ぼくのおとうとがたすかりました』
『ありがとうございます』
「……っ」
胸が少し熱くなる。
知らない子。
知らない村。
でも。
ちゃんと生きている。
「……えへへ」
自然と笑みが零れた。
その時。
窓の外から、子供たちの笑い声が聞こえてくる。
王都でも。
地方でも。
沢山の場所で。
誰かが支えられている。
「……不思議だね」
シャーロットが小さく呟く。
「何がだ」
ルナが静かに聞き返す。
「前は、“見えない場所”って遠かったから」
届かなかった。
諦めるしかないと思っていた。
でも今は。
ちゃんと繋がっている。
「……皆のおかげだね」
シャーロットが小さく笑う。
誰か一人の奇跡じゃない。
支える人。
教える人。
繋ぐ人。
沢山の手が重なっている。
夕日が、聖療院を優しく染めていた。
少女は今――
“見えなくても救われている人たち”が確かに存在することを、穏やかに感じていた。




