第2節「小さな診療」
午後の聖療院。
窓から柔らかな光が差し込んでいる。
「次の方どうぞー!」
修道女の声が響く。
以前より落ち着いたとはいえ、聖療院は今日も忙しかった。
「こんにちはー」
シャーロットが小さく笑いながら椅子へ座る。
目の前には、小さな女の子。
少し緊張している。
「お腹いたいの?」
「……うん」
女の子は小さく頷いた。
母親も不安そうだ。
「大丈夫、ちょっと見るね」
シャーロットは優しく手を添える。
淡い光。
昔ほど無理に力を使うことはない。
必要な分だけ。
丁寧に。
「……うん、少し冷えちゃったみたい」
「ひえ?」
「お腹冷えたの」
女の子がきょとんとしている。
その様子に、母親が少し笑った。
「温かいスープ飲もうね」
「……うん!」
不安そうだった顔が、少しだけ明るくなる。
「はい、これお薬」
シャーロットが小さな包みを渡す。
「にがくない?」
「ちょっとだけ」
「やだぁ……」
女の子がしょんぼりした。
その瞬間。
「シャーロットも薬嫌いだったよねー!」
後ろからフレアの声が飛んでくる。
「ふぇっ!?」
「マリアの薬から逃げてたー!」
「ふ、フレアぁ!!」
完全に暴露された。
母親が思わず吹き出す。
女の子もくすっと笑った。
「……じゃあがんばる」
「えらい!」
シャーロットが嬉しそうに笑う。
診療が終わり、親子が帰っていく。
「ありがとうございました!」
深々と頭を下げる母親。
女の子も一生懸命手を振っていた。
「ばいばーい!」
ぱたぱたと去っていく小さな背中。
「……えへへ」
シャーロットは自然と笑っていた。
「嬉しそうだな」
ルナが静かに言う。
「だって元気そうだったから」
小さな診療。
小さな笑顔。
でも。
シャーロットにとっては、それがずっと大切だった。
「全国展開だー」
「国家運営だー」
フレアがわざとらしく言う。
「でも結局、こういう顔してる時が一番シャーロットっぽいよね」
「……そうかも」
シャーロットは少し照れながら笑った。
どれだけ仕組みが広がっても。
どれだけ王国が変わっても。
目の前の誰かへ手を伸ばしたい気持ちは変わらない。
「シャーロット様」
修道女が新しい書類を持ってくる。
「地方診療所の定期報告です」
「ありがとう」
ぱらり、と開く。
『子供たちの健康状態安定』
『今年も冬季死亡率改善』
知らない村。
知らない子供たち。
でも。
ちゃんと繋がっている。
「……届いてる」
小さな呟き。
昔は、見える範囲しか救えないと思っていた。
でも今は違う。
見えない場所でも。
誰かが支えてくれている。
誰かが繋いでくれている。
聖療院の窓から、優しい風が吹き込む。
少女は今――
“目の前の小さな救い”を大切にしながら、“見えない場所へ届く救い”を穏やかに見守っていた。




