第5節「全国展開(上)」
王国各地へ、少しずつ変化が広がっていた。
「中央式衛生教育、導入完了しました!」
「巡回診療班、北部地方へ到着!」
報告書が次々と王城へ届く。
以前は王都だけだった。
だが今は違う。
診療所。
教育施設。
衛生指導。
少しずつ、“救いの仕組み”が王国全体へ広がり始めていた。
「……すごい」
シャーロットが王国地図を見ながら小さく呟く。
赤かった空白地帯が、少しずつ埋まっている。
「ここも診療所出来たんだ……」
「地方側で教育役も育ってきたからな」
レオンが静かに言う。
「中央依存を減らせるようになってきた」
それが大きかった。
今までは、中央から人を送らなければ回らなかった。
でも今は違う。
地方側でも人が育ち始めている。
「この村なんてねぇ」
マリアが嬉しそうに資料を見せる。
「前は高熱出たら祈るしかなかったんだよ」
「……」
「でも今は初期対応出来る」
「消毒も隔離も理解され始めた」
その結果。
流行病による死亡率は大きく下がっていた。
「……届いてる」
シャーロットがぽつりと呟く。
自分はそこへ行っていない。
でも。
確かに届いていた。
その時。
「失礼します!」
修道女が慌てて部屋へ入ってくる。
「東部地方より感謝状が!」
まただ。
最近、本当に増えた。
「読んでいい?」
「もちろんです!」
封を開く。
中には、少し不器用な文字が並んでいた。
『子供たちが助かりました』
『今年は冬を越えられそうです』
「……っ」
胸が少し熱くなる。
知らない人。
会ったこともない。
でも。
ちゃんと生きている。
「……えへへ」
自然と笑みが零れた。
その様子を見ながら。
エリシアも小さく目を細める。
「最近、その顔増えましたね」
「へ?」
「“届いてる”って実感した時の顔です」
少し照れる。
「……だって嬉しいもん」
小さな声だった。
最初は、本当に目の前しか見えていなかった。
でも今は違う。
教育が繋がって。
人が育って。
救いが広がっている。
「……ただ」
レオンが静かに資料を閉じる。
空気が少し変わる。
「まだ問題は多い」
地方格差。
物資不足。
交通問題。
貴族側反発。
全部解決したわけじゃない。
「全国規模になれば、当然綻びも増える」
「……うん」
シャーロットも頷く。
簡単じゃない。
でも。
止まるわけにはいかなかった。
なぜなら。
“届く”ことを知ってしまったから。
少女は今――
王国全体へ広がり始めた救いの重さと、その責任を少しずつ理解し始めていた。




