第4節「国家運営」
婚約発表から数週間。
シャーロットの生活は、目に見えて変わっていた。
「……むずかしい」
机へ突っ伏しながら、小さく呟く。
目の前には大量の書類。
『地方予算配分』
『医療班人員調整』
『穀物備蓄計画』
頭が痛い。
「逃げるな」
レオンが淡々と言った。
「むりぃ……」
「まだ始まったばかりだ」
容赦がない。
「なんで国家運営ってこんな難しいの……」
「国家だからだ」
そのまますぎる返答だった。
エリシアが横で小さく苦笑する。
「でも大分慣れてきましたよ」
「ほんと?」
「最初は数字見ただけで固まってました」
「うぅ……」
否定できない。
最初は本当に意味が分からなかった。
でも。
最近少しずつ理解出来るようになってきた。
「医療だけでは回らない」
レオンが資料を広げながら言う。
「食料」
「物流」
「衛生」
「地方経済」
「全部繋がってる……」
「そうだ」
流行病対策一つでも。
食糧不足が起きれば崩れる。
物流が止まれば薬も届かない。
地方財政が壊れれば診療所維持も出来ない。
「……難しいね」
シャーロットがぽつりと呟く。
今までは、“目の前の人を助ける”で精一杯だった。
でも国を支える側になると、見なければいけないものが増える。
「だから役割分担する」
レオンが静かに言う。
「全部一人で見る必要はない」
その言葉に。
シャーロットは少しだけ目を瞬かせた。
「……前なら絶対、一人で抱えてた」
「知っている」
即答だった。
「だから今のお前は成長した」
「……えへへ」
少し照れる。
その時。
マリアが書類を持って部屋へ入ってくる。
「地方医療班の追加報告だよー」
「また増えてる……」
「増えるよぉ」
マリアが地図を広げる。
王国全体へ、少しずつ診療所が増えている。
教育区域も拡大していた。
「ここ、前まで医療空白地帯だったんだけどね」
指差されたのは山間部だった。
「巡回診療始めたら死亡率かなり下がった」
「……届いたんだ」
シャーロットが小さく呟く。
知らない場所。
会ったこともない人。
でも。
救いは広がっている。
「まだ足りないがな」
ルナが静かに言う。
「地方差は残っている」
「うん」
シャーロットも頷く。
全部解決したわけじゃない。
今も届いていない場所はある。
でも。
前よりずっと前へ進んでいた。
「……不思議」
シャーロットが少し笑う。
「昔は、自分で助けなきゃって思ってたのに」
今は違う。
教育する人がいる。
支える人がいる。
繋ぐ人がいる。
「それが国家運営だ」
レオンが静かに言う。
「個人ではなく、仕組みで支える」
その言葉に。
シャーロットはゆっくり王国地図を見る。
広い。
本当に広い。
でも。
一人じゃないなら、届くかもしれない。
少女は今――
“目の前の救い”だけではなく、“国全体を支える救い”を学び始めていた。




