第5節「廃嫡」
王都中へ、その知らせが広がったのは数日後だった。
『第一王子アルベルト殿下、王位継承権剥奪』
王城前。
市場。
酒場。
人々がざわついている。
「まさか本当に……」
「時代変わるな……」
驚きの声。
不安の声。
そして。
どこか納得したような空気もあった。
「……」
その頃。
シャーロットは聖療院の一室で、静かに知らせを読んでいた。
「……廃嫡」
小さく呟く。
重い言葉だった。
「正式決定したらしい」
レオンが静かに言う。
表情は変わらない。
でも。
どこか疲れて見えた。
「……殿下」
シャーロットは少し迷ってから口を開く。
「嬉しい?」
部屋が静まる。
フレアも口を閉じた。
ルナは静かに窓際で外を見ている。
「……分からない」
珍しい返答だった。
レオンは少しだけ目を伏せる。
「私は兄上を嫌っていたわけではない」
静かな声。
「むしろ優秀だと思っていた」
国家を見る力。
均衡感覚。
冷静さ。
王族として必要なものを、アルベルトは確かに持っていた。
「……でも」
シャーロットが小さく呟く。
「届かなかった」
「ああ」
レオンが静かに頷く。
「時代が変わった」
それが全てだった。
聖療院。
地方医療。
教育。
仕組み。
“見えない場所へ届く救い”。
王国はもう、以前のままではいられなくなっていた。
「……」
シャーロットは静かに窓の外を見る。
王都の人々。
賑わう街。
少しずつ変わっていく空気。
「……アルベルト殿下は」
ぽつり、と零れる。
「悪い人じゃなかったよね」
その言葉に。
レオンは少しだけ目を細めた。
「ああ」
短い返事だった。
「だから苦しい」
部屋の空気が静かになる。
もし悪人なら簡単だった。
でも違う。
アルベルトは、彼なりに王国を守ろうとしていた。
ただ。
“届かなかった”。
「……兄上は」
レオンが静かに続ける。
「均衡を守ろうとした」
それは王として正しい考えだった。
だが。
「今の王国は、それだけでは足りなかった」
静かな現実だった。
その時。
外から子供たちの笑い声が聞こえてくる。
聖療院へ通う子供たち。
助かった命。
広がった救い。
「……」
シャーロットは小さく胸へ手を当てる。
全部が正しいわけじゃない。
今も足りない。
でも。
確かに変わった。
「……時代ってすごいね」
ぽつり、と零れる。
レオンは小さく息を吐いた。
「人が変える」
静かな声だった。
「お前みたいにな」
「ふぇっ!?」
急に振られてシャーロットが固まる。
「わ、私そんな大したこと――」
「ある」
即答だった。
逃げ道がない。
フレアが後ろで笑い転げている。
「シャーロット顔真っ赤ー!」
「うぅぅ……!」
騒がしい。
でも。
少しだけ空気が柔らかくなる。
王国は変わり始めている。
それはきっと。
小さな少女が、何度も手を伸ばし続けた結果だった。




