第4節「崩壊(下)」
数日後。
王城・大広間。
重たい空気が満ちていた。
王族。
高位貴族。
中央教会関係者。
王国中枢が集まっている。
「……」
アルベルトは静かに前を見ていた。
その表情は落ち着いている。
だが。
空気は明らかに違った。
「北部地方より正式要請」
「第二王子殿下主導の医療改革支持」
「西部地方でも同様です」
次々読み上げられる報告。
改革支持。
聖療院支持。
地方支援継続要請。
止まらない。
「……民衆支持率も第二王子殿下側が上回っています」
ざわめきが広がる。
以前なら考えられなかった。
第一王子は“次期国王”として当然視されていた。
だが今。
空気が揺れている。
「……」
国王は静かに玉座へ座っていた。
年老いた王。
だが、その視線は鋭い。
「アルベルト」
低い声が響く。
「お前はどう見る」
大広間が静まる。
全員が第一王子を見る。
「……」
アルベルトはゆっくり息を吐いた。
そして。
「私は、国家運営において均衡が必要だと考えています」
静かな声だった。
「過度な改革は必ず歪みを生む」
貴族側が少し頷く。
それも事実だった。
急激な変化は反発を生む。
財政負担もある。
「ですが」
アルベルトは静かに続ける。
「現状、成果が出ていることも理解しています」
空気が揺れる。
貴族たちがざわついた。
「兄上」
レオンが小さく目を細める。
「私は、救済そのものを否定しているわけではありません」
アルベルトの声は落ち着いていた。
「ただ、国家は感情だけで動いてはいけない」
それは本音だった。
この国を守るための考え。
だが。
「では聞こう」
国王が静かに言った。
「今までの均衡で、救えたか?」
その瞬間。
空気が凍った。
「……」
アルベルトは言葉を止める。
「地方の流行病」
「医療不足」
「貧困地域」
国王の声は低い。
「見えていなかった場所を、今の改革は動かしている」
静かな現実だった。
大広間が沈黙する。
「……」
アルベルトはゆっくり目を閉じた。
分かっている。
数字は見た。
成果も。
民の声も。
だから苦しかった。
「……私は」
小さく声が漏れる。
「間違っていたのでしょうか」
初めてだった。
第一王子が、迷いを見せた。
大広間が静まり返る。
「間違いではない」
意外だった。
そう言ったのはレオンだった。
「……レオン」
「兄上は国家を見ていた」
静かな声。
「だが、見えていなかった場所もあった」
その言葉が、重く落ちる。
アルベルトは静かに弟を見る。
「……そうか」
ぽつり、と零れた。
怒りはない。
憎しみも。
ただ。
時代が変わってしまった。
それだけだった。
大広間の窓から、夕日が差し込んでいる。
王国は今。
静かに、新しい時代へ動き始めていた。




