第6節「広がる医療(下)」
地方教会への教育支援が始まってから、数ヶ月。
聖療院の中にも、少しずつ変化が現れ始めていた。
「地方北部、感染症抑制成功です!」
「西区域からも医療班派遣要請来ています!」
報告書が次々運び込まれる。
以前なら、王都だけで手一杯だった。
でも今は違う。
「……増えてる」
シャーロットが地図を見ながら小さく呟く。
赤かった感染区域が、少しずつ減っている。
代わりに、小さな青印が増えていた。
簡易診療所。
教育済み区域。
衛生管理導入地域。
「地方教会側でも、かなり回り始めてるねぇ」
マリアが感心したように言う。
「最初は反発も多かったけど」
「“手洗いで病気減ります”とか信じない人多かったからねー」
フレアが苦笑する。
「でも結果が出始めた」
ルナが静かに言った。
それが大きかった。
助かった人。
減った死者。
数字として結果が見え始めている。
「……」
シャーロットは報告書を見つめる。
そこには、自分の知らない村の名前が並んでいた。
行ったこともない場所。
会ったこともない人たち。
でも。
確かに救いが届いている。
「不思議……」
ぽつり、と零れる。
「私、そこに行ってないのに」
「だから“仕組み”だ」
レオンが静かに言う。
「個人の奇跡では限界がある」
「だが知識は広がる」
教育。
衛生。
医療。
回復魔法。
全部を繋げていく。
「今後は地方側で教育役も育成する」
レオンが地図へ印を付ける。
「中央依存を減らす」
「……殿下、ほんと容赦なく広げるよね」
「止まればまた崩壊する」
即答だった。
でも。
今ならシャーロットも少し分かる。
続けるには必要なのだ。
「シャーロット様!」
修道女が嬉しそうに駆け込んでくる。
「南部地方の診療所からです!」
差し出された手紙。
開く。
そこには、幼い文字も混ざっていた。
『おくすりありがとうございました』
『ねつがなおりました』
「……っ」
シャーロットの目が少し潤む。
知らない子供。
会ったこともない。
でも。
ちゃんと届いていた。
「……えへへ」
自然と笑みが零れる。
その様子を見ながら。
エリシアも小さく微笑んだ。
「嬉しそうですね」
「……うん」
シャーロットは手紙を胸へ抱く。
「届くんだなって」
自分が直接行かなくても。
自分が全部やらなくても。
皆で繋げれば。
ちゃんと届く。
「……成長したな」
ぽつり、とルナが言った。
「へ?」
「前なら全部自分で行こうとしていた」
「うぅ……」
否定出来ない。
でも今は違う。
頼る。
任せる。
繋ぐ。
少しずつ覚えてきた。
窓の外では、夕日が王都を染めている。
聖療院はまだ忙しい。
問題も多い。
それでも。
確かに救いは広がり始めていた。
少女は今――
“自分だけでは届かなかった場所”へ、皆と一緒に手を伸ばし始めていた。




