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第3節「強制休暇(上)」

 数日後。


 シャーロットは本当に連行されていた。


「ほんとに来ちゃった……」


 空の上。


 冷たい風が頬を撫でる。


 フレアの背中へ乗りながら、シャーロットは小さく呟いた。


「当然だ」


 隣を飛ぶ黒龍姿のルナが静かに返す。


「お前は放置すると戻る」


「うぅ……」


 否定出来ない。


 実際、隙があれば聖療院へ戻ろうとしていた。


「エリシアもマリアも本気だったからねー!」


 フレアが楽しそうに笑う。


『絶対に休ませてください』


 出発前のエリシアの真顔が脳裏をよぎった。


「……みんな結託してる」


「当然」


 またルナが即答した。


 容赦がない。


 やがて。


 眼下へ広がる景色が変わり始める。


 王都はもう見えない。


 代わりに見えてきたのは、深い森だった。


「……わ」


 シャーロットが小さく目を見開く。


 山奥。


 人の気配がほとんどない。


 静かな自然だけが広がっている。


「着くぞ」


 ルナが先に降下していく。


 その先。


 森の奥には、大きな湖があった。


 透き通る水。


 静かな湖面。


 風に揺れる木々。


 まるで別世界みたいだった。


「……綺麗」


 ぽつり、と零れる。


 フレアがどや顔した。


「でしょー!」


「フレアが作った場所じゃないよね?」


「雰囲気!」


 意味が分からない。


 湖畔へ降り立つ。


 静かだった。


 本当に静か。


 人の声がない。


 助けを求める声も。


 泣き声も。


 何も聞こえない。


「……」


 シャーロットは少しだけ落ち着かない気持ちになった。


 静かすぎる。


 何も起きていない。


 それが逆に不安だった。


「……戻らなくて大丈夫かな」


 小さく呟く。


「大丈夫だ」


 ルナが静かに言う。


「聖療院は回っている」


「でも……」


「お前がいなくても止まらない」


 その言葉が少し胸へ刺さる。


 分かってる。


 仕組みを作ってきた。


 皆も頑張ってる。


 でも。


 まだ少し怖かった。


「……患者さん苦しくなってないかな」


 ぽつり、と零れる。


 その瞬間。


 フレアが後ろからむにーっと頬を引っ張った。


「ふにゃっ!?」


「今は休みー!」


「ふ、ふれあぁ……!」


「今日は救わなくていいの!」


 珍しく少し強めの声だった。


 シャーロットが目を丸くする。


「……」


 フレアは少しだけ頬を膨らませる。


「シャーロット、最近ずっと苦しそうだった」


 その言葉に。


 胸が少し痛んだ。


「だから今日は休む」

「命令!」


「命令なんだ……」


「命令!」


 ルナも静かに頷く。


「まず身体を戻せ」


 シャーロットは小さく湖を見る。


 風が吹く。


 湖面が静かに揺れる。


 穏やかだった。


 なのに。


 心の中だけ、まだ落ち着かない。


 少女は今――


 初めて、“何もしなくていい時間”へ放り込まれていた。

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