第2節「教育」
強制休養命令。
それが決まった翌日。
「絶対まだ働けるのに……」
シャーロットはベッドの上で小さく膨れていた。
「働けません」
エリシアが即答する。
「顔色見てください」
「むぅ……」
反論出来ない。
実際、身体はまだ重かった。
聖力消耗も完全には戻っていない。
「でも皆忙しいし……」
「だからこそ教育です」
「教育?」
エリシアは書類を机へ広げた。
そこには、簡単な手順書が並んでいる。
『感染症初期対応』
『軽症患者の安定化』
『衛生管理手順』
「……増えてる」
「増やしました」
エリシアはさらっと答える。
「マリア先生監修です」
その時。
「呼んだかい?」
マリアが部屋へ入ってくる。
相変わらずタイミングがいい。
「今までは経験頼りだったんだよ」
椅子へ座りながら言う。
「見て覚えろ」
「慣れろ」
「感覚でやれ」
それが今までの中央教会だった。
「でもそれじゃ広がらない」
シャーロットが小さく目を瞬かせる。
「……あ」
分かってきた。
「だから共有する」
マリアが頷く。
「知識も」
「対応も」
「判断基準も」
全部。
一部の人だけが持っていても意味がない。
「再現性ですね」
エリシアが静かに言う。
「誰がやっても、ある程度同じ対応が出来る状態を作る」
それが今の聖療院の目標だった。
「……すごい」
シャーロットがぽつりと呟く。
前なら考えもしなかった。
自分で治すことばかり見ていたから。
「教育が始まれば地方展開も可能になる」
レオンの声だった。
いつの間にか部屋へ入ってきている。
「うわっ」
「失礼だな」
「いつも静かに入ってくるから……」
「ノックはした」
聞こえてなかっただけだった。
「地方教会側からも要請が来ている」
レオンが書類を机へ置く。
「感染症対策」
「衛生管理」
「初期対応教育」
中央だけでは足りない。
地方にも広げる必要がある。
「……見えない場所」
シャーロットが小さく呟く。
自分では直接見に行けない場所。
届かなかった場所。
でも。
仕組みなら届くかもしれない。
「だから教育だ」
レオンが静かに言う。
「お前一人では限界がある」
「うぅ……」
最近そればっかり言われてる気がする。
でも。
否定は出来なかった。
「……でも嬉しい」
シャーロットが小さく笑う。
「私がいない場所でも、助かる人増えるなら」
その言葉に。
部屋が少し静かになる。
マリアがふっと笑った。
「本当に根っこ変わらないねぇ」
「え?」
「自分のことより他人」
「うぅ……」
また否定出来ない。
その時。
「だから休ませる」
ルナが静かに言った。
窓際からこちらを見ている。
「……まだその話続いてるの?」
「当然だ」
「えぇ……」
フレアが後ろでにやにや笑う。
「山奥連れてくからねー!」
「ほんとに行くのぉ!?」
「行く」
ルナが即答した。
逃げ道は、もう完全になくなっていた。




