第1節「再現性」
シャーロットが倒れてから、一週間。
聖療院は以前ほどの混乱こそないものの、慌ただしい空気が続いていた。
「次の患者さんどうぞ!」
「薬品補充お願いしまーす!」
「隔離区画、消毒完了しました!」
人の声が飛び交う。
だが。
以前と決定的に違うことがあった。
「……回ってる」
ベッドの上で身体を起こしたシャーロットが、小さく呟く。
窓の外。
聖療院の現場は動いていた。
自分がいなくても。
「当たり前です」
エリシアがぴしゃりと言う。
「あなたは絶対安静です」
「うぅ……」
即座に怒られた。
「でも、患者さん……」
「現場は回っています」
きっぱり。
「今は休んでください」
その声には、一切譲る気がなかった。
「……」
シャーロットは少しだけ窓の外を見る。
修道女たちが動いている。
医療班が薬を運んでいる。
回復術師が患者対応している。
以前なら。
自分がいなければ止まると思っていた。
でも違った。
「……すごい」
ぽつり、と零れる。
その時。
「当然だ」
低い声。
レオンだった。
「再現性を作ったからな」
書類を片手に部屋へ入ってくる。
相変わらず仕事人間みたいな顔だった。
「再現性……」
「誰か一人しか出来ない状態は脆い」
レオンが静かに言う。
「だから分担する」
「教育する」
「共有する」
それが今の聖療院だった。
「……」
シャーロットは静かに聞いている。
以前は。
“自分が頑張る”しか知らなかった。
でも今は違う。
「聖女が倒れた瞬間終わる組織など欠陥だ」
容赦ない。
「うぅ……」
「実際倒れただろ」
反論できなかった。
その時。
マリアが部屋へ入ってくる。
「ほら薬」
「にがいやつ?」
「にがいやつ」
「うぅぅ……」
完全に逃げ場がない。
フレアが後ろで笑い転げている。
「シャーロット子供みたーい!」
「フレアぁ……」
ルナは窓際で静かに腕を組んでいた。
「だが悪くない」
「……へ?」
シャーロットが顔を上げる。
「お前が休んでも回っている」
静かな声だった。
「それが“仕組み”だ」
その言葉が、胸へゆっくり落ちていく。
今までは怖かった。
自分が止まったら終わる気がして。
でも。
今、ちゃんと回っている。
問題はまだある。
足りないものも多い。
それでも。
“皆で繋いでいる”。
「……えへへ」
小さく笑みが零れた。
少し安心した。
その時。
「安心したところで休暇だな」
レオンがさらっと言った。
「……へ?」
部屋が静まる。
「強制休養命令だ」
「聖療院への出入りも制限する」
「えぇっ!?」
シャーロットが飛び起きかける。
「だ、大丈夫だよ!? もう動けるし!」
「駄目だ」
ルナが即答した。
「反省していない」
「うぅ……」
逃げ道がない。
「というわけで」
フレアがにこーっと笑った。
「しばらく拉致りまーす!」
「拉致!?」




